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【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第二十章 愛し愛される資格

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第88話 愚か者は裏切り躍る

「……渡すな、マリニス。その女を…っ、ごほっ…押さえて、おけば、勝てる…っ、のだぞ?」


 溢れた血に溺れかけたラーゼンの発言に、マリニスは首を横に振った。水の魔王トルカーネが散った今、最古の魔王はラーゼンだ。長く生きた男が自分に執着した理由は知らないが、最初は若い魔王への好奇心だったのだろう。


 興味が執着へ変化し、いつの間にか固執にまで進化した。大切に守られる居心地の良さに甘えたが、マリニスだとて火の魔王の名を受け継ぐ男だ。いつまでも繭に包まれ、微温湯に浸って逃げていられるわけがない。


「死神ジフィール、この女を返せば手を引くか?」


「……お前、何か勘違いしていないか?」


 眉をひそめたジルが不機嫌そうに吐き捨てる。霊力と魔力が互いを喰らい合いながら、ジルの周囲で渦を巻いていた。巻き込まれた黒髪がぶわりと風をはらみ、広げられた黒い翼が威圧するように羽ばたく。


「新参者の魔王ごときが、オレと対等の取引が出来るとでも?」


 右手首から垂れる血がぼんやりと光を放ち、足元に血の魔方陣を描く。この時間を稼ぐために、マリニスと無駄な話をしたのだ。流した魔力文字に神族の血を注ぎ、高めた霊力で固定した。にやりと口角を持ち上げたジルの背後に、3人が召喚される。


「お待たせいたしました、我が君」


「多少苦戦されたみたいですね」


 リシュアとリオネルは膝をついて、ジルの衣の裾に接吻けた。少し離れた位置で新たな魔方陣を用意するパウリーネが、城に用意した氷球を呼ぶ通り道を開く。一気に周囲の温度が下がり、冷たい風がパウリーネの足元から吹きだした。


 作った大量の氷は魔力ある限り溶けることはない。この氷の結界をターゲットの周囲に置くことで、最上級魔術を使う手筈が整うのだ。


「いつでも構いませんわ」


「やれ」


 氷球で魔方陣を描く水虎(ティル)を従えるパウリーネへ、ジルは攻撃の指示を出した。まだルリアージェを人質に取っているマリニスは慌てて炎の結界を張る。ルリアージェを閉じ込めた球体を引き寄せて盾にしようとした彼の手は、(くう)をかいた。


 驚愕の表情で視線を向けたマリニスの腕を、緑の光が切り裂く。ずたずたになった腕を引き寄せたマリニスの前に、ブラウンの髪の女が立っていた。まろやかな曲線美を誇る肢体は緑の衣をまとい、同色の瞳はとろりと垂れて蠱惑的だ。足元に引きずるほど長い茶髪が、まるで生き物のように蠢いた。


「誰だ、貴様っ! 死神の眷属か」


「ライラ!」


 見たことがない大人の姿で現れても、ルリアージェは惑わされない。どうしたのかと問う響きを滲ませながらも、迷うことなく名を呼んだ。


 にっこり笑った女性は裾の長いロングドレスを捌いて、奪い取った球体を抱きしめる。両手から放たれる癒しの緑が絡みつき、蔦は球体を覆いつくした。ぴしっと乾いた音が響いたあと、球体は割れて砕ける。


 破片を浴びないよう自らに『白天の盾』を施したルリアージェが、蒼い瞳を輝かせてライラに抱き着いた。少女の姿と違い、抱き合うと視線が近い。本体である子供の身体を脱ぎ捨てたライラは、精霊としてこの場にいた。


 どんな場所でも入り込める精霊の特性を利用し、ルリアージェの居場所を探しあてたのだ。本体は氷の棺に納められ、滅多なものの侵入を許さない死神の黒城に保管された。これ以上安全な場所はなかなかない。そのため本体を傷つけられる心配なしに、ライラは動き回っていた。


「よくわかったわね、リア」


「間違うはずがない」


 言い切ったルリアージェを引き寄せたライラの周りに、緑色の蔦が結界を作り出す。触れる敵を排除し、魔力尽きるまで侵入を防ぐ鉄壁の守りだった。魔性殺しのアズライルの刃であっても苦戦するほど、堅固な守りの中で、ライラはマリニスへ微笑んだ。


