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羽摘み少女  作者: 片喰藤火
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序章

令和小説大賞に応募しました。


序章


 香の匂いが立ち込める鴛鴦えんおう神社の舞殿。

宮司から鴛鴦の羽をよって作られた祈り羽を渡された巫女が恭しく頭を下げた。宮司はご神体に向き直り、祝詞を唱える。

唱え終わると楽師の人達が笛と鼓を鳴らした。

高い笛の音は、空との境界を確かなものにするように鋭く、鼓の伯は、自然の鼓動を表しているように響いた。

巫女は立ち上がり、蝋燭の炎を揺らすことなく静かに舞い始める。笛の音が印した境界を越え、鼓の鼓動に自らの呼吸を合わせている。

彼女だけが別の世界に居るように見えた。


神楽を舞っている巫女は、空神家の血筋の者だ。舞い手は代々空神家の女が担当する。

 巫女の装束は特別で、背中が開いた小袖を着て、その上に羽織る千早にも背中の部分が楕円に開けられている。普段は見えない羽を具現化し、具現化された羽を見やすくするために開けられているそうだ。その羽が見えない人々に見えるようにする儀式を『羽見の儀式』と呼ぶ。今、その羽見の儀式の真っ最中だ。

随分古くから伝わっているらしく、その起源は知らない。儀式の舞は村人に披露したりすることはなく、閉鎖的に行われる。

 この儀式が終わったあと、村の家々を回って巫女が背中を見せる。実際には見えないが、村人がその羽を敬って褒めたりするのが羽見の儀式となっている。


 舞が終わり、これから村の家々を周るための準備を始めようかとする時、異変が起こった。

 巫女の背中からぼんやりとした黒い帯のようなものが伸びてきて、楽師の背中から光る何かを奪い去った。するとその楽師は倒れ、続けてもう一人倒れた。

宮司や他の神職の者は何が起こったのか把握できないで慌てている。

 巫女はただ、その場に立ちすくんでいる。

 巫女の背中にある羽が少し赤色をしている。その色は、薄っすらとした羽を透過した蝋燭の灯と黒い影が混ざったような禍々しさを漂わせていた。けれど僕はその『羽』から目を逸らせなかった。

 随分長い時間見ていた気がしたが、実際には数秒だっただろうか。気がついて視線をずらすと、戸の隙間から覗いていた僕の目を、巫女がじっと見つめていた。

 そして僕は、一目散に逃げ出した。





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