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好奇心は猫を殺す 前編


 ◇


 トントントン、トーントーントーン、トントントン。


「……もう朝か」


 俺の目覚めはいつも同じだ。目覚まし時計は置いていない。それでも、いつも決まって同じ時間に、起こされる。

 そう、『起こされる』だ。自主的に起きているわけでも、その時間に起きようとしているわけでもない。先ほども聞こえた、『トントントン、トーントーントーン、トントントン』という音によって起こされるのだ。

 それを、なんの音だ? と考える必要はない。初日こそ音の出所を探りはしたが、なんてことはなかった。一言で答えるならば、隣の部屋から聞こえてくる音――ただ単に、壁を叩かれているだけである。

 家賃は安く、木造ではあるが、造りはしっかりしている。不動産屋からは大声を出しても隣の部屋に声が聞こえることはないと太鼓判を押されているし、実際に隣の部屋の声が聞こえてきたことはない。

 それでも、直接壁を叩かれては響く音はある。


「ここに住むようになって早1ヶ月。何か迷惑をかけた覚えはないんだがな……」


 いったいどうして、毎朝ある程度決まった時間に隣の住人は俺の部屋を壁越しに叩くのか……。この裏野ハイツ203号室の住人になって1ヶ月になろうとしているが、その理由はいまだ知れない。

 ただ1つ例外があるとすれば、いつも同じ時間だと前置きはしたが、雨の日だけは音が聞こえてくることはないというところか。音が聞こえてくる日は、窓のカーテンを開けることなく、晴れているのだと知ることができる。


 トントントン、トーントーントーン、トントントン。


「あー、はいはい、起きてるよ」


 トン、トーン、トン。


 俺は布団から抜け出し、わざわざ物入になっている扉を開け、隣の部屋――202号室に面した壁へと、簡単にノックを返す。そうすることで、隣の部屋から聞こえてくる音は終わるのだ。

 同じ回数、同じリズムで返してやってもいいのだが、そこまで律儀に相手をしてやる気はない。言い換えればただ面倒臭いだけなのだが、略してしまっても相手は満足なのか、その日はそれ以上壁が叩かれることはなくなる。


「ったく、人見知りにもほどがあるね」


 おかしな話ではあるが、この部屋へ引っ越してきて1ヶ月が経とうというのに、俺は隣の住人と出会ったことがなければ、その顔すら知らない。

 初めてここへ来た日なんかは、柄にもなく引っ越し蕎麦なんてものまで用意して持って行ってやったというのに、顔を見るどころか声も聞けなかった。朝、昼、夜と、すべて人の気配があると感じた時に行ったというのに、だ。

 なら、文字通り叩き起こされた今訪ねれば良いではないかと思われるかもしれないが、その程度のことはすでにやっている。今行こうが、いつ行こうが、居留守を使われるのだ。


「よほど人前に出られない事情でもあるのかね。これだけの物件、もう一度見つけようってのは難しいんだ。できるだけ住人との揉め事は避けたいんだけどな」


 都心ということもあり、最寄り駅まで徒歩7分、コンビニと郵便局、更には洗濯機を家に置く余裕がなかった俺には嬉しいことに、コインランドリーまで10分圏内にあって、家賃はたったの4.9万円。独り身で荷物も少ないともなれば、リビング9畳に洋室6畳の1LDKで十分だ。風呂とトイレも共同ではないとくれば、これ以上の物件はそうそうないと考えて良いだろう。帰る実家もない今、この部屋を出て行く気は皆無である。


「……待てよ、まさか隣人に問題があるから安かったのか? それは見落としていたな」


 常人ならば、都心にありながらこの値段は怪しいと考えるのは当たり前だろう。

 だが、俺はこの部屋の安さの秘密は、世間一般で言われるところの『事故物件』ではないかと考えていた。

 殺人か、はたまた自殺か。それが原因かどうかは興味の欠片もないが、『幽霊が出る』なんてありきたりな理由で恐れられ、家賃が安くなっているのだと、そう考えていた。

 しかし、幽霊どうこうなら問題にもならないが、隣人に問題があるならば話は別だ。


 何故、幽霊なら問題ないかって?

