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【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第十一章 迷惑な客

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第29話 サークレラ国王崩御(3)

「リアが眠そうだから一度戻るか」


 欠伸(あくび)する美女を抱き上げたジルが、爪先で足元に魔法陣を展開する。青白い光が見る間に大きくなり、リシュアとリオネルを包んだ。ライラがふわふわと魔法陣の上に浮いたまま移動し、リシュアが手招くとロジェが近づいた。


 庭の芝の上に現れた面々に、騎士たちが慌てて駆け寄る。


「陛下、ご無事ですか」


 花火の暴発のような爆音の直後、飛び出して庭から転移した国王の後を追うわけにもいかず、彼らはやきもきしながら待っていたのだろう。城のテラスから離れた遠い場所に飛んだため、たどり着くまでに少し猶予があった。


「では、私は崩御の手配を…」


 奇妙な言い回しの直後、リシュアは足元に魔法陣を描いた。すぐに消えたが、一瞬で彼の服は切り裂かれ、白い肌に血が流れる。その割りにぴんぴんしている姿に、苦笑いしたリオネルが手を差し伸べた。


「私が手を貸しましょう」


 魔性は痛みに鈍い。そのため致命傷に近い傷でなければ、痛みにふらつくことはなかった。言われて不自然さに気付いたリシュアは素直に、リオネルの肩に寄りかかる。細身のリシュアを軽く抱き上げたリオネルに、ライラが唇を尖らせた。


「あたくしが手伝いたかったのに」


「「「おかしいでしょう(だろ)」」」


 すでに眠ってしまったルリアージェと、状況が理解できていないロジェ以外が一斉につっこんだ。少女と呼ぶ年齢のライラが、国王を担いで歩いたら笑い話にしかならない。悲壮感もへったくれもない、崩御の計画も台無しだった。


「陛下!!」


「なんという…っ、おケガをなさったのか」


 騎士だけではなく、侍従達も後ろから走ってくる。その数は多く、いかにリシュアが国王として慕われていたかを示すようだった。そんな彼らを騙すことに胸の痛みを覚えそうな唯一の人間が眠っているため、大根役者達の暴走芝居をとめる者はいない。


 リシュアはぐったりと青白い顔色で血に塗れてるし、国王を抱き上げたリオネルは無言で俯いている。金髪が顔を上手に隠してくれるので、こっそり裏で笑っているのは気付かれなかっただろう。ライラは女優さながら鳴き真似をはじめた。自分に酔うタイプなのか。


 不本意ながら一番場面に相応しい表情をしていたのは、ロジェだった。あたふたしながらリシュアの顔を覗き込み、不安そうに眉尻を下げる。その姿は本心から心配している彼の心境が窺えた。


 魔力を使い果たして眠ったルリアージェを抱くジルは、心配そうに美貌を歪める。彼の心配する相手が、サークレラ国王ではなく腕の中の美女だと知らなければ、城の住人を騙すに十分な演技だった。


「すぐに運んでくれ」


「医者の手配を」


「いや、治癒魔法を……」


 ばたばた騒がしい彼らを置いて、ジルは再び転移魔法陣を描いて寝室へ飛んだ。白いシーツの上にルリアージェをおろして、ベッドサイドに膝をつく。乱れた銀の髪を指で梳いて、そっと髪飾りを外した。ゆっくり眠れるように帯を緩めようと手をかけたところで、ライラが止めた。


「ちょっと待ちなさい! それはあたくしの役目よ」


「……? いや、オレがやる」


 主人であるルリアージェのことは自分の担当だと切り返すジルだが、ライラは譲らない。いくら主従の契約をしていようと、女性の服を緩める作業を男性に任せる気はなかった。


 腕を組んで怒るライラの様子に首をかしげ、振り返ったリアの少し緩んだ胸元に気付く。


 ああ、なるほど。やっと得心が行ったジルは、にっこり笑顔で残酷な言葉を吐いた。


「問題ないぞ、胸がないからな」


「余計なお世話だっ!」


 パンといい音を立てて、ジルの頬に平手が飛んだ。むっとした表情で身を起こすルリアージェに、眉尻を下げたジルが言い訳を始める。


「大丈夫、オレはぺったんこでも気にしないというか、ささやかな胸の方が好きだぞ」


「……それ以上言ったら、二度と口をきかないぞ」


 本気のルリアージェの脅しに、ジルはお手上げだと降参を示す態度で床に座り込んだ。ベッドから起き上がったルリアージェは解けた髪を手櫛で梳かしながら、まだ頬を膨らませている。


