表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界:コンティニュー  作者: マキナ
プロローグ
2/10

死神が笑う

「おはようございます」


 その言葉を聞いたのはいつぶりだろう?

 父は言わないし、母も言わなくなった。当然、僕もそう。


 であるなら、この声の主は誰だ?

 

 ――おはよう、現実(せかい)

 

 いつもの様に心に唱えて、僕は目を開いた。


「よかった、起きましたね」

 

 目覚めた先には、虚空が広がっていた。

 薄暗く、影に包み込まれているような空間。

 そこで僕は目覚めた。

 暗闇の先、視界の中央から声がする。

 微睡む視界に浮かび上がるのは、ぼんやりと光を帯びた何者かだった。


「ようこそ、私たちの面談室へ」


 女性の声。

 薄らと光を帯びた白いフードを被り、女が微笑んでいる。

 女の肌は青白く、まるで死人の様だった。

 

 ……今日は随分と変な夢を見ているな。

 そのくせ、現実かと思うほどに感覚がリアルだ。


「大丈夫ですか?」と彼女は心配そうに尋ねる。 

「あの……」

「なんでしょう?」

「面談室というのは?」

「読んで字の如く、面談をする場のことです。私と亡き魂たちとの」

 

 ……亡き魂だって? 

 そんな珍妙な言葉を聞くのは、祖父を見送って以来だ。

 その時はお坊さんが、講釈をしていた。僕は上の空だった。

 するとやはり、彼女も宗教関係の人なのだろうか?


「亡き魂というのは?」

「死んだ者の魂のことです」

「そうですか」


 読んで字の如くだった。

 僕は辞書と会話したいわけじゃないんだ。

 いい加減、この状況について説明してもらおう。 

 ……そもそも、自分になんの関係があるのかも疑問だ。


「あ、今『この状況と自分になんの関係が?』と思いましたね?」

「な、何で……!?」

「やっぱり。結構いるんですよね、何も知らずにここへ落ちてくる人」

「はあ……どういうことですか?」

 

 小馬鹿にしたように女が言う。

 夢とはいえ、訳もわからず暗いところに放り込まれれば、誰だってそうなる。

 しかも、薄ら光って、意味不明なことを言う女もいるのだ。


「ふむ……これでは話が進みませんね。まずは自己紹介をしましょう」


 女はフードを捲り素顔を晒す。

 鼠色の髪と端正な顔立ちが露わになった。

 その瞳はくすんだ碧眼だった。


「私は“死神“と申します。死を司る神です、以後お見知り置きを」


 優雅に入り礼をして見せる“死神“。

 女がそう名乗ったことで確信した。

 これはさっき読んでた小説から影響を受けた夢だ。

 とうとう“異世界“を夢にまで見る様になったのか、僕は。


「“死神“さんですか。じゃあ、あなたは僕の命を奪いにでも来たんですか?」


 夢とわかれば、死神だろうが悪魔だろうが大したことはない。

 死ぬこともないのだから、当然だ。


「いえ、先ほども申した通り、ここは亡き魂との面談室です。私が殺すことはありえません」

「はあ……じゃあ僕はなぜここに?」

「面談の順番が来たからです。あなたは死にました」


 ……え、死んだって? 僕が? 

 いや、学校から帰って寝ただけですけど?


「死んでないですよ。部屋で寝てただけです。」

「でも、ここにいるということは、()()()()ことですよ」

 

 キッパリと言い切る死神。

 何が()()()()()()なのか。

 意味不明だが……まあ、夢にマジになっても仕方ない。

 ここはひとまず話をあわせよう。そうしよう。


「どうして僕は死んだんです?」

「一酸化炭素中毒、及び重度の火傷によって亡くなりました」

 

 やけに生々しい設定だな。

 火事にでもあったことになってるのか。

 繰り返すけど、本当に寝てただけなんだよ。


「寝てただけで、どうして火傷を?」

「放火です。それが原因であなたの自宅が焼失しました」


 いやいや、ちょっと強引すぎやしないか? 

 そりゃあ、死因が火傷という説明にはなるものの、納得できる訳もない。

 ……せめて、放火犯の名前ぐらいは聞かせてもらわないと。

 

「ちなみに犯人はわかるんですか?」

「ええ、もちろん。死神なので」

 

 死神は呆気なく堪える。

 ハッタリをかましているようには見えない。

 僕は生唾をごくりと飲み下し、死神の口が開くのを待った。


「犯人は、あなたの母親です」

「……は?」

 

 母親? 僕の母さんが家に火をつけたって? 

 ……我ながら、タチの悪い夢だ。気分が悪い。

 くるりと死神に背を向けて、正面になった暗闇の方へと歩き出す。


「どこへ行かれるんですか?」

「ここじゃないどこかだよ。付き合ってられない」

「そうですか。お好きなように」


 引き止めにくるかと思えば、意外と素直に引き下がった。

 なら、お言葉に甘えて目を覚ますとしよう。

 僕は闇の方へと躊躇いなく歩いていく。

 平衡感覚が狂おうと、足場が無くなろうと、夢から覚められればそれでいい。


 どこまでも続く、暗い世界を進んでいく。

 すでに視覚は役に立たず、宙に浮いている感覚になる。

 そこに、僅かに光が灯る。それは蝋燭の灯りのようだった。

 小さな火は……僕の指先で揺らめいている。


「指に火がついてる……どうなってるんだ?」


 その瞬間、火が身体をを駆け巡り、全身を覆う火柱となった。

 身体中を致命的な熱と痛みが蝕む。


「あ、熱い!……燃える!!」

 

 激痛が全てを支配していく。

 体はそれを払おうと、千切れんばかりに自らを振り回す。


「助けてくれ!! 誰か、助けてっ!!!」


 しかし、炎の勢いは治ることなく、意識が遠のいていく。

 全身はすでに黒い塊と化していた。

 

 ・・・・・・・・・

 

「助けて!!!」

 

 叫びと共に意識が覚醒する。目覚めたそこは、先ほどと同じ薄暗い場所だった。


「また会いましたね」


 死神が手を振り込って、微笑んでいる。

 僕は自分の体をまさぐった。

 熱も痛みもない、燃える前の肌に戻っている。

 安堵と共に、涙が溢れ出た。

 ーーよかった、あんな恐ろしいことは夢だったんだ!


「面談をする気にはなりましたか?」

「面談?……グスッ」


 鼻水を啜りながら聞き返す。


「ええ、この先あなたがどうするか。それを私と話しましょう」


 この先って、何のことを言ってるんだ?

 これからまた、さっきみたいなことが起きるのか?

 僕はこの夢を、()()()()()()()()()()と、疑い始めている。

 僕は女の話を、聞かざるを得ない。 


「……面談をお願いします」

「はい、よろこんで」


 こうして、死神と名乗る女との面談が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