ある日の出来事
リハビリがてら書いたお話です
他はどうもダークな展開になってしまったので
「答えろ!なぜお前は人の街にまで現れる!」
「そんなもの決まっている」
ふん、と眼前の美女はくだらない事を聞かれたとつまらなそうな様子で告げた。
「眠ってみたいからだ」
「………は?」
けど、返ってきた答えは想定外だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「くっ、また失敗か!!」
そう吐き捨てて、陛下が書類を投げ捨てた。
「……王よ、何が失敗だったのでしょうか?」
不死の王たる陛下が玉座についてもう幾星霜。
私がこの宮廷に仕えるようになってからでもはや幾百年。
統治は実に安定しており、世界三王の一角に数えられる圧倒的な実力の前に反乱を考える者さえいない。というか、反乱を起こした所で誰もついてこないだろうが。やらかした瞬間に袋叩きにされて、陛下に突き出されるのが目に見えている。残る二体の王が空を統べる竜の王と、海を統べる神獣の王である事を考えるとその一角に数えられる陛下の凄さが分かろうというものだ。
それぐらい陛下の統治は公平で、優れた統治だった。
陛下自身は優れた研究者でもあるが、その研究の時間を作る為に徹底した効率化を図り、それが優秀な統治機構として成立している。
今回も陛下の研究成果によって、遂に吸血鬼一族は長年の宿痾から解放された。
吸血鬼一族は血を飲まねばならない。
しかし、それを嫌う吸血鬼は何気に多かった。
要は「仲間にしたいと願う相手がいて、相手が受け入れてくれた時に血を吸うのはいいけど、血からしか存在し続ける為の栄養取れないのは勘弁して欲しい……」というのが本音だったようだ。
これに対して陛下は研究を始めて間もなく人工血液を開発。
更にこの人工血液に改良を加え、様々な味のものを開発。
これは吸血鬼達から絶賛を浴びた。
……気持ちはわかる。連中、普通の食い物食うと必ず体調崩して吐くか、無理に飲み込んだら酷い下痢に数日襲われるって有様だったからなあ……。血の味しかまともに知らなかった連中が色んな味の飲み物を飲めるようになったようなものだ。そりゃあ大歓迎された。
しかし、陛下はその後も研究を続け、遂に吸血鬼達が捕らわれた呪いの原典自体を解き明かした。
これによって吸血鬼達は能力や力はそのままに、普通に物を食い、昼に出歩けるようになったのだ。吸血公(不死王陛下以外は皆、王は名乗らない)なぞ、泣いて喜んで、陛下への誉め言葉を友人達にも会う度に言ってるそうな。
「……吸血鬼達は眠る事が出来るからな」
「はっ?」
苦い表情で陛下が言った言葉は予想外の言葉だった。
「余はな、寝てみたいのだ」
「……寝てみたい、ですか?」
その後、陛下が言われたのは他の者達が眠りにつくのを見て、寝てみたいと思ったのだそうだ。
眠たくなって柔らかい布団に潜り込む時の心地よさなどを味わってみたいのだとか……。
……いやまあ、確かに陛下は寝る必要ないけど。
アンデッドも眠りにつく。
それは魔力量の関係だったり、呪いの原典だったりと理由自体は色々だが寝る事はする。まあ、人とかいわゆる生物のそれとは違うものなのだが、確かに体が休息を欲した際に横になるのは気持ちがいいし、目覚めた時のすっきりした感覚は悪くはないが、我々からすれば睡眠の必要さえない方が良いと思うのだが……。
「言いたい事は分かるぞ。眠くなったりしない方が仕事やしたい事をする事が出来るというのだろう?実際、私も眠る必要がないから好きな研究の為の時間が取れている事は理解している」
「そうですな」