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ロストガール・サードパーティ  作者: ほとまる
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密輸船襲撃 5

 カラン、と音を立てて筒形のスモークが船上へ転がる。


「……ん? なんだ?」


 船員と思しき一人がその音に反応した。


 ボン、と鈍い爆発。


 爆発音と同時に船の一端が煙に包まれた。


「いざ!」


 自らを鼓舞するための一言を残し、ドアを開け、煙の中へと向かった。


 そこそこの大きさの貨物船とはいえ、船の側面まで走るとなるとすぐに縁へ到達した。


「私たちも!」


「おうよ!」


「はい!」


 後発組もタイミングを示し合わせ、イリカ、ユリン、メルコットの順で煙の中へ向かった。


 先発の私は、僅かに煙によって隠れていない視界を頼りに、義手を向こう岸の茂みの木へと発射させ、太い枝を掴んだ。


「侵入者か!」


 流石にここまで大きく事を起こしてしまえば相手方の警備もなりふり構っていられないだろう。


 声を上げながら、白煙の中へと銃を撃ち続けていた。


「リーア!」


 後発の先頭のイリカが私を呼びかける。


「イリカ! こっちだ!」


 普段冷静であろうと心掛けているが、こんな場面では余裕の無さが声に出てしまう。


「二番乗りー!」


 対するユリンはいつもの調子か。全く、その心の強さはどこから来るんだろうか。


「皆さん!」


 後発最後のメルコットの声が銃声の合間から耳に届く。


 これで全員……


「あぁ!」


 一瞬の安堵の束の間、白煙の中でメルコットが倒れ伏した。


「メルコット!」


「あ、足に、銃弾が……」


 船員の放った銃弾がメルコットの足に命中してしまった。


……どうするべきだ……


 ここでメルコットを庇う行動をすると、私を含め他のメンバーにも被害が及んでしまう。


……しかし、誰よりも生還を願ったメルコットを切り捨てることは誰も望んでいない。


「……私の事は気にせず……」


「置いていくかよ!」


 私の考えが纏まる前にユリンがメルコットに駆け寄る。


 ユリンはメルコットの襟を掴み、ひょいと背に乗せた。


「ぜってー連れて帰る!」


 そう言いながらユリンはメルコットをおぶったまま、私の肩を掴んだ。


 私に捕まるだけとはいうものの、水平にかなりの速度で移動するのだ。ユリン自身にかかる負荷も相応なものだ。


 それを一人を片手で抱えながら負荷に耐えるのは並大抵のことじゃない。


「……振り落とされるなよ」


「誰にものを言ってんだ」


 ユリンにとってはそんなこと些細なことに過ぎないのだろう。


 強い。ユリンはとてつもなく強い人間だ。


 少しでも悩んでしまった自分が情けなく感じる。


「準備完了だよ!」


 ユリンの自信満々に笑う。


 向こう岸にたどり着くには義手の力だけでは足りない。


 水平方向の移動は到達まで終始負荷が付き纏う。


 それに義手が耐えられるかと言われれば……おそらく耐えられない。


 何らかの補助が必要だ。


 私は脚部に取り付けられたボタンを押す。


 脚部のユニットが微かな機械音とともに、温度を上昇させる。


「行くぞ!」


 掛け声と共に前方向へジャンプ。


 出力を少しの間だけ上昇させた義足での跳躍だ。


 人間の数倍のジャンプ力を可能とするオーバーパワー。


 これを補助にすれば到達は可能なはずだ。


 義足で地を叩いたのち、義手の引き上げを開始する。


 ユリンは……この負荷に耐えられているが、相当ギリギリなのだろう。


 肩を掴むユリンの手の力がそれを物語っている。


……まあ、私も仲間を心配していられる余裕はないのだけれど。


 跳躍の補助があるとはいえ、腕に負荷がかかり過ぎている。


 肉を引き裂くような鋭い痛みが腕と義手の接合部を襲う。


「うぐっ……」


 声を上げたくなるような痛みだが、耐える。


 弱音なんて吐いちゃダメなんだ。


 痛みに耐えていると、気づけば茂みの真上に到達していた。


「手を離すぞ!」


 同時に木を掴んでいた義手の手を離す。


 確認を取る余裕すらもなかった。


 体は茂みの中へと放り出される。


 受け身は取れなかった。


 そんな余裕すらなかった。


「……っいてて。メルコット、大丈夫か?」


「……はい。私は大丈夫です」


「無論、私も……リーアは?」


「まあ、何とか。なら、茂みの奥へ退避だ。追っ手が来たら……イリカが対応してくれ」


「了解」


 痛みの残る体に鞭を打ち、起き上がる。


「脱出完了。あとは頼む」


 ホルダーから通信機を取り出して、手短に脱出を告げた。


『了解!』


 待っていたと言わんばかりの返答。


 その返答を聞き、私はホルダーに通信機を仕舞う。


 刹那、後方から微かに爆音のようなものが聞こえた。


 少し振り返ると、炎であろう光が船を覆っている。


 濃い紺色の夜を、焼夷弾の炎が煌々と照らす。


 私はその明かりを背に、茂みの中へと歩みを進めた。

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