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花はまた咲く。

作者: 御神籤(おみくじ)

“おみくじ”と申します。初投稿です。よろしくお願いします。

日々過ごしているとそんなに良いことはないが、悪くはないなと思えるような話だと思います。

 第一志望の国立大は不合格だった。

 ひとつだけ届いた合格通知は、ろくに調べもしないで受験した私立の、名前を知っているからという理由だけで選んでみた学校からだった。

 夢とか希望とか微塵もない、それが私にとっての東京だった。


 初めて降りた飯田橋。家から片道3時間半。さすがに一人暮らしを決意する。

 お祭りでもないのに人はたくさんいるし、みんな足早に歩いてせわしない。眩暈がした。

 勇気をふり絞ってお隣さんに引っ越しの挨拶をしたら、すごく不思議そうな顔をされた。

 段ボール箱ばかりの部屋はカーテンもなくて、無遠慮に入ってくる月明かりが冷やかに照らしている。泣けてきた。


 そんな気持ちのまま迎えた入学式。うつむき見るのは足元ばかり。ようやく上げた目に入ってくるのは喜びに満ちた顔、顔、顔。落ち着かなくてなんとなく裾を握りしめる。

 しわが寄ったところから、彼らの放つ輝きにあてられて自分のスーツごと朽ちてぼろぼろになっていくように思えた。

 そのとき、風が吹いた。色濃く見えた私の影に、淡く鮮やかな彩りが差す。

 たくさんの花びらだった。

 桃色の雲が武道館を取りまく。歓声が聞こえる。すべてを祝福するかのように桜が舞う。

 ただ、胸が熱くなった。


 それから十年くらい経つ。私はまだ東京に住んでいる。

 就職難という氷河期をなんとなく乗り越え、生活もそれなりに安定してきた。少ないながらもボーナスももらえる。最近の悩みは親から「早く所帯を持て」と催促があることぐらいだろうか。

 通っていた校舎はだいぶ改築された、と大学の学生課に就職した友人から聞いた。歴史ある建物も老いには勝てず、清潔感あふれるいまどきの装いになったらしい。似合わないような気がして、少し笑った。

 人の想いとはうらはらに時間は過ぎてゆく。景色もそれを受け入れるように変わっていく。

 私も、変わったのだろうか。


 社内の研修に参加するため、久しぶりに飯田橋駅で降りる。

 視界に飛び込んできたのは一枚の花びら。それを合図にするかのように、吹きあがる春の風。

 見上げれば満開の桜。それに埋もれて見える私の母校。

「さまになってるじゃないか」

 そっと、つぶやいてみた。


今回は短編でしたが、いずれ中・長編や連作にも挑めればと思っています。

いくつか構想はできているのですが…形にするのって、ほんと大変ですね(涙)

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