通電
初投稿です。
自分と関係のない人だから、話せてしまうことありますよね(´・ω・`)
誰とでも話せてしまう現代だからこそ、起こり得てしまう恋愛だと思います。
通話する君、電話する僕。
↓出だし的なの↓
目が覚めた。
携帯を無意識に確認する。7時32分、携帯のバッテリー残量が少ないことが情報として入る。
元から授業中に携帯をいじる質ではないし、置いていくことに抵抗は感じない。部活動の連絡は友人に聞くとしよう。
寝る体勢からギリギリ届く充電ケーブルに携帯を繋ぎ、昨晩に返し損ねた返信を済ませ、布団から出る。・・・はずだったが、体はそれを受け付けない。
「あんたいつまで寝てるでー!?」
頭の中の自分が自転車のペダルを漕ぎ始めた頃、通学中には入ることのない母の声で現実世界に戻される。目に入る光景は家の中だった。
……やばい、遅刻だ。
急いで荷支度を済ませ、家をあとにする。幸いにも天気は晴れだった。漕ぎなれた自転車のペダルの軋む音が遅刻するかもしれないという不安を煽る。
しかし俺には遅刻しない自信があった。家を出て住宅街を抜けた先には長い一本道があり、人通りも少ないことから登校中に最も時短できるコースだ。何より俺の自転車、通称チャーリー君(名付けた時はずいぶん馬鹿にされた)の力が発揮される場所でもある。
長い一本道の直前にある信号で、静かにその時を待つ。
車よりも先に動き出すことができるのが自転車の特権だ。信号が青に切り替わった直後、俺はペダルに力を注ぎ込む。
「行こう、チャーリー君!」
言葉では発しないものの、心の中ではチャーリー君と一心同体となって颯爽と走り出した。
多分だけど、陸上の100m走の大一番でのスタートダッシュに成功した気分はこんな感じなのかなぁ……この優越感はたまらない。
「気分はどうだいチャーリー君?」
心の中は誰とでも喋れるコミュニティスペースだ。そんな事を考えながら風を感じるチャーリー君に問いかけた直後の出来事だった。
「ガタン!ガタン!」
連続的に低く激しい音を出しながら俺たちは振動した。チャーリー君がついに意思疎通を始めたか?そんなくだらないことを考えていると、いつしか俺たちのスピードは落ち、ペダルは重くなり、音は周期的になっていった。
どうやらチャーリー君はパンクしたみたいだ。後輪が前輪とは比較できないほど潰れているため、チャーリー君の後輪は重傷と言えるだろう。俺はそんな彼にムチを打って急いで学校を目指した。
高校には始業の2分前に到着した。重傷を負った彼を庇って(ムチ打って)この記録なら、天国の後輪様もきっと悔いはないだろう。寒さを忘れさせる暖かい春に、今日の俺の全身は真夏日だった。
☆☆☆
時刻は深夜0時を少し過ぎた辺り。暗くなった視界に目が慣れ始め、部活動で溜まった疲労から睡魔が襲う頃、静かな部屋で布団にくるまっている俺はいつも通り加奈子と通話を始めた。
「―――とまぁこんな感じだったかな、今日は。達はどうだった?」
「どうだった?じゃないよぉ。チャーリー……ふふっ 達は相変わらず濃い日々を過ごしとるねぇ」
声を聞くだけでもよく分かるくらいにゲラゲラと笑っていた。どうやら俺は馬鹿にされているみたいだ。
「……まったく、人の不幸な話でそんな笑うと罰当たるよ?」
「だって達らしいじゃん。聞いてて飽きないけぇ」
「らしいって、まだ会った事もないくせによくもまぁそんなこと言えるよねー」
「まぁ確かにそうだけど、面白いよね。可哀想でもあるけど」
「一言余計なんだよなぁ、まったくもう。」
馬鹿にされてはいるんだけど、彼女が言うと不思議と許してしまう自分がいる。何故だろうか
「余計な事なんて言ってないですぅ……って、痛っ!」
通話越しに伝わってくる物音から察するにどこかぶつけたのだろう。こんなタイミングで罰が当たるんだから許せてしまうのかもしれない。
「加奈って相当ドジだよね。典型的なド天然かってほどに。」
「いや天然じゃないし!たまたまじゃけ!もう寝るからね!」
たまたまにしては多いような気がしたが、そんな余計な一言は心のうちにしまっておく事にした。
「はいはい分かった分かった。通話はまた繋いだままにしとく?」
「今日は切っても大丈夫やよ。ちゃんと充電しときな?」
「余計なお世話だ。…んじゃ、おやすみ。」
「ん、おやすみ。」
ピロロンッという音と共に今日の通話は終わり、再び部屋に静けさが残る。ベッドから動きたくない俺は携帯の充電ケーブルをやっとの思いで取り、マイク付きイヤホンを取り外してからケーブルにさした。
こうして何気ない一日は終わった。寝る前に今の時刻をなんとなく確認すると、時刻は1時を指していた。何気なく確認した時間の他に、日付や明日の天気を確認できた。
「(加奈と話し始めて2年、出会って4年か…)」
俺が加奈子と通話し始めてから2年、出会ってから4年が経過していることに気が付いた。
我ながら長い付き合いだなと感じる。多少腐れ縁ってのもあるけれど、それでもいい相手が見つかったと思う。
加奈子がいなかったら多分、今の生活は無かったのかもしれないのだから。
読んでもらえて嬉しいです(゜∀゜)
不定期に更新していくつもりですので、興味があれば読んでもらえると嬉しいです。