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変心と連続  作者: 山目 広介
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1 ――記憶――

「記憶というものがあればそれは俺なのだろうか……?」


 そんな疑問を思い浮かべた最初は彼の祖母が認知症と言われていた頃。

 老人ホームに入って、しばらくして彼が見舞いに行ったときの事。

 入社して(ようや)く纏まった休暇のお盆の時期。

 黄金週間(ゴールデンウィーク)は忙しく休出もあり見舞いに行かなかった彼。

 久しぶりにそこで彼が見たのは祖母だった人。

 身体はもちろん彼の祖母に違いなかったが、記憶はなく話すことも儘ならない、もはや別人。

 あれほど信心深かった彼の祖母が数珠にも反応を示さなくなり違和感が際立つ様子。

 だからこそ彼はその祖母の肉体の中身を祖母と認識はしなかった。その肉体は間違いなく祖母であったというのに。

 それほどに彼の内心の衝撃は大きかったという証左であろう。


 彼は思い出す。祖母が老人ホームへと入れられた原因は帰り道も覚えられないのに神社仏閣へのお参りに行き、心筋梗塞で倒れている所を偶然通りかかったタクシーに拾ってもらって助かったことによる。

 病院に閉じ込めても脱走してお参りに行く。そんな祖母の姿が現実の現状とは一致せずに、身体が同じだからこそ余計に中身が別人になったという錯覚が感じられた。


 その人物をその人物たらしめている物は記憶ということなのだろうか?





 親兄弟に恋人など、それぞれ別の面を見せていると彼は思った。親には子供として、兄弟には兄弟の顔、同僚には仕事の付き合いを真面目に、友人には趣味などについて話す側面を。恋人には自身の恥ずかしい性癖を。

 その中に仕草だけで自分と理解してくれるものは果たしているのだろうか?


 両親なら生まれた時からある(あざ)や幼い時の線香花火を落とした火傷など体の特徴を知っている。


 そう考えた彼は彼に懐いているペットの小型犬が自分の記憶が消えてもこの身体に懐くのではないかと想像した。例えば生き別れた双子の兄弟がいて自分の代わりに犬と遭遇したら懐くのではないか、と。

 哲学ゾンビやら人格の入れ替わりのようなものがあったら一体誰が自分を自分と、見つけてくれるのだろうか?


 歌など特徴的な作詞や作曲など人物が分かる場合がある。

 小説だってその人の作風で分かることもある。

 だが通常多くの人はそんな特徴を持っている人物というわけでもない。もちろん自分もそうだと彼は自覚していた。


 自分は、自分とは一体何なのだろうか……?


 彼はそんな思考の底なし沼に嵌まり込んだように陰鬱となっていった。







次回「2 ――身体――」

朝6時予約投稿。

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