表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/149

第37話 最後の眷属

「終わったのか?」


 倒したとも、殺したとも聞かない。ただ騒動が終わったのかと尋ねたルリアージェに、ジルは肩を竦めて手近な椅子に腰掛けた。


「まだだけど、あとはリシュアに任せた」


 優秀な配下をもつと楽ができる。白炎のリオネルは同じ系統だから、互角以上の戦いが出来ただろう。本来は氷静のパウリーネが最適なのだが……。


「そういえば、パウリーネはどうしたのよ」


 同じ考えに至ったライラが口を挟んだ。死神の眷属は3人――二つ名持ちばかりで、水と氷を得意とする氷静のパウリーネは、火属性の龍炎のラヴィアと戦うには、相性抜群だった。


「……忘れてた」


 ジルの発言にライラは眉を寄せ、ルリアージェは首をかしげる。


「呼ぶのを、か?」


「いいえ、おそらく解放し忘れたのよ」


 封印が解かれた直後、まだジルの魔力は大半が封印されていた。だから眷属を呼び出すことができず、彼は1人でルリアージェに随行したのだ。もちろん独占欲もあったのだが。


「あの頃は魔力が足りなくて……」


「もう足りているでしょう。3魔王は解放されたのだから」


 ライラの容赦ない指摘に、ジルは溜め息をついた。確かに彼女の言う通りだ。鎖の封印は魔王とライラが施したもので、ジルの魔力を封じた代償として魔王達が眠りについた。つまり封じられたジルの魔力量と、魔王の眠りには関係性があるのだ。


 先日サークレラを襲った水の魔王トルカーネ、その後この城へ攻撃をしかけた炎の魔王マリニス。この2人が目覚めたなら、その分だけジルの魔力も戻ったはずだ。そして引き摺られる形で、風の魔王ラーゼンも解放されただろう。


 もともとライラは封印に引き摺られなかったのだから、4人全員が自由の身になった今、ジルの魔力はすべて解放されたと考えるべきだった。


 椅子にぐったり寄りかかって、左のピアスを弄る。右にピアスはなく、そこを飾った赤い封印石がリオネルだった。左耳に光る青い封印石がパウリーネなのだが、彼女はまだ眠っている。ジルは溜め息をついて身を起こした。


「呼び起こしておくか」


 あとで拗ねると面倒だし。そんな含みを持たせて呟くと、左耳のピアスを掴んで引いた。切れた耳を伝う血を無視して、手の中の封印石を転がす。


 リオネルは炎で解呪した。逆に、パウリーネは水で満たして解放する必要がある。眷属の魔力が多いため、制御に魔法陣を使用したほうが安全だった。この場所を壊す気がないジルが手間を省く理由はない。


 足元に魔法陣が描かれる。縁から溢れるように水が舞い上がり、ジルを囲んだ。透き通った水が天井付近まで覆い尽くす柱の中央で、左手のピアスを凍らせる。


≪我は望む、残る眷族の解放を…水と氷を従えたる者よ、戻れ≫


 シャラン……氷が砕ける音と同時に、広間に現れた水の柱は急速に小さくなった。水が凝って人型になったように錯覚する。膝をついた女性が、頭を垂れていた。


「我が君、お久しぶりにございます」


「待たせたな、パウリーネ」


 悪かったと滲ませて告げるジルの黒衣の裾へ、青銀の髪をもつ女魔性は恭しく接吻ける。


「改めて、我が君に忠誠をお誓い申し上げます」


 彼女が身を起こした直後、ライラは数歩後ろへ飛んだ。今までライラがいた場所に、氷の矢が2本突き刺さる。余裕の表情でかわした少女は肩を竦めて三つ編みの先をくるりと指先で回した。


