いざ新たな出発!
「人の国に行ってみようと思う」
「何、唐突にとんでもない事言い出すんですか、陛下」
宰相に言ったら、呆れたような声で返された。
まあ、当然か。
「私の今の研究テーマは知っているな?」
「眠る事ですよね、出来ればご自身が」
「うむ」
この国は不死の国。
周囲にいるのはアンデッドのみ。
それで気が付いたのだが。
「考えてみれば、どいつもこいつも普通の生命のの寝るとは違う」
「あ、遂に気づかれた」
なんだ、とうに気づいておったのか。
「気づいていたなら教えてくれてもよかろうに」
「だって教えたら陛下、今みたいな事言い出すだろうなーと思ってたんですよ」
なるほど。
既に先を読んでいたか……だが!
「ならば、私を止めれんのも理解しておるだろう?」
「むろんです。長期休暇扱いにしておきますのでたまには戻ってきて下さい」
「うむ、分かった」
考えてみれば、アンデッドの睡眠は普通の生命の眠りと異なるに決まっているではないか。
まあ、中には私の可愛いペットである不死鳥のような生きていながら不死、という子もいるが、そんなのは例外中の例外にすぎん。ほとんどは死後に何等かの理由で陸海空、いずれかに縛られてどこにも行けなくなった迷い人だ。
だから、連中のほとんどは眠りというものがどういうものか理解している。
しかし、私は生まれ故、そうしたものを知らぬ。
知らないからこそ、知りたい!と思うのだが……何しろ、知らんものだから試してもそれが正しいのか分からぬ。
故に、眠りかそれに近いものを行う者を選んで、彼らの悩みの解決と引き換えに観察させてもらったのだが……。結局の所、彼らが行っているのは本当の意味での眠りではない。不死者は基本、魔力で体を動かすが、その魔力は動き回っていれば次第に消耗していく。その消耗を回復する為の休息を、生前の睡眠に模して行っていただけだ。
つまり、眠ったふりだった!
「やはり生きている者を知らねば話にならん」
(ぴい?)
「ああ、すまん、お前の事を言った訳ではないのだ」
肩口にとまっているいるのは私のペットの不死鳥だ。
不死鳥は正確には私が大地の化身であるのと同様、炎の化身であり、常に一体しか存在しない。ちなみに言葉を喋れないのはまだ転生して間もないからだ。あと、大地にある火山で転生するので私の眷属でもあるのだよな。
ちなみにこの子も寝ない!
というか、化身の類は基本寝ない。
「さて、では人の世界に出発だ!」
「陛下」
「ん?」
「せめて着替えてからいってくだされ。それじゃ物凄く目立ちます。あと、財布忘れてますぞ」
……うん、確かにな。
とりあえず、着替えに出発するとしよう。