2 ――身体――
あるとき彼は健康診断で遺伝子の異常が見つかる。
医者の説明によると毒性を排除したウイルスを注射して異常な部分を取り換えることで済むという。
ただこれはまだ認可が下りていない最先端医療らしい。そのために本来なら受けられないし、保険適用外で高額の請求が来るようだ。だが今回は被験者が少ないためデータが足りずに困っているので、受けるならば無料になるという。
そして渡される資料は膨大だった。
これを読んで同意しなくてはいけないらしい。
だが医者もバカではあるまい。変なことが書かれていれば、後からでも追及されるということも分かっているはずだ。
そう考えた彼は良く読みもせずに同意書にサインと捺印をし、治療をしてもらうことにしたのだった。
それは注射をして、検査をし、順調だったらまた注射。その繰り返しだった。
初めは問題なかった。しかしちょっとした問題が積み重ねられていった。
髪が抜け、フケが増え、体を洗えば垢が良く出るようになる。
お腹も空き、食事量が増えていった。
歯が抜けた時には文句を言ったが、なんと新たに歯が生えて来て驚く。
何故か眼鏡が要らなくなった。
そういう幾つもの問題の末、数週間体が軋んだと思ったら、身長が伸びたりもした。そのため服が合わなくなったが、メシのときは配慮されなかったが服を代わりに手配してくれた。同意書に書いてあることだそうだ。
視線の高さが違った。
歩幅が変わった。手足を出すタイミングが変わったために歩行訓練が必要になった。
腕や脚の長さが違うと周期が変わるらしい。
長さの平方根に比例するとか何とか。
しかし元々人は手も足も長さが違うため、自分の筋肉でもって加速させて調整をしていたらしい。
彼の場合は急激な変化に対応できなかったために微調整が必要になったのだという。
抜けていた髪が生えてきたら何故か癖毛になっていた。
直毛だったのに。さらに濃かった胸毛はなくなっている。
その上、久しぶりに会った友人には素通りされる。
顔付きが変わっていたのだ。
更には声も変わってしまったという。
ここまでくると自分がどうなってしまったのか、怖くなる。
自覚症状で誰にも言っていなかったことが彼にはあった。
右利きだった彼が何故か気付くと左手を使っているという。
彼は医者に問い質したのだった。
同意書には遺伝子による異常を別の遺伝子によって書き換えることによって将来の問題を排除するという。
そして彼はいつの間にか別人になっていた。
次回「3 ――精神――」
翌朝6時予約投稿。




