まずは下準備
「さて、行くか、ぴーくん」
「ぴい!」
今回はお忍びゆえ、不死鳥のぴーくんのみがお供だ。
……念のために言っておくが、ぴーくんにはもっと恰好良い名前があるぞ?だが、そちらでは我の傍に長年あり続けたために人の世界では有名になりすぎておる故、偽名を使っておるだけなのじゃ!そのために、ぴーくんも今は本来の燃え盛る炎が鳥の姿を取ったようないつもの姿ではなく、ふわふわの毛玉のような小鳥の姿に変じておる。
「ふむ、ここか」
冒険者ギルド。
大陸全土に支部を持つ世界最大の民間組織。
そのトップであるグランドマスターともなれば下手な国の王などよりよほど実力を有しておるし、大国の王とて頭ごなしに命令など出来ん。
当然、そんな組織の顔となる総本部ともなれば立派だ。
もちろん、冒険者ギルドという性質上、華美でもなく、街中にある以上王宮のようなものとはまた違ってくるがの。
「少々よいかの?」
「はい、何か御用でしょうか?」
中に入り、受付に声をかけると一枚の豪奢な封筒を懐から取り出し、カウンターへと置く。
「すまぬが、こちらの御仁と面会したい。これは紹介状じゃ」
「かしこまりました。確認してまいりますので、少々お待ちください」
封筒に描かれた宛名を確認し、にこやかな笑顔のまま受付は立ち上がった。
うむ、初めて来た小娘がいきなりグランドマスターに会いたいと言ってもびくともせんかったの。さすがじゃ。
総本部の受付ともなれば、冒険者ギルドの顔とも言って良い。グランドマスターをはじめとする冒険者ギルド総本部にいる幹部を訪ねてくる、よそのお偉方も多い。当然じゃが、そんな相手に下手な対応すれば後で大問題になりかねぬし、冒険者ギルドが恥をかく事になる。
故に、総本部の受付ともなれば花形で給与も良いが、いきなり本部での受付なぞまずなれぬ。地方である程度経験を積み、その中でも優秀と見込まれた極一部の者が登用される極めて狭き門、しかも、その立場を狙う者は大勢おるから選ばれたと思って調子に乗っておれば、あっという間に都落ちという事になる。
そこは王宮で、王や王妃の傍に仕えるような者とまったく変わらぬ。
「お待たせいたしました。お会いになるそうですので、どうぞこちらへ」
「うむ」
待つことしばし。
うむ、ここでも誰に会うかといった事は、こんな誰の耳があるか分からんような場所では口にせんかったの。 我が名前を口にしなかった事で、誰と会ったか知られたくないのだろうと判断したのじゃろうな。こちらも良い評価を与えて良いじゃろう。
我がこうして、色々採点しておるのはちゃんと理由がある訳じゃが、間もなくグランドマスターの部屋へと到着した。
「失礼します。グランドマスター、先程の紹介状のお客様をお連れいたしました」
『おお、入ってくれ』
部屋へと入ると派手ではないが、高級感のある品が大人しめに存在感を主張していた。そこに座す大柄な男が一人。
「ご苦労。下がってよい」
「はい、では失礼いたします」
ここまで案内してきた受付を下がらせ、扉を閉めるとここは一種の結界が張られた空間となる。
なにせ、国家レベルの重要な機密を話す機会も多い故、外からの盗聴には凄く気が配られている。実際、窓もギルドの中庭に面しており、直接グランドマスターの部屋の窓を見れる窓は中庭側には存在しないという徹底ぶりなのじゃ。
とはいえ……。
「さて、久しぶりだな、グランドマスター殿?」
「陛下、からかわんでください」
にっと笑うと苦笑して、グランドマスターは白髪の混じった頭をかいた。
そう、ここまで採点気味に見てきたのもこれが理由。冒険者ギルドは我が国が作ったのだ。
そして、このグランドマスターも我が配下という訳だ。
「して、一体何用でございますか?」
「ああ、それはだな……」
とりあえず、ここなら表向きの顔を用意するのも容易いというものだ。
少しずつまた書いていく予定です