#2 弁護士事務所からの内容証明
「ピンポーン」
と誰かが僕の家のインターフォンを鳴らす音で目覚め、携帯で時間を確認するとちょうど10時を過ぎた頃だった。
訪ねてきたのは、宅配のお兄さんだ。その瞬間、僕は一気に憂鬱な気持ちになった。
お届け物の中身は見なくても分かる。この厚さは弁護士事務所からの内容証明書だ。
僕は21歳のとき、大学を中退して東京に上京し、1年間ベンチャー企業でインターンした後、22歳の若さで投資家から数千万円のお金を集め会社を始めた。
当時実用化があまりされていない最先端の技術を使ったスマートフォン向けアプリの開発をする会社を立ち上げ、注目を集めた。
ビジネス誌やTVニュースでのインタビュー、講演会の依頼などメディアへの出演も多く、社員数も立ち上げて半年後には10人を超えていた。
満を持して世の中に出したアプリは、最初こそ上手くいったが徐々にユーザー数を減らし、様々な策を行ったがどうにもならなくなり、そのアプリはリリースした10ヶ月後には終了した。
そこからは地獄の日々だ。僕はあまりに経営者としての経験が少なく、また失敗した後に挽回するだけの覚悟と根性もなかった。
何もしなくても毎月数百万円のお金が出ていき、精神をすり減らしていった。
10人いた社員は僕を信じて着いてきてくれていたが、僕の会社には多くの社員に払うお金もないため、解雇しなければならなかった。
そのうちの一人が不当解雇を訴え、弁護士を通して慰謝料を請求してきたのだ。
僕はその問題に正面から立ち向かう勇気がなく、逃げていたら最悪の事態に。それが先ほど届いた内容証明書である。
年齢を言い訳にするわけではない。ただ24歳の僕にとってはこの辛すぎる状況を直視することができず、引きこもりがちになっていた。
あまり人にも出会わず、食事も宅配やカップ麺で済まし、あとはひたすらアニメや映画を見て昼寝をする。
学生時代の僕からすれば、ありえない状態だった。
「こんな状況をなんとか変えなければ。」そう思っているのだ。わかっているのだが内容証明書を受け取った後いつも通り、アニメを見て1日を過ごしている。
ひと通りアニメを見終えて、夕ご飯をどうしようかと考えていると、携帯の着信があった。
知らない番号なら出ないのだが、高校の同級生で東京に上京し、国家公務員として働く赤星からの電話だった。
「もしもしー」仕事終わりの疲れが混じったような声をしていた。
「明後日の20時から個サルに行くんやけど、久々に一緒に行かへん?」と赤星からのお誘いだ。
個サルとは、個人フットサルの略称でフットサルをしたい人たちが集まって、行うフットサルのイベントみたいなものだ。
「おお、ええよ。ほんならフットサルして軽くその後飯でも行くか。」
外に出るのは億劫だが、こういう誘いがないと出れないのもわかっていたため、快諾した。
正直、誘いがあった瞬間、気分は高揚した。
もともとフットサルが大好きだったのだが、最近全然出来てなかったからだ。
そして、このフットサルへの参加がのちの自分の人生を大きく変えることになる。
ただ、そんなことは今の僕には知る由もなかった。