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ツキ呼び王女の婚活  作者: 百七花亭
Ⅰ ツキ呼び王女の婚活
1/27

1 ツキ呼び王女、エキセントリックな日常

 北の大地にあるエッジランド王国。

 国土はちいさいが作物は豊かに実り、王都グライヒルはにぎわう。

 目抜き通りの先に聖女を祀る聖殿があるせいか、もとは厳かで禁欲的──、言いかえれば古物的で少々陰気くささのある都だった街並みや文化は、ここ四年ほどで飛躍的に華やかに洗練されたものへと変わっていた。

 どっしりと簡素な造りの建物は、優美な流線のはいった繊細で凝った造りのものとなり、偉大なる故人の訓戒をあらわす堅苦しい印象の彫刻や絵画は、心安らぐあかるいものとなり、かろやかな楽曲が流行って、衣装もあかぬけてそれに倣った。

 魔法による温室で栽培した、南国産の果物や花をつかった料理や菓子も人々に受けた。

 その貢献者たるは王族の二の姫。マリエッタ・グラン・エッジランド、歳は二十。

 彼女はみずからの私財を投じて、貧しさゆえに才を伸ばせない若き芸術家らを支援し育ててきた。

 マリエッタは美しいもの、斬新なもの、癒されるもの、心躍らせるもの、心を豊かにしてくれるものが、何をおいても好きだった。

 とはいえ、王女個人の趣味でやるには、いささか手を広げすぎている。

 建築家、彫刻家、画家、彫金師、硝子細工師、音楽家、料理人、針子、織物師、布染め師、等々上げればきりがない。

 その多額の育成資金は、いくら王族といえど国庫から出せるはずもなく。

 彼女の、とある才から生み出されていた。それは──





 5月28日


「これでわたくしの勝ちね!」

「まいったなぁ、マリーちゃんには敵わないよ」

 鴉羽の仮面をつけた三十代ほどの紳士が、両手をかるくあげて降参の意を表した。

 目の前の壁には二メートル四方の光る絵画がある。

 青空と海に浮かぶ帆船ののどかな風景の絵だ。それがふたつ並んでいる。

 美しい白金の髪を両耳の上でふたつに結いあげた少々背の高い女性の前には、完璧な一枚の絵。一方、そのとなりに立つ紳士の前の絵は、三分の二ほど欠けている。

 目元に金色のリーフ仮面をつけた彼女は、うす紫色の瞳をほそめてほほえんだ。

 それは魔法絵画のパズルゲーム。

 脇にある小テーブルの中から両手サイズのピースをとりだし、それを壁の中の額縁に埋め絵を完成させるのだ。絵に関するヒントはなし。一ピースの場所が合致するごとに、ピースの境界線が消えて融合してゆく。速さが勝負の決め手となる。

「ちょっとでいいから、コツを教えて欲しいな」

「うふふ、想像力ですわよ。あとは、運ですわね」

 にこやかに答えつつ相手から大銀貨を一枚受けとり、それをうしろに控えていた自分の護衛にあずける。

 ここは高級宿〈黄金梟亭〉の中にある遊技場。貴族の社交場でもあり、大なり小なり金銭を賭けて遊ぶ。マリエッタはマリーと称して、よくこういった国内や近隣諸国の高級賭場をわたり歩いていた。

 本日は王都郊外の東にある保養地ハリマオに足をのばしている。

 つまり、これが彼女流、芸術家たちへの支援金稼ぎの方法である。

 彼女の賭け事におけるツキは異常で、この八年間、無敗で通してきた。

 自身でも不思議だが、勝ち目というものが見えるのだ。

 たとえば魔法絵画のパズルでも、どこにどのピースが来るべきか、瞬間的にわかってしまう。常からよく絵画鑑賞しているので、想像力という答えもまちがってはいないが、おそらく、はじめて見るバラされた絵を、瞬間的につなげることができるのは彼女ぐらいだろう。

 〈賭博の妖精マリー〉などと呼ばれるほどには有名だ。

 知っている人は知っている、公然の王女様のお忍び遊戯。

 十二歳という若さから始めていたためか、あちこちに知り合いもいる。

 先ほどのように、ゲームを純粋に楽しみたくて挑んでくる知り合いには、さほどの金額は賭けない。貴族社会は人間関係によるストレスが大きいのだ。息抜きにある娯楽をひっかき回したいわけではない。獲物は良心の痛まない相手を選ぶのが、彼女のモットー。