 そんなことは決まっている。

 何故なら俺は、幽霊の存在なんてものは信じていないからだ。


 というのも、俺は過去を得意気に語ったりはしないし、自慢するほどのものでもないが、少しだけ語るならば、地元では、いわゆるところの(わる)ってやつだった。

 ここへ引っ越してくるまでは好き放題やったし、逆らうやつには容赦もしなかった。

 当然、俺を恨んでいるやつがいれば、呪い殺したいと思っているやつも山ほどいるに違いない。

 まあ、そのせいで周囲からは人が減り、両親からも煙がられていたわけなのだが、今は便利なもので、インターネットを通じて知り合った友人から、部屋に空きがあると連絡を受けたのだ。

 家賃の安さに加え、保証人がいなくても借りられると聞いた俺は、迷うことなく教えられた不動産屋へと連絡を取り、案内された部屋で、深く考えることもなく、すぐさま契約する旨を伝えた。


 それからの行動は早かった。

 両親に別れを告げて縁を切り、金目になりそうな物と必要な物をかき集めてカバンに詰め、家を出た。

 二度と家族に会うこともなければ、帰る実家もない。だからこそ、この部屋を出て行きたいなどとは考えない。


 というわけで、俺は呪い殺されることもなく、今もこうして生きている。

 これまで幽霊を目にしたこともなければ、その存在を感じ取ったこともない。恨まれたところで死ぬことはないとも知っている。なら、『この部屋に幽霊が出る』なんて理由があったところで問題はない。問題なのは、現実問題としてニュースなどでも取り上げられている、隣人とのトラブルの方だ。


「ま、良いか。今のところ実害はないわけだしな」


 だからといって、思い悩むのもストレスになるだけだ。

 新たに問題になりそうな芽も、隣人なりの挨拶か、コミュニケーションとでも考えておけば良いだろう。朝起こしてくれる相手がいるってのは、独り身には嬉しいものさ。深く考えないようにしよう。


「とりあえず朝飯にするか」


 目覚めたならば腹の減りを自覚するのにそう時間はかからない。202号室に面した物入の扉を閉めた俺は、窓のカーテンを開け、そこで201号室の住人である婆さんがハイツ周辺の掃除をしている姿を確認する。


「時計がなくても思いのほか困らないもんだな」


 俺は部屋に時計を置いていない。今のところ買うつもりもなかった。

 その理由はもちろん、隣人が起こしてくれるからであり、カーテンを開ければ、決まって眼下に201号室の婆さんがいるのが、いつもの時間であるという証だからだ。

 あの婆さんはいつも朝の七時過ぎにハイツ前の掃除をしており、いつだったか挨拶ついでに会話した中で、いつもの日課だと言っていたのを覚えている。確か、掃除をしないのは、雨の日だけだとも。


「あの婆さんは隣の部屋の住人を知ってそうなんだがな……」


 不動産屋からは、201号室の婆さんはこのハイツに20年以上前から住んでおり、一番の古株だと聞いている。

 ならば、202号室の住人がどんなやつかは知っているだろうが、どうしたことか、202号室の話になると、うまく話をはぐらかされてしまう。

 無理矢理にでも口を割らせることはできるかもしれないが、部屋を追い出されることになっては本末転倒だ。ここでは建前だけでも愛想良くしようと決めている。


 それに、あの婆さんには良くしてもらっていることも理由の一つか。

 一番の古株であるからか、住人に対して面倒見が良いとは聞いてはいたが、初日に蕎麦を持って行った日に、孫と間違えられて歓迎された経緯もある。そのおかげもあって、他の住人よりもよくしてもらっている。


「ま、いいさ。急ぎで知らなきゃならない理由があるわけでもない。それよりも飯だ飯」


 今やるべきは腹を満たすことだ。

 そう考えた俺はリビングを抜けて洗面所へと移動し、そこで洗った顔をタオルで拭いつつ、洗面台横に置かれている大きな、人間一人くらいなら余裕で入れそうなほど大きな冷凍庫の扉に手を伸ばした。


「今日の分を出しておかないとな」


 何故、キッチンではなく、本来は洗濯機を置くであろう場所に冷凍庫を置いているのだと疑問に思われるかもしれないが、俺は寝起きもなんのその、朝からでも肉をぺろりと食べられるほどの、肉好きなのだ。

 しかしこれがなかなかに難儀なもので、肉というのは他の食材に比べて特に腐りやすく、更に言えば、季節は本格的な夏を迎えようとしている。肉は新鮮な方がうまいと思えど、冷蔵では限度があるとなれば、どちらを置くかなど考える必要もない。

 憎いほどに暑いのが嫌いな俺は、洗濯機を置くよりも冷凍庫を置くことを優先したわけだ。その日の仕事内容によっては服が汚れるため、近くにコインランドリーがあって本当に助かっている。


「ウデかモモ……それともハラ。ロースは……昨日使い切ったんだっけか。そろそろ新しいのを仕入れないとな」


 朝食として今すぐ食べる用ではない。流石の俺でも凍ったままのものを食べるほど物好きではないのだ。今取り出そうとしているのは、今夜の分として食べるために解凍しようと、食材を選んでいるのである。