「死神の眷属ではなくて、リアの眷属よ。失礼な火の魔王さん」


 ライラが言い終わった瞬間、リオネルが白炎でマリニスを覆い隠した。火の魔王マリニスに扱えない最上級の白炎が退路を断つ。手札を奪われ囚われたマリニスに、容赦なくパウリーネの氷球が襲い掛かる。咄嗟に結界で防ぐが、こらえきれずに膝をつく。


 火の魔王マリニスの欠点は、冷気だ。通常の冷気ではなく、氷静のパウリーネが操る最上級魔術である『凍獄』がマリニスを覆った。炎のような魔力が萎んでいく。身動きできなくて、息苦しさにマリニスの顔が歪んだ。真っ赤な髪が顔を覆う。


「…ジフィー、ルっ……、取引、を……ないか?」


「うん? 何を」


 圧倒的に有利な立場のジルに対し、どんな取引を持ち掛けるのか。ラーゼンの声に首をかしげて続きを待った。


「……あの、女の命、と……っきか、え」


「何か仕掛けたか?! ライラ!!」


 ルリアージェの命と引き換えと聞いた時点で、ライラの名を呼ぶ。反応したライラの手を、ルリアージェが振り払った。本人の意思でないのは、彼女の表情でわかる。身体が操られる不気味な感覚に、美女は叫んだ。


「私に近づくな。何をするか、わからない!」


「リアを放り出せるはずないでしょ!」


 たとえ長い己の生命に終止符を打つことになっても、魔力や霊力が吹き荒れる外へ放り出すなんて出来ない。この結界は敵を排除するまで解かないと強く願いながら、ライラは蔦に命じた。この命が尽きても、魔力が残る限り結界を解かぬように……と。


 ルリアージェの手が震えながら持ち上がり、己の首にかかった。指先が赤くなるほど力を込めて自らを絞める。人は自分の首を絞めても意識がなくなった時点で手が緩むものだ。しかし操られた身体は、確実に死ぬまで絞め続けるだろう。


 最愛の存在を失ってしまう――ジルの表情が歪んだ。


「ちっ……わかった。お前を見逃せばいいのか?」


「……リニ、スを」


「ダメだ! ラーゼン!!」


 もっとも苦手とする冷気に苦しめられながら、マリニスが白炎の中で叫ぶ。一瞬宙を睨んだジルがひらりと手を振った。


 主の合図で、パウリーネは氷を水に変えて流す。リオネルも白炎を消し去った。補助に徹していたリシュアも魔力を散らせる。


 攻撃の解除を命じたジルの意思を汲んで、誰もが引き下がった。悔しそうな顔をする者はなく、不安そうにライラの緑の蔦を見つめる。解けていく蔦の中から、ライラに支えられたルリアージェの銀髪が覗いた。


 咳き込んでいるが、もう自分の首を絞める手は自由になっている。急いでルリアージェの隣に転移したジルが、心配そうに眉根を寄せた。首についた指の跡を治癒して抱きしめる。奪われたライラが肩を竦めた。


「両方とも助けてやる。貸し1だぞ、ラーゼン」


 忌々しいが、彼らが互いを庇う姿にルリアージェを想う自分が重なった。左手で触れてアズライルを消すと、首の傷を撫でて治したラーゼンが立ち上がる。


「姫君を苦しめたことは詫びよう。この借りはいつでも返す」


 ラーゼンがルリアージェに寄り添うジルに頭を下げた。ぶわりと大きな風が巻き起こり、風の渓谷の気流が乱れる。


「風の魔王ともあろうお方が、なんてざまだ」


 吐き捨てるように声を上げたのは、暴風のエアリデだった。彼の手に握られた白い粉に、ジルが口元を緩める。挑発するように、3人に合図を送った。


「愚か者と弱い奴ほどよく吠える」


 最初に動いたのは好戦的なリオネルだ。青白い炎を風の螺旋に乗せて、エアリデへ送り込む。叩きつける暴風で防ごうとしたエアリデの反応は早かったが、風を操る能力ではリシュアの方が上手(うわて)だった。


「この程度の実力でケンカを売ったのですか」


 さらに挑発する2人の後ろで、パウリーネが眉をひそめた。


「やだ、私の出番がなくなっちゃう」


 鋭く尖らせた氷の矢を大量に作り出し、エアリデの周囲に散らせる。どこからでも狙えるよう、数百本の矢を一瞬で作りだした。逃げ場を奪った死神の眷属達が包囲網を狭めていく。リオネルの口角が持ち上がった。


「どうやって死にたいですか?」

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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