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ロストガール・サードパーティ  作者: ほとまる
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前語り

 戦争とは、文明を歩む者にとって最も愚かな行為という他ない。


 しかしながらそれは道徳的な価値観での話ではなくて、あくまで戦争に存在する価値についての話。


 人を殺してはいけない。残された者が可哀想。そんな事は常識的な教育を受けた者は……いや、常識的な教育を受けずとも理解に容易いことだ。


 あくまで価値の話。


 国々が歩んだ文明を振りかざすことに意味がないとは言わない。


 ただ、それを武力や暴力を仲介にして相手を否定する行為にどんな意味があるか。


 私なら、そう問われたら答えは出せない。墓場に持っていっても解決できないであろう。


 無意味だ。


 無意味で無価値で無駄。


 私たち人類の大いなる汚点。


 まあ、私自身、戦争によって失ったものがあるから人一倍憎しみが大きいのかもしれない。


 これが私以外なら。


 戦争から縁遠い傍観者が考えるならば。


 果たして違う考えに至るんだろうか。


 ある者は、これは必要な戦争なんだと言い、


 ある者は、これが最善の方法と言う。


 これは戦争に関わる一部の人間の言葉なのだが。


 本当に心からそう思っているのだろうか?


 自ら意味を見出せないから、自分を納得させる為に虚構から言葉を取り出しているだけに過ぎないのではないだろうか?


……まあいい。


 他人のことなんてわかりゃしないんだから。


 自分自身、この世界にとってどんな意味があるか。自分にどんな価値があるか。


 それすらも知らないのだから、口を出す気持ちはあっても、そこに理屈はない。


 そういえば。


 理屈なんてものは必要なのか?


 そう私に問うた者がいた。


 理屈は意味を見出すため。行動の過程でしかない。


 自分と行動を繋ぐ直線にただあるだけのもの。


 ただそれだけのものがそんなに重要か?


 そう彼は問うた。


……確かにそうかもしれない。


 もはや通過点でしかない理屈に、私も大きな意味を見出せないのは確かだ。


 しかし。


 しかしだ。


 目の前で起きているのは何だ?


 戦争だ。人と人とが争う醜悪な茶番劇だ。


 この世の全ての事柄に理由を見出す意味はない。


 ただ、戦争には理由が必要なのだ。


 仕掛ける側も、仕掛けられる側にも理由がなくてはならない。


 理由無き戦争はもはや何にも形容できない。


 理由なく人が死に、理由なく祖国が貶され、理由なく悲哀を復讐に変容させなければいけない。


 この世で考えられる限り、一番醜悪で可哀想だ。


 そして……


 そして、私の眼前にはその理由無き戦争が広がっている。


 数年前に勃発した東西の大国同士の戦争。


 長きに渡る戦争はお互いの国力を底無しに消費しあい、互いの兵は前線から撤退した。


 そこで戦争が終えればよかったのだ。


 終えればよかった、と言うことは、終わらなかった、と言うことだ。


 撤退後も互いが互いを牽制しあい、東西の隔たりという大問題を置き土産に戦争は続いた。


 冷戦。


 お互いの意地の張り合いだ。


 祖国を守る。敵国を打倒する。死んだ同胞の仇を取る。不条理を覆す。


 そんな戦争の理由が霧散し、意地だけが残った。


 其処彼処で起きる出来事に意味は無くなり、ただ祖国に踊らされる、そんな虚しい世界が生まれてしまった。


 今、眼前に広がるは海岸線。


 米粒程度の大きさに見える人々は皆、踊らされている。勿論比喩的な意味だ。


 私はあのような無価値な駒になりたくなかった。


 だからここにいる。


 だからここに仲間といる。


 私は。


 冷戦を終わらせる。


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