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第63話 迷宮の前にお茶会を

「リア、迷宮巡りしないか?」


 起きたら、なぜかジルの城だった。様子を見に来たパウリーネに着飾らされたため、しっかり青紫のドレスを着ている。琥珀色の首飾りと耳飾りをつけ、ジェンを入れた青水晶はブレスレットに加工されていた。


 普段つけて歩くには、ペンダントよりブレスレットが楽だ。素直に腕に通すと、まるでサイズを測ったように、地金が肌に吸い付く。なにやら魔法陣が刻まれているので、後で調べようと考えながら椅子に腰掛けたところに、このセリフだった。


「突然どうした?」


「以前に『力あるモノが封じられた場所』が迷宮だって説明したら、興味示してただろ? テラレス王宮と魔の森、幻妖の森を除いた場所にもあるんだけど、ツアーみたいに回ったら楽しそうじゃないか」


「意外と数が沢山あるのですよ」


「人族には伝わってないけど、ほら……アスターレンとジュリの間の火山、あそこも迷宮なの」


 リオネルとライラがダメ押ししてくる。珍しくリシュアがお茶の用意をはじめ、軽食を含めた豪華な皿が並んだ。王族のお茶会より豪華かも知れない。お茶だけでも数種類用意したらしく、リシュアが優雅に最初のお茶を淹れた。


「寝起きですし、まずは薄めの柔らかなお茶にしましょう」


 緑茶とも違う、不思議な緑のお茶を差し出される。香りは緑茶に似ていて、口をつけるとすっと喉に沁みる気がした。柔らかなお茶という表現が確かに似合う。


「美味しい」


 ほっと息をついて、ルリアージェが表情を和らげる。肘をついたジルが行儀悪く、指先でお菓子を浮かせて自分の前まで運んだ。魔性ばかりのお茶会なら違和感がない光景だが、これを人族のお茶会で披露したら大騒ぎになりそうだ。呪文も魔法陣もなく、お菓子はジルの指に納まった。


 ぱくりと口に運び、思ったより甘かったのか顔をしかめる。分かりやすいジルの反応に、ルリアージェがくすくす笑い出した。


「それで迷宮を見て歩くのか?」


「そうよ。私はほとんど知ってるけど、他の4人は封じられてた間にできた迷宮は知らないし。リアはほとんど初めてでしょう?」


 ライラがお茶を飲みながら説明し、続きをリシュアが口にした。


「どうも魔性に絡まれるようなので、人族が少ない場所にしようと考えたのです。リア様は人族を巻き込むのがお嫌いですから」


 大きな蒼い目が見開かれ、驚きを露にする。すぐに和らいで穏やかな表情になった。


 広間の上に埋め込まれた宝石から降り注ぐ光が、黒い床や壁に吸い込まれる。眩しいほどの光量があるのに、この部屋で眩しいと感じた記憶がなかった。上手に調和が取れた空間は、大量の魔法陣が埋め込まれた宝の山でもある。


「そうだな、迷宮めぐりをしようか」


 人族の魔術師では、実力不足で近づけない場所もあるだろう。すべてを見終わるのにどのくらいかかるかわからないが、今後の人生に予定があるわけでもない。一緒に楽しい時間を過ごせるなら、それはとても贅沢な時間だろう。

 

「時間は()()()()()()わ。リアは何も気にしないで」


 ライラは無邪気に言い放つ。そこに隠された意味を探ることもせず、ルリアージェは静かに頷いた。次のお茶が用意され、カップごと交換される。


「こちらは疲れの取れるハーブティです」


「あら……リライの葉を使っているのね」


 大地の魔女であるライラはハーブの名を一瞬で言い当てた。疲れを緩和する薬に使われる葉は、生える場所が限られるため、貴重品として高額で取引される。お茶に使うなど贅沢なことは、王族でもそうそうできない。


「美味しいのか?」


「ほんのり甘いぞ」


 先に口をつけたジルの言葉に、興味がわいて口をつける。熱いかと用心しながら口をつけるが、ちゃんと温度調整してくれたらしい。喉を通る最後に甘さが僅かに残る。後味というには微かだが、甘いお茶菓子があるなら物足りなく感じることもなかった。


「贅沢だ」


「人族の領域では珍しいけれど、あたくしが知る限りリライは珍しい葉ではないのよ」


 言い切ったライラが、空中から菓子を取り出した。果物を使ったタルトやジャムの乗った菓子が多い彼女らしくない、地味な焼き菓子だ。種類は5種類くらいか。


「これらはハーブ入りなの。食べてみて」


「オレはこれがいいな」


「私はこちらの方が好みですわ」


 ジルとパウリーネが品評を始める。各々が違う焼き菓子を勧めるので、結局ルリアージェは5種類すべて味見した。すべて香りが高く、ハーブ特有の苦味や青臭さはない。


 気に入った1枚をもう一度手元にとると、心得たようにライラがその焼き菓子を小さな袋に詰めてくれた。ルリアージェに差し出しながら、上に赤いリボンを巻く。


「持っておくといいわ。いつでも食べられるでしょう?」


「ありがとう」


 ジルの黒い城でのお茶会は、最終的に3種類ものお茶が振舞われた。茶菓子にいたっては数え切れないほど並び、もったいないとぼやくルリアージェの言葉に従い、それぞれが収納空間へ片付ける。近々またお茶会で振舞われることだろう。

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