 〈賭博の妖精マリー〉の勝負が終わったのを知ったほかの客たちがまわりに集まってくる。

「やぁ、今日もステキな金色のドレスだね。高貴な君にはよく似合うよ」

 まっ先に近づいた茶髪の青年が、そう言った。

「ありがとう」

「次は僕とゲームしないか?」

 続けてうきうきと誘ってくる。

「あら、貴方とは先月、カードをしたでしょう? 同じ方とは二度やらない主義なの」

「ほかのをやりたいんだよ! 次こそ君とのデートを賭けて!」

 すると、脇からがっしりとした体格の金髪を逆立てた青年が口をはさむ。

「おい、しつこいぞ! マリー、喉は渇かないか? よかったら向こうの席で軽いお酒でも」

「ちょ、待てよ! マリーはお酒が苦手なんだぞ! そんな下心見え見えで誘うなんて」

 そんな彼にクギを刺す、小柄な紫銀髪の少年がいた。

 ──ほんとうは苦手というほどではない。

 だが、以前、軽いお酒のはずなのに、異様に酔いの回りがはやいものを飲まされたことがあったため、断る手段としてそう伝えてある。あのときの相手は某国の第一王子。

 たぶん眠り薬を仕込まれていた。

 そのときは、忠義に篤い護衛たちのおかげで助かったけど。

 歳は二十代前後のなかなか顔面偏差値の高い三人の男に囲まれて、周りからはさぞモテモテのように見えるのだろうな、と思うマリエッタ。広げた扇子の陰でためいきをつく。

 三人は互いをけん制しつつも、ちらちらと視線はマリエッタのたわわな胸や、細くくびれた腰に向かっている。


 どうせこの人たち──わたくしの中身なんて、どーでもいいのよね──


 外見が好きなら顔を見ろよと言いたいが、彼らは〈賭博の妖精マリー〉の顔はろくに見ない。話しかけてくるときも、胸元に視線が固定されている。

 目元をリーフの仮面で隠してはいるが、がっつり厚塗りの化粧をしているため、かなり派手でどぎつい印象があるからだろう。目元にも黒のアイラインをガッと入れて、口紅も濃いめの赤で、気の強さを前面に押し出している。

 ──わざとである。化粧は彼女にとっての鎧、武装なのだ。

 男が自分のどこを見て、何を求めているのかもよく分かっている。

 茶髪はアウロ侯爵家四男で、無職のプー太郎。

 金髪はジーザス伯爵家次男で、ミストラ公爵夫人とシャロンド商会長夫人のヒモ。

 紫銀髪はパセム子爵家九男で、魔法が得意な騎士見習い。複数の侍女見習いに手をつけたあげく、刃傷事件を起こし自宅で謹慎中……のはず。何故ここにいるとツッコミたい。

 自分こそ王女が何してる状態なので、やぶ蛇をつつくことはできないが。

 こんなだらしない男どもに言い寄られて、うれしいわけがない。

 視界から三人をはずし、そろそろ本日メインの獲物を選定すべく、広い遊技場内に視線をめぐらせる。


 あら、憎憎しげに睨みつけてくるお嬢さんがいるわ。


 面識はないが、その顔には少々というか、かなり覚えがあった。

 以前、賭けで大金をむしりとった男によく似ている。

 目元にこれまた派手な孔雀羽の仮面をつけているが、そこからのぞくちいさな目、大きな鼻が上向き、頬のチークにオレンジ、ぼってりとした幅の広い唇は紫色。

 スミレ色のドレス姿でどすどすと床を踏みしめながら、彼女は目の前にやってきた。


「この売女! よくも兄様からお金をだましとったわね!」


 マリエッタは扇子の陰で、きょろきょろと辺りを見回す。


「あんたのことよ! あんたしかいないでしょう! この売女ッ」


「まあ、わたくし、初対面の貴方の兄など存じませんけど?」

 しらっと切り返すと、彼女は憤慨したように叫んだ。


「オーエン・シャロンドよ! 売女のくせに上品ぶって何様のつもりよ! 全部知ってるのよ! そのいやらしい体で兄様をたぶらかしたくせに!」


 やはり、一ヶ月前にむしったシャロンド商会長の身内らしい。

 そうだろうとは思ったが、念のための確認だ。彼には妹が一人いたはず。本人だろう。

 自分の正体を知らないのも仕方ないのかもしれない。シャロンド商会は上流市民であり、貴族ではないのだから。

 〈黄金梟亭〉は貴族専用の遊技場だが、裕福な商人や名士であれば、知り合いの貴族の紹介で入場することができる。

 いくら偽名のお忍びとはいえ、〈賭博の妖精マリー〉に面と向かって罵詈雑言をぶつける者はめったにいない。それが不敬であり罪となることを知っているからだ。

 エッジランドの王族はえてして温厚な方だ。ちょっとした不敬ていどでは、鞭打ち打ち首なんて残忍なマネはしない。せいぜい、城の地下牢で半年ほどクサイ飯を食べてもらうことになるぐらいだ。それでも反省がないようなら、さらに日延べにはなるが。

