01.日常、そして…
「みーな!実奈ったら!」
「ねえ、この子全然起きないよ?どうする?」
「うーーーーん……」
「あ、やっと起きた」
長い、夢を見ていた気がする。それも何かとても怖い感じのする夢だ。
最近夢見が悪く、寝るとすぐに悪夢を見る。それが原因で寝不足になっているのに、こうして授業中にうたた寝していても悪夢を見るのだから勘弁してほしい。……ん?授業中?
「あれ、先生は……?」
「アンタ寝ぼけてんの?もうとっくに授業終わってるけど」
「嘘!?」
しまった、聞き逃した……次のテストにでる重要なところだって先生言ってたのに。
「最近調子悪いみたいだけど大丈夫?ノート取ってあるし、あとで貸したげる」
「あ、ありがとう由紀……!」
「もー、由紀甘すぎ!そんなんならあたしも寝ればよかったかもー。」
「小夏、アンタはちゃんと起きなさい。二人分の面倒見切れないから」
「え、ひどーい!」
由紀、小夏とは高校入ってからの付き合いだ。去年からクラスが一緒で、いつもつるんでいる。
雑談をしながら帰る支度を済ませ、下校しながら近所のパン屋さんで買い食いをして帰る。それが私たちのルーティーンだった。
「おい天海ー、お前それ……」
「ハァ?んだよ……」
ふと、聞き覚えのある声がした気がして目を向ける。私たちと同じ制服を着た4,5人の男子集団がいるのが目に入った。
「あれ、あれって実奈の幼馴染くんじゃん?」
「ほんとだ。あれ、日野谷くんもいるね、めずらし。おーい!」
「ちょ、ちょっとやめてよ……!」
幼馴染くん、とは目線の先にいる男子集団の中にいる二人のことだ。
一人目の幼馴染が「天海 涼介」。
二人目の幼馴染が「日野谷 要」。
二人とは物心つく頃から仲が良くて、昔はいつも一緒にいた。年を重ねるにつれ、だんだん話しかけにくくなっていったんだけど……
「ん?奥谷と佐藤と……わり、誰だっけ。」
「ちょ、藤原!あんたね、クラスメイトの名前くらい覚えたらどう?神崎実奈よ、か・ん・ざ・き!」
「あわ、悪い!!俺人の名前覚えるの苦手でさあ……!」
小夏が私の代わりに怒ってくれたので、私の心的ダメージはそこまでなかった。最近、人に認識してもらえないというか、忘れられることが多くなったような気がする。気のせいだろうけど。
ちら、と藤原君の横を見ると、涼介は居心地悪そうに、要はいつもと同じ温和な目で私を見ていた。
目が合ってしまっては無視するのも変だ。こうやって話すのはいつぶりだろう。
「ひ、久しぶり……珍しいねこんなところで会うなんて。元気だった?
「見りゃわかるだろ、元気だよ。」
「涼介、そんな言い方……俺たちは元気にしてたよ。実奈は?」
「私も元気……かな。」
「……なんかちょっと痩せたか?」
「え?そう?」
「気のせいならいいんだけど。」
要は昔から私のことを気遣ってくれる性格の持ち主だった。そのことを思い出し、心が温かくなる。
「ふふ、大丈夫だよ。」
「帰りに買い食いなんかしてるんだから当分何があってもへっちゃらだろ。つーか太るぞ?」
「涼介っ!!」
「こら、涼介。」
涼介は要とは対照的に顔を合わせるといつもこうやってからかってくるので正直関わりづらくなっている。昔はこうじゃなかったのに。
涼介も要も、身内の贔屓目なしにイケメンの部類に入る顔をしている。当然、女の子が見逃すはずもなく、二人の周りは常に男友達か囲いの女の子でいっぱいだった。人とか関わることがあまり得意じゃない私はその中に入っていけるはずもなく、気づけば疎遠になっていた。二人がどう思っているのかは知らないけど、こうやって話しかけてくれるということは嫌われてはいないんだろう。
「おいおい、そこのお三方っ!三人で空気作ってないで俺たちも混ぜてくれよー。」
「別に作ってねーし。なんなんだ藤原、お前のその絡みは……ニヤニヤしやがって。」
「いやあ。涼介くんもそんな顔が出来るんだな、と思ってサ!……いで、いてて!」
「馬鹿なこと言ってんのはこの口か!?」
「な、なんか始まっちゃったみたいだね。あたし達も行こっか。」
「うん。そうだね。」
「……じゃあね、要。また」
「ああ、じゃあな。」
そうやって私たちは夕焼けの空を歩き出した。これが私たちの日常で、これまでもこれからも、ずっと変わることなんてないと思ってた。
全ての始まりはそう、この日の夜、一件のLINEが届いたことからだった。