「なぜ、この魔女がっ!」


「落ち着け、パウリーネ。今は敵じゃない」


 ルリアージェに近づいた状態で攻撃されることを懸念しているのか、ライラはその場から動かない。逆にルリアージェが歩み寄って、ライラに目線を合わせてしゃがみこんだ。


「ケガはないか?」


「平気よ。攻撃されると予想してたもの」


 大地は水に対して強い。そのため1000年前の戦いで、パウリーネの相手をしたのはライラだった。彼女が戻れば、当然攻撃されると思っていた。かなり感情的な女性なのだ。


 理知的で穏やかなリシュア、攻撃的だが従順なリオネル、彼女はどちらとも違うタイプだった。


「ですが! あなた様と敵対した……」


「だから落ち着け。今から説明する」


 手を引っ張って椅子に強引に座らせたジルが、大きな溜め息を吐く。その様子に、パウリーネは申し訳なさそうに項垂れた。主に迷惑をかけたと反省しているらしい。


「リア、ライラからすこし離れて」


 万が一を考えて頼むと、ルリアージェは躊躇いなく首を横に振った。


「いやだ」


「ならいい。守るから」


 結界を三重に張ったジルが苦笑いする。自分から距離を置こうとするライラの横をすり抜け、ルリアージェの手を取るとソファに座らせた。隣に座ったジルの柔らかな表情に、パウリーネが絶句する。


「何を騒いで……ああ、解放されたのですね。パウリーネ」


 ジルに関する騒動に気付いたのか、リオネルが突然広間に現れた。黒い床にうまれた闇から現れたリオネルは魔法陣を経由しない。転移に関する能力を生まれ持ったため、魔力や魔法陣を使わずに転移を行えるのだ。


 全身を現すとジルに一礼し、自分と対を成す眷属に目を向けた。まさに炎と氷のようだ。外見も内面も対照的だった。


 褐色の肌に首までの金髪、赤い瞳をもつ白炎のリオネルに対し、冷たい印象を与える短い青銀の髪と白い肌、空色の瞳が印象的な氷静のパウリーネ。性別すら男性と女性という、作ったように正反対の2人の共通点は『死神ジフィールを主と仰ぎ忠誠を尽くす』のみ。


「久しぶりね、リオネル。この状況はどうなっているの?」


 状況が分からないため苛立つパウリーネに、リオネルは淡々と言葉をかける。


「先にジル様の敵を排除してきましょう。今、リシュアが相手をしておりますよ」


「誰?」


「龍炎のラヴィアです」


「あの戦闘狂(バカ)……いいわ、私が引導を渡してあげる」


 にっこり笑ったパウリーネは、ジルへ一礼して許可を得る。


「我が君、私に敵を排除する許可をくださいませ」


「任せる。風より水の方が相性がいい。リシュアに戻るよう伝えてくれ」


 説明を後回しにした方がいいと判断したジルがひらひら手を振ると、パウリーネは消えた。白っぽい光を放つ魔法陣だけが残っている。


 肩を竦めたリオネルが、テーブルの上を片付けてお茶の準備を始めた。手馴れた様子で紅茶と茶菓子を並べていく。薫り高いオレンジを輪切りにして紅茶のカップに浮かべたところで、そっと差し出した。


「ありがとう」


 ルリアージェは受け取ったカップを引き寄せる。そのまま口に運ぼうとしたところで、隣のジルが遮った。首をかしげて待つと、ジルが手をかざす。湯気の量が格段に減った。


「これでよし。火傷に気をつけてね」


 猫舌のルリアージェを気遣ったジルに、リオネルが「猫舌でしたか」と申し訳なさそうに眉尻を下げる。気にしなくていいとルリアージェが笑えば、ジルは呆れたように言い放った。


「いいけど、火傷したら前回と同じ治療するから」


 森の中で火傷をして舌を舐められた記憶が過ぎる。顔が赤くなったルリアージェの姿に、ジルは満足そうだ。逆にライラは不思議そうに首を傾けた。


「あ……っ、それより外は平気なのか?」


 明らかに話を反らそうとするルリアージェの強引な誘導に、リオネルはくすくす笑いながら説明を始めた。


「侵入したのは『龍炎のラヴィア』といいます。私と同じ炎を得意とする上級魔性ですが、彼は水や氷を操るパウリーネと相性が悪いのです。彼女にしてみたら、戦いやすい相手でしょう」


 火と水の関係は精霊の力関係と同じだ。水⇒火⇒風⇒大地の順で四大精霊は巡る。風を自在に扱うリシュアは魅了の力もあるが、火に対して決定打となる能力がなかった。パウリーネの水や氷は、火属性に対して最大の効果をもたらす。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

感想やコメント、評価をいただけると飛び上がって喜びます!

☆・゜:*(人´ω`*)。。☆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