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ロストガール・サードパーティ  作者: ほとまる
2/6

密輸船襲撃

「リーア!アレです」


 イリカが海上の方へ指を指す。


 そこにあるのはレメニアの商船団。


 人工灯に煌めく街の中、港は街中と比べより一層輝いていた。


 賑わっていると言うか、騒がしいと言うか。まあ、人が多いのだ。


「あの中の一隻が麻薬を運ぶ商船って事ね」


 今回の任務は麻薬密輸船の襲撃。


 襲撃とは言うものの、別に私たちはその麻薬を欲しているわけではない。


 取り締まる、と言った方が良さそうか。


 まあ、私らは警察ではないのだがな。


 望遠鏡で商船付近を確認する。


「……ふむ、大体の積荷は運び込まれた後か。到着が遅かったな」


 手元の懐中時計を確認する。


「……いや、どうやら我々が遅かった訳ではないな。予定よりも連中は早く動いていたか」


「密輸だからね。邪魔が入らないよう予定を早めたんだろ」


「嫌に確定的だな、ユリン」


 同じく望遠鏡で港を見ていたユリンは、いつものようにけだるい雰囲気を醸しながらに言った。


「こういうバレちゃいけないようなものを運ぶ時はどこかに嘘の情報を流し込むものさ。万が一にでも邪魔が入ったらヤバいからね。

ブラフよ、ブラフ」


「経験則か?」


「ええ。スラムに住んでた頃は盗品の受け渡しの際に私がたまに使ってたわ」


「……なるほど。勉強になった」


「いやいや、なんのなんのー」


 ユリンは照れながらに答えた。


「ということは、レメニア商船団を取り仕切る奴は、スラム暮らしの奴らと同等の知能しか持ってない阿呆達か。貴族の低脳さがよくわかる」


「ちょっと、貴族はいいとして私の仲間までバカ呼ばわりするのはやめてくれる?」


「ああ、すまん。他意はない。単に貴族どもをバカにしたかっただけなんだ。高等な教育を受けながらも、教育が受けられない連中と考えることが一緒。どこまで無能揃いなのか」


「本当だよ。貴族は頭の固い連中ばかりなんだから。ちょっとくらい家財盗ったっていいじゃんか。一杯あるんだし」


「それはあまりよろしくないんだがな……」


 ユリンらしい盗賊の様な発想だ。


「……ではどの様にして麻薬を密輸する商船を探し出しますか?」


 メルコットが話を戻す。


「うーん。積荷はすでに運び込まれ、出船まで時間はあまりない。手当たり次第探すしかないかな」


「結構力技ですわね」


「まあ、そうだが、力技をかけられるだけマシだ。相手は商船。軍人の移送船なんかじゃない。護衛は付いているだろうが高が知れている。私たちが相手出来ない訳ではない」


「ですね。私も頑張ります!」


「期待していますよ、お姫様」


「ちょっと、もう私は姫なんかでは……」


「そうだな。もう貴方は姫じゃない。エージェントだ。期待している、メルコット」


「はい!」


 メルコットは元気に返事をした。


「完全にしらみつぶしって訳でもなさそうだ」


 望遠鏡で偵察していたイリカがそう告げた。


「何か見えたか?」


「ええ。確定的な情報ではないのだが、奥から二番目の商船付近に人が多い。何やらあそこだけ雰囲気が違う様に思えた」


 そう言われ、自分でも奥から二番目の商船を望遠鏡で確認する。


「なるほど。言われてみれば護衛の人数も多い。何やら不自然にあたりをキョロキョロしている奴もいるし」


「そうだな」


「あっはっはっは!バカなんじゃねーのあいつら!どう見てもバレバレじゃんか!」


 ユリンが笑い転げる。


「ああ、そうだな。バカばかりだ。戦争の張本人である国に住みながらにこの体たらく。バカ以外の何者でもないな」


 とは言っても、嫌なことは忘れたいと思うのが人間だ。


 戦争という非日常で危険な日々を平和という理想で相殺する……いや、塗り替えようとしていると言った方がいいだろうか。


 平和を求めるのが悪いことではないが、忘れてしまうことは実に愚かしい。


 未だに日常が危険に晒されているという事実を認めようとしないのは逃避以外の何物でもない。


 現実から逃げてはいけないのだ。


「全くその通りですわ」


「ふふっ。そうだな」


「ハンッ、バカばっかだ」


 戦争はバカのすること。


 国としての力を誇示するあまり他国はおろか、自国民や自然環境までもその毒牙にかけてしまう。


 躾の為に我が子を殴るのと同じだ。


 悪とは言わないが、度を超えるならばそれは歪曲する。


 自分たちの思いもよらぬ方向へと進み手のつけられないものとなってしまう。


 愚か。実に愚か。


 こんな筈ではなかった、では済まされないのだ。


 自分たちの愚かさが招いた結果だと言うことを愚かな彼らは認めようとしない。


 醜悪な国家だ。悍ましい。


 そして私たちはそれを正す為にここにいる。


 躾だ。適度な躾が必要なのだ。


 東西の冷戦というこの腐敗した状況を正すには躾が必要なのだ。


「聞こえるかコアル」


「ええ。聞こえるわ。そっちの状況は?」


「標的の商船団を確認。既に荷物の積載は終わっている模様。あと少しで出船すると思う」


「予定より早いのね……目的の密輸船についての手掛かりは?」


「奥から二番目の商船。他の商船より護衛が多い。搭乗者の動きも不審だ」


「じゃあ、奥から二番目の商船を最初に?」


「ああ。そうするつもり。ハズレなら残りの商船を手分けして探す」


 そう言うと、無線機の奥からガチャリと銃の音が聞こえた。


「サポートと、締めの一発は任せといて」


「頼りにしているぞ」


 無線を切る。


 コアルには遠方の高台からライフルでのサポートと締めの一発……目標商船へ焼夷弾を撃ち込む仕事がある。


 前方任務を数多くこなした軍人なので銃の扱いはチーム一だ。


「では……」


 皆の方へ振り向く。


「只今より、密輸商船の襲撃、並びに違法薬物の押収を行う!」

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