「あれ? 待てよ、一昨日の夜と入ってる量が同じってことは……」


 そこでふと、冷凍庫の中身から昨晩の光景を思い出した俺は、慌ててリビングへと戻り、冷蔵庫の扉を開けた。


「やっちまった!」


 俺としたことがなんたる失態か。いつもなら寝る前に朝用と昼用を冷凍庫から取り出して冷蔵庫に移して解凍させておくのだが、昨日は腹いっぱいになってすぐに眠気に襲われたため、そのまま寝てしまったのだ。これでは今すぐに食べられる肉がない。

 常温解凍や電子レンジを使った急速解凍という手もあるにはあるが、痛みやすい食材であるため常温解凍は好ましくなく、電子レンジを使っての解凍では熱で変色してしまうこともあるためよろしくない。ただでさえ3食肉としていることからも、品質を落とさずに解凍できるとされている低温解凍だけは譲れないという信念もある。


「食べられないと思うと、余計に食いたくなってくるな」


 とはいえ、腹が減っているのも事実。

 ここは妥協すべきかとも思うが、それで納得してしまっては、これまで貫き通してきた信念を曲げなければならない。


「……仕方ない。朝食は諦めるか」


 ここで信念を曲げては次に同じ状況に陥った場合、更なる妥協を許すことだろう。

 ならば今日の朝食を諦め、教訓とすることで、次に活かした方が良いに決まっている。


「そう考えれば、たまには飢えるってのも悪くないな。俄然、次の食事が楽しみになってきたぞ」


 飢えは一種のスパイスのようなものだろう。いつもと同じメニューでさえ、腹を空かせていれば一味違ったように感じることもある。


「失敗は成功の母とはよく言ったもんだな。これまで飢えとは縁遠い食生活だったからか、なかなかに新鮮な気分だ」


 などと強がってはいるが、普段からわざわざ飢える気は毛頭ない。たまに味わうからこそスパイスとなるのだ。食えるものがあるにもかかわらず食わないのは、ただの馬鹿か減量中のボクサーくらいなものだろう。俺は違う。


「ふむ、だったら今日は仕事に行くか。こうなったからには新鮮な肉が食いたいってもんだしな」


 『仕事』と口にしたが、俺は定職についているわけではない。最近よくあるところの自由人(フリーター)ってやつだ。

 毎日を気楽に過ごし、気が向けば仕事に行く。

 独り身な一人暮らしで何を悠長な、と思われるだろうが、それでもなんとかやっている。口うるさい両親がいなくなった今、その日暮らしを楽しむ毎日だ。


「よし、ここまできたらあとには引けないってもんだ。冷凍庫の肉も処分してしまうか。この時間は……寝てっかな。ま、その時は隣に預かってもらえば良いだろ。まだ家を出てない頃合なはずだしな」


 更に俺は、徹底的にやってしまおうと、愚かにも背水の陣で臨むことに決めた。

 その日暮らしという現状、いつも仕事がうまくいくわけではない。内容如何(いかん)によっては、仕事も見つからずにしぶしぶ帰宅、というのは誰もが想像しうる通りだ。

 家に肉があるという保険をかけて仕事に出ても、仕事を見つけるのが億劫になって帰ろうという気になるかもしれない。ならば、仕事が達成できなければ肉が食えないとすることで、自分を追い込むことにした。


 そうと決まれば善は急げだ。

 俺は手短に着替えをすませ、冷凍庫から取り出した肉を友人に譲ってやるためにビニール袋へ詰め、保冷に適した大きな折り畳みバッグと、その日の仕事の内容によっては汚れるため、リュックに着替えを入れて家を出る。

 玄関に鍵をかけ、そのまま一息に階段を駆け下り、


「おはよう、お婆ちゃん」


 ちょうど周辺をぐるりと掃除してきたのか、ハイツ前を掃除している婆さんを無視するわけにもいかないと、外向きに作った声で簡単に挨拶をする。


「おはよう、まー坊。今日も暑くなりそうだねぇ」


 俺に気づいた婆さんも、空に見える太陽を見上げながら声をかけてくる。

 だが、先に断っておくが、俺は『まー坊』なんて名前でなければ、『ま』から始まる名前でもない。

 俺の名前は……いや、名乗るほどのものでもないか。名前なんて記号のようなものだ。俺自身、名乗られたところで1日もすれば忘れてしまう。特にこのハイツは表札を出している者がいないことからも、誰一人として住人の名前を知らない。目の前にいる婆さんも、201号室の婆さんで何一つ問題ない。


 では、どこから『まー坊』なんて名前が出てきたのかと不思議に思うかもしれないが、なんてことはない。

 婆さん曰く、俺が『孫に似ている』というだけの話。そこから婆さんが俺を呼ぶ時の呼び名が『まー坊』になっており、俺はそれに付き合ってやっているというわけだ。


 と、ここまでなら良い話で終わりそうなものだが、実のところはそうではない。

 俺は興味本位からどれほど似ているのかと、いつも持ち歩いているという写真を見せてもらったが、これまