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異世界:コンティニュー  作者: マキナ
第1章ーーおはよう“異世界“ーー
5/10

シタッカ村へようこそ!

「シタッカ村へ、ようこそ!」


 村の入口へ来たところで、エノクが声を張る。

 結構な距離を歩いたはずなのに、どこから元気が湧いてくるんだか。

 軽く息が上がっている僕の隣で、姉のリュッカも呆れている。


 ここは一見して、村の入り口に違いない。

 ーーというのも、延々と続く平野を切り離すように、大木の塀が築かれている。おまけに堀も掘ってあって、そこには尖った木の槍がいくつも生えていた。……こういうの歴史の教科書で見たことがある。確か、環濠集落だったか。外界にまざまざと向けられた威力に思わず唾を飲む。

 立ち並ぶ塀のそばを歩くと、やがて、あるべき門が見えた。

 門の脇には、褐色の肌と白い髪の大人が二人、待ち構えている。

 

 ……さて、ここからどうなるか。

 すんなり通してくれればいいが、それでもタダとはいかないだろう。

 一応、余計にあるポケットを探ってみた。しかし、手応えはなかった。

 こんなことなら、死神に無心しておけばよかった。

 少しの金品ぐらい持たせてくれてもよかっただろうに。

 そんな状況も含めてヤツは楽しんでいるのかも。

 ならば、そこで見ていろと天をひと睨みした。


 ……通行料を要求されたら服を脱ぐ。必要であれば、パンツ以外を全て脱ぐ。

 学生服だって、それなりの値段はするんだ。通行料になる可能性はある。

 リュッカとエノクには悪いが、そうなれば、ほぼ全裸の僕を案内してもらうことになる。

 屋根があるなら、牢屋で過ごすのもアリか。


「門番さん、お疲れ様です!」

「おお、エノクか。相変わらず元気だな」

「新しい友達が出来たからね」

「友達?」


 門番の視線がこちらへ向く。

 その瞬間、門番の目つきが険しくなった。


「初めまして。エノクの友達の、アダムと申します」

 

 聞かれるでもなく、新しい名前を名乗ってお辞儀をした。

 現世と変わらず、いかにも謙虚そうな少年になりすます。

 身についた習慣というのは、そうそう体が忘れない。


「……エノク、彼をどこから連れて来た?」

「棺の森だよ」

「森に住んでるわけじゃないだろう。どの村からだ?」

「だから、あの森の石棺から生き返ったんだよ」

「エノク、冗談はやめなさい。真剣に聞いているんだ」

「でも、そうとしか言えないよ。お兄ちゃんは生き返ったんだから」


 エノクは飄々と答える。

 まさか、そこまで正直に答えるとは思わなかった。

 しかし、二人が誤魔化しても、僕が尋問を受ければすぐにボロが出る。

 ここは正直に徹してもらったほうが、得策だろう。


「もういい、わかった。……リュッカ、本当のことを教えてくれ」

「だから!」

「……待ってエノク、私が答える。エノクの言う通り、私たちは棺の森でアダムさんを見つけました。生き返ったというのは、見つけた時に心臓が止まっていたからです。……けれど、今日、森に行くとアダムさんは生き返っていました。……なので、アダムさんは棺の森から来た人です」

「お前までそんなことを。……わかった、信じられない話だが、ひとまずは信じよう」


 リュッカは大人相手にも怯まずに、淡々と主張した。

 その姿は、さっきまでの気弱な女の子と、同じ子とは思えないな。

 それから、門番の視線が再びこちらへと向く。ようやく僕の出番だ。


「アダムだったな。一応聞くが、二人の言うことに嘘はないな?」

「はい、全て事実です」

「では、俺からも聞く。なぜ棺の森なんかで死んでた?」

「僕は……自分でも気づかない間に死んでいました。それから、信じられない話ですが、あの世で死神と話したんです。そこで僕はある条件で生き返ることを選びました」

「ある条件?」

「別の世界で生き返ることです。……僕は、こことは違う世界から来ました」

「……」

 

 二人にもまだ言っていない真実を話す。

 そして、門番はついには完全に黙ってしまった。

 僕も、僕と同じことを言うやつがいたら、こんな顔をしていたと思う。


「……なあ、みんなして俺をからかってるのか?」


 ……ですよねー。

 門番さんの反応は至極真っ当だった。

 なんで僕は正直に言おうだなんて考えたんだ?


