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第25話 花の国の物騒な王(2)

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆


 必死で説得した結果、なんとか戦は思いとどまってくれたらしい。どっと疲れたが、ライラは無邪気に繋いだ手を揺すっている。


「ねえ、リア。あたくしは屋台の甘い巻物が食べたいわ」


「もしかして果物やクリームを巻いた菓子ですか? すぐに用意させましょう」


 部下を呼びに行こうと動く国王を、笑顔のままでライラは止めた。


「いやよ、屋台で買って食べたいの!」


「はあ…」


「好きにさせてやれ、それに祭りを見に来たからリアも案内してやりたいし」


 勝手に観光すると言い放ったジルだが、配下であるリシュアはそう簡単に頷ける話ではない。治安には気を使ってきたが、万が一にも己の分を弁えない存在が現れて彼を不愉快にさせたら……。心配は尽きない。もちろんジルに喧嘩を売るような輩を見つけ次第、投獄する用意は必要だった。


「ならば警護兵をつけますので」


「邪魔」


「では、私がご一緒して」


「要らない」


 提案はすげなく断られてしまう。がくりと肩を落とす姿はひどく哀れで、国王という華やかな地位の男には見えなかった。


 午後の穏やかな日差しが少しずつ傾いて、オレンジ色を帯びてくる。どの国も祭りは夜の方が盛り上がるもので、ライラやルリアージェの意識は夜祭りへ向かいつつあった。


「ジルを街に出すのが不安なんじゃないか?」


「いいえ! ジル様が望むであれば、この国も捧げます」


「…………それは、行き過ぎだと思う」


 艶のある黒髪を揺らして、国を滅ぼす話を即決した国王に絶句する。落ち込んだ姿が気の毒で呟いた言葉が、予想外の言質をとってしまった。1000年も守った国を、主が命じるなら捧げるという。


 大災厄を街に放り出した際のトラブルを心配しているのかと思えば、まったく違っていた。1000年前の戦いに参加せず、挙句に主が封印されて会えなくなった事態に、リシュアがずっと自責の念に駆られていたなど、誰も知らない。


 次は己の命を含めたすべてを捧げる決意をしていたリシュアは、明暗の瞳を細めて笑った。


「私にとってジル様より優先する存在は、もういませんから」


 かつて妻となった人はとうに鬼籍に入り、魔王に匹敵する魔力があっても再会は叶わない。彼女の面影をもつ子供達も亡くなり、今の子孫は他人も同然だった。それでもこの国を存続させたのは、主の命令があったからだ。


 戦い前に駆けつけたリシュアへ、ジルは淡々と言い聞かせた。


『守る存在を間違えるな。今のお前は妻と子供を守ってやれ。連中は寿命が短いんだ、一緒にいられる時間は永くない。それでも余裕があれば、オレを守らせてやるよ』


 あの言葉を噛み締めて、封じられた衝撃に自滅したいほどの後悔を覚えて、それでも言葉を守り続けた。いつか主が復活したときに、胸を張って「約束を守った」と誇りたかったのだ。


「国王を代替わりするなら、面倒な葬儀やら儀式が終わってから来い。リオネルが喜ぶぞ」


 祭りの後に国王の崩御を勧めるジルはくすくす笑いながら呟く。名を口にしても喚ぶ力を込めていないから、リオネルには届かないだろう。


「確かに彼は喜ぶわね」


 ライラが相槌を打つ。ジルとまったく逆の意味で、面倒な主に心酔する側近が一人増えれば、自分の役割が楽になると喜ぶはずだ。


 自分勝手に振る舞い問題を起こすジルを、常に嗜める側にいるリオネルは面倒だと思った。逆にリシュアは喜んで彼に追従してしまう。一緒に騒動を大きくするタイプの部下だ。


「祭りを楽しんでくる。勝手に戻るから、部屋の座標だけ教えてくれ」


「はい、座標をお送りします。3部屋ですか?」


「「2部屋だ(よ)」」


 ライラとジルがハモる。顔を見合わせて互いにルリアージェと同室になろうと言い争う姿勢を見せるが、ルリアージェが空気を読まずに壊した。


「いや、気遣いは無用だ。1部屋でいいぞ」


「……人間の社会では別々の方が一般的だと思いますので、3部屋ご用意します」


 用意してもらうのに手間を増やしては悪いと考えるルリアージェの爆弾発言を、一番人間の常識を理解しているリシュアがさらりと方向修正した。


 謁見の間に差し込む日差しはかなり傾いている。かなり時間が経っているが、誰も顔を見せないことに疑問が浮かんだ。


「誰も来ないのだな」


「命じておりますから」


 人払いをしたのだと笑うリシュアが、人差し指を自分の唇に押し当てる。内緒だと示す仕草に、どうやら最初から親密な話を聞かせないように気遣ったのだと知る。


 確かに物騒な話が多かった。国を魔性に捧げたり、国王が人ではなかったり、帝国滅亡の大災厄がいたりと他者に聞かせられる話じゃない。


「ご一緒できませんが、祭りを楽しんで来てください」


 一礼する国王は、玉座へ戻ると床に転がる王冠を拾い上げた。多くの宝石が飾られた豪華な王冠を頭の上に載せ、それから思い出したように手を打った。


「ジル様、この国の金貨を用意させますのでお持ちください。あとルリアージェ様のご衣裳ですが、滞在中に必要な分として十数着用意させます。ライラ殿は不要ですね」


「あたくしに冷たいのではなくて?」


「氷の塊を投げつけなかっただけ、感謝して欲しいものです。200年前に第二の首都を半壊させた詫びを取り立てても構いませんよ?」


 リオネルに似た穏やかな口調と、恐怖を覚えさせるくらい綺麗な笑みに、ライラは何も言わずに目を逸らした。この国の話をしたときに「いきなり氷を投げられた」と聞いたが、どうやら相応の理由があったらしい。


 第二の首都と言うからには、相当に発展した都だったのだろう。それを半壊させられたのなら、氷の塊を投げる程度の反撃で済ませたリシュアは寛容だといえた。


「……そうだったかしら」


 誤魔化すように横を向いたライラは、繋いだ手の先のルリアージェの表情を窺う。いい加減彼ら魔性達のトラブルの規模に慣れてきたため、さほど驚きはなかった。苦笑してライラの髪を撫でる。


「詫びはしておけ」


「ごめんなさい」


「謝罪はお受けします。1度だけご協力をお願いすることで、終わりにいたしましょう」


 笑いながら妥協案を口にしたリシュアは、さほど怒ってないらしい。根に持たないのは魔性特有なのか、人間同士ではこう簡単に話は進まない。さっぱりした彼らの関係は、ルリアージェにとっても居心地がよかった。

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