「たらしのジフィールが、リアに翻弄されてるなんて……本当に素敵な光景ね」


 嫌味たっぷりのライラだが、ジルが女魔性を次々と美貌でたらしこんだのは事実だった。その行為が魔王達への嫌がらせという裏事情を知らなければ、たらしのジフィールは不名誉な二つ名と言えよう。もっとも、ジルは気にしていないが。


「女心がわからない奴だ」


 尖らせた唇で抗議するルリアージェの姿に、ライラは転げるほど大笑いし始めた。堪えようとした笑いが決壊したらしく、涙が滲んでも笑い続ける。


「ところで、リシュア達はどうした?」


 笑いやみそうにないライラを諦めて、ルリアージェはジルに向き直った。民族衣装をするする脱いで、ジルが手渡すドレスに着替えていく。そこにジルを男として見る感覚は皆無だった。


「あのさ、一応オレも男なんだけど」


「知っているぞ」


 ……男の意味が通じていない。異性だと認識されていないのか。


 さらに笑いが止まらなくなったライラは、苦しそうにヒーヒー言いながら床を転がっている。横目で見ながらジルは「いつか叩きのめす」と拳を握った。昔ならこの場で即攻撃していただろう。


「はぁ……リシュアは危篤を装ってる。リオネルとロジェは付き添い」


 溜め息をついたジルが簡単に説明してくれる。リシュアが危篤だと言い切らなかったのは、勘違いしたルリアージェが騒がないようにだ。数ヶ月の付き合いですっかり性格を把握していた。


 基本的に勘違いや早とちりが多い。天然で無自覚にヤバイ発言をすることも多々あり、穏当な人間関係を構築して友人を増やすタイプではなかった。逆に嘘はつかないし、真面目なので、魔性好みの性格だといえる。


 ジルが復活するまで、よく変な魔性に取り込まれなかったものだ。


 紺色のドレスに着替えたルリアージェの胸元に、大きなコサージュをつけてやる。それから黒いローブを取り出して肩にかけた。ようやく笑い終えて落ち着いたライラが、涙を拭きながら近づいてくる。ローブの裾を整えるフリで、ジルはライラの足を踏んだ。


「痛いわ」


「良かったな、痛覚が正常で」


 にっこり笑っての応酬は口先だけだ。痛覚が鈍い魔性である以上、足を踏まれたくらいで反応するライラではなかった。知っていて応えるジルも大概だ。


「ジル、飲み物」


「はいはい。紅茶にする? それとも果汁?」


「紅茶、レモン入り」


「かしこまりました。お嬢様」


 おどけた仕草で一礼すると、空中からポットやカップを取り出して優雅に紅茶を入れ始める。ジルが亜空間を操ると知ってから、ルリアージェは自分の空間に入ったものをほとんど彼に渡していた。


 ルリアージェの収納は、一度すべての物を並べて結界で包んでから時間が止まった空間へ移転させる。収納魔術が使える人間は少ないので珍しがられ、旅ではテントや寝具も収納できるので重宝だった。だが欠点があり、一度結界ごとすべての物を取り出さなければならない。毎回荷物をすべて取り出すための場所や労力を考えると、使い方が限られる能力だった。


 ジルが隠していた亜空間への収納なら、欲しいもの単品で引っ張り出せる。その便利さに目をつけたルリアージェがすべての荷物をジルに預けたため、現在の彼女の収納に入っているのは緊急用の食料や衣類くらいだった。


「すっかり執事ね。死神から執事に二つ名を変更したら?」


 ライラの嫌味をスルーしたジルは、ルリアージェに薔薇模様の美しい陶器のカップを手渡した。同じ柄のポットを無造作にライラに投げる。慌てて受け止めたライラだが、途中でジルの指先がちょっと悪戯をしたため、頭から紅茶を被るはめになった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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