「信じられないでしょうけど、本当のことなんです」

「そう言われてもな。うーん……とりあえず、門番として、今すぐに君を通すことは出来ない」


「なんで?」とエノクが抗議する。


「多分、君は悪いやつじゃない。しかし、俺は門番として村の安全を守る責務がある。得体の知れないやつを通すわけにはいかない。ーーこの意味は、お前たちもよくわかっているはずだ」

「そうだけど、でも、お兄ちゃんは……」

「それでも今はできない。もし、どうしても通りたいなら、さっきの話を上に報告して考えてみるが……君はどうする?」

「……いえ、結構です。さっきの話は忘れてください。僕は村の外に残ります」

「俺が聞くのもなんだが、どこかアテはあるのか?」

「ないですよ、生き返ったばかりなので。僕には何もありません」

「……悪いな」

「いえ、同じ立場なら僕もそうしていたと思います」

「そうか」


 そうして、少しの間、沈黙が流れた。


「エノク、リュッカ。ここまでありがとうな。あとは自分でなんとかするよ」

「なんとかって、どうするの?」

「そりゃあ、アテのない旅ってやつだ」

「それはダメだよ。お兄ちゃん、どう見ても旅なんて出来そうにないし」 

 

 全くの正論に言い返すことができない。

 しかし、村に入れないなら、野宿でもするしかない。

 門番の人も気まずそうな顔で、こっちを見てるだけだし。

 ……まあ、死神が言ってた“ギフト“とやらもある。なんとでもなるさ。 

 

「……アダムさん、今日はとりあえず、私たちの家に行きましょう」

「え?」

 

 黙っていたリュッカが、そう提案した。


「あ、そっか、家に連れてけばいいじゃん。さすがリュッカ!」

「おいおい、家に行って良いのか?」「おいおい、家に連れて行って良いのか?」


 なぜか、僕と門番の質問がダブる。

 立場が違えど、考えることは同じらしい。


「いいの。……お母さんなら、そうすると思うから」

「わかったよ。ところで、エリカさんは元気か?」

「……うん、元気だよ。私たちの前ではいつもね」

「そうか。何かあったら相談しに来いと、お母さんに伝えといてくれ」

「わかった。……それじゃあ行こう、アダムさん」


 リュッカがこちらを見て、手招きする。

 戸惑いつつも、彼女について行くことにした。

 僕たちは門から離れて、また塀の側を歩いていく。


「……なあ、リュッカ。本当に僕を家に案内するのか?」

「そうだよ。どうして?」

「自分で言うのもなんだが、僕は得体の知れないやつだ。そんなやつを家にあげるなんて、危ないだろ」

「そうかもね。……でも、放り出して死んじゃったら、私たちが殺したのと変わらない気がするから」

「のたれ死んだって、二人を恨んだりしないよ。僕のために無理することなんてない」

「でも……」

「お兄ちゃんもリュッカも、まどろっこしいなー」

 

 後ろを歩いていたエノクが、会話に割って入る。


「困ったときはお互い様でいいじゃん。お母さんもよく言ってるし」

「けど、迷惑をかけるかもしれないし……」

「お兄ちゃん、意外と頑固だね。……もしかして家に来るの嫌なの?」

「まさか」

「じゃあ、大丈夫だね。一緒に晩ごはん食べたら、きっといい方法が思いつくよ!」


 せめて、エノクとリュッカには、迷惑をかけないつもりだったんだけどな。

 二人は迷惑をかけてもいいと、言ってくれている。

 正直、何も知らない世界で一人になるのは恐ろしかった。

 二人の前だから強がっていたけど、そのまま夜を迎えると想像したら、血の気が失せる。

 ……困ったときはお互い様か。当たり前のような言葉なのに、いつの間にか忘れていたな。 


「二人とも、本当にありがとう。この恩は忘れないよ」

「大袈裟だなあ。別にいいのに」

「……本当にね」


 そういって、二人が笑う。

 死神は最後に「最初の出会を大切にしろ」と言っていた。

 あの言葉は、エノクとリュッカのことを指していたのかもしれない。

 大事にするなんて、死神に言われるまでもないことだ。

 僕は必ず、二人に恩を返すと誓った。


 ・・・・・・・・・


 村を隠す塀から離れて、シタッカ村が遠くなった。

 それからも、しばらく歩き続けて、夕暮れ時となる。

 そして、平坦な野の内に、一軒の住居の影が見えてきた。

 近づくと、それは簡素な木造の家屋だとわかる。


「着いた。ここが僕たちの家だよ」


 エノクの言う通り、扉脇の表札には三人の名前が書かれている。

 『エノク』『リュッカ』、そして『エリカ』と。

 さっき門番が口にしていた、二人の母親の名前だ。

 ……そのエリカさんにも、追い出されないといいけど。


 “異世界転生“初日は、村に入ることすら叶わなかった。

 先が思いやられるけども、優しい姉弟と出会えたし、こんな“異世界転生“でもアリかもな。

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