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第105話 考え方ひとつで世界は色を変える

 人族が住まう大陸と違い、この大陸はわかりやすい形をしていた。巨大な山が中央にそびえたち、裾野に平原が広がり、砂がある砂漠がある裏側と緑豊かな表側にわかれる。山の上部は凍り付いており、中腹にいくつか火口があった。


「この山が大きく噴火したのは2000年前くらいか。それから後は数百年単位で横からマグマが吹き出す程度だ」


 簡単そうに言うが、数百年単位の噴火など長寿の彼らでなくては把握できないだろう。山の上部はもう休火山状態で冷えており、標高が高いこともあって凍り付いていた。毛皮を纏ったルリアージェを連れて、ジルは山の頂上付近の洞窟に降り立つ。


 こちらの大陸では人目を気にする必要がないルリアージェは、背中に羽を解放していた。2枚の翼を広げていると、不思議なことに外気温に影響を受けにくい。まったく感じないわけではないが、透明の繭に守られる感覚があった。


「寒くない?」


「ああ、翼があると寒くない」


 短く説明しすぎたかと言葉を探したが、それより早くジルが頷いた。


「そうだろうな。精霊が集まってる」


 神族の血を引くジルは精霊が視える。人族のルリアージェにはぼんやり感じる程度で視えない精霊だが、恩恵だけは同じように与えられた。


「ありがとう」


 精霊たちに礼を言うと、途端に暖かさが増した。特に手のひらが温かい気がして、目をこらすと小さな光が集まっているのが視える。撫でるように指先で触れると、ひらひらと動いて指先に止まった。


「懐かれたな」


 くすくす笑うジルが教えてくれたところによると、まず精霊が視える種族が少ない。視えたとしても触れる者はもっと限られていた。そのため、光という形態であっても認識して触れるルリアージェに興味を持ったのだという。


「何か命令したらきっと叶えてくれるぞ」


「命令か、慣れない」


 筆頭宮廷魔術師として指揮をしたことはあるが、それも数えるほどだ。他人に指示されることはあっても、自分が命令する立場にいなかったので弱音が漏れた。翼ある者は精霊たちの主だという。しかし精霊を上手に動かしてやることは出来ないだろう。


 眉尻をさげて困惑顔のルリアージェの頬に、光がひとつ寄り添う。まるで慰めるような仕草に、そっと手で覆った。


「命じなくても頼んだらいいじゃないか。いつもオレ達を頼ってくれるみたいに」


 無理やり命じる必要はないとジルが笑う。こういう考え方の柔軟さは、ルリアージェに欠けた要素だった。逆に解決のために妥協するという人族特有の行為を、魔族である彼らは思いつかない。


「オレ達は話し合いをしない。上から力で抑えつけて命じるのがやり方だ。それを話し合って半分に分ける方法はリアが教えてくれたんだ。だからリアが困ったなら、オレが助けるのが順番だろ?」


 順番の概念もなかった魔性達が我先にと争った際、ルリアージェが言い聞かせた。同じように接するから、順番を決めてこいと。そんな人族にとって当たり前の考え方も、彼らには新鮮だったらしい。


 長く生きた分知恵は回るし知識もあるが、それは情緒や感情を育てるものではなかった。ただ幼い子供が好き勝手に時間を費やしてきただけ。人族が主だからこそ、彼らは争う以外の解決方法を知ることが出来たのだ。


「いいのか? それで」


「なんでダメだと思うんだ」


 笑いながら言われると、難しく考えすぎている気がした。彼らと一緒に生きていくと決めた以上、多少なりと自分も歩み寄るべきだろう。


「わかった。素直に頼ることにする」


「そうしてくれると嬉しい。オレも……アイツらも喜ぶよ」


 光が何かを教えるように点滅し、洞窟の外を指し示す。気づいたルリアージェが動いて首を出した。吹雪いている山は気温が低く、しかし凍えるような寒さは感じない。目で見る寒さと肌が感じる温度の差に、おかしくなって笑ってしまった。


「楽しそうだけど、何かいた?」


「いや。こうしてみる景色は凍えそうなのに、精霊たちのお陰で寒くない。なんだか不思議なんだ。人として経験して積み上げた感覚との差がおかしくて」


「ああ。人族だと寒いどころか凍ってそうな気温だからな。この吹雪だと雪竜は外へ出てるぞ」


 ジルの目的のドラゴンは雪竜というだけあって、吹雪を喜んでいるらしい。洞窟にいると踏んで転移したジルは「当てが外れた」と笑って外へ歩き出した。己の靴先も見えない真っ白な世界で、繋いだ手を引っ張られる。


「絶対に離すなよ」


「わかっている」


「見失うようなヘマはしないけど」


 たとえ手が離れても、何も見えなくても、必ず見つけてみせる。そんな強い言葉を少し茶化すあたりが、彼らしい。きゅっと強く握って、顔を上げた。


 真っ白な世界は美しく、光も闇も存在しないような空間を作り出す。人の悩みや想いなど飲み込んで塗り潰してしまう、強力な魔法のようだ。吹き付ける風がごうごうと音を立てるのに、肌に雪が叩きつけられることはなかった。


 ふわふわと周囲を舞う精霊達が守ってくれる。行く先はジルが示してくれる。何も怖くなかった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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