 ぬるいと宰相パズフィグスは言っていたが、牢から出た罪人は上流社会では周知されてしまうので、だれも相手にしなくなる。自分たちも不敬罪人の仲間と思われたら大変だからだ。社会的制裁による孤立。十分だと思う。


 さて、三度も罵ってくれたコレはどうするべきか。


 そばにいる護衛が〈こいつ、ふんじばってもいいですか?〉と送ってくる視線に、まだ動かないよう扇子をとじて合図を送る。


「たぶらかす? 人聞きの悪い。賭場でゲームをして負けたのだから、賭け金を支払うのは当然のことでしょう。商会がつぶれるほどの金額を賭けてきたのも、シャロンド会長よ? よほど勝つ自信がおありだったのね」


「うそよ! 胸だけしか取柄のない年増の化粧ブスの行き遅れに、兄様があんな大金賭けるわけがないわ! どうせイカサマしたんでしょ!」


 マリエッタの手の中にあるとじた扇子が、ミシリ音を立てた。

 突進する猪のような剣幕に、先ほどのダメンズもぽかーんとした顔でなりゆきを見ていた。いちはやく我に返った茶髪の青年が、この無礼な娘を止めようとその肩に手をのばした。

「止めたまえ! 君、なんというこ──ぐぎゃっ」

 まるまると太った手が彼の手をふり払い、ついでのように拳が彼の鼻を直撃。

 あわれ茶髪の青年はその場にひっくり返り、意識をとばした。


「兄様から奪ったお金すべてかけて、このベティ・シャロンドと正々堂々、勝負なさい!」


 マリエッタは、にこりと笑みを浮かべた。

 視界のすみでは〈黄金梟亭〉の制服を着た従業員たちが、茶髪の青年を運びだしてゆく。

「よろしいですわ。では、わたくしが勝った暁には、そちらはいかほどご用意できるのかしら」

「あたしが勝つんだから、そんなもの要らないでしょ!」

 ミシッ。

 よく似た兄妹だ。シャロンド会長も同じことを言った。

 勝負に負けてイカサマ呼ばわりもした。


 いけない、うっかり扇子を折ってしまうところだったわ。


 扇子を広げて折れてないか確認する。

「それではお話になりませんわよ。賭けとはフェアであること。むしろ、勝つのが前提なら何を賭けたってよいでしょう? それとも、怖がりな仔豚ちゃんにはそんな度胸もないのかしら」

 扇子の陰で後半ぽそっとつぶやくように言うと、ベティは猛然と食いついてきた。

「ふんっ! だったらうちの邸を」

「それはすでに、シャロンド会長からの支払い金にふくまれてますわ」

「じゃ、じゃあ、祖父様の王都郊外にある別宅でも」

「それもです」

「え、そ、それじゃ、兄嫁様のだいじな秘蔵の宝石コレクションでも、……えっと、担保に……」

「それもです」

 というか、何故、他人の持ち物ばかりで勝負したがるのか。

「……」

「ベティさん? 貴方の銀行口座には、貴方のお祖母様がこつこつ貯められていた結婚の持参金がありましたわよね?」

「な、な、なんで、あんたがそんなこと……!?」

 それはもちろん、獲物にしたシャロンド会長のまわりは徹底的に調べてあるからだ。

「ホホホ、〈賭博の妖精〉ですから。お金の匂いに敏感なのですわ。でも、さすがに大切な身銭は切れませんわよね。いいんですのよ? シッポを巻いて逃げても。だーれも責めたりしませんわ。怖がりな仔豚ちゃん」

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 当作品「ツキ呼び王女の婚活」は、現在、2chRead対策を実施中です。

 部分的に〈前書き〉と〈本文〉を入れ替えて、無断転載の阻止をしています。

 読者の方々には大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解の程よろしくお願い致します。 

  (C) 2016 百七花亭 All Rights Reserved. 

 掲載URL: http://ncode.syosetu.com/n1087dp/


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恋愛ものが苦手です。読み専だけど書けないタイプです。

メインで書いている「Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―」で、終盤(まだかなり先ですが)に向けてそういった心の機微を描く必要性も出てきます。苦手です──とか言っていられないので、早めのうちから練習を……というわけで。どうせ、私がふつうの恋物語を書いても途中でおかしな方向に逃げるのは分かっているので、婚活話にしました。最終的に素敵な婚約者様をゲットしない限り(恋愛感情含め)この話は終わらない、と自身に暗示をかけて。おかげでけっこう早く書き上がりました。


本日、あと二話投稿予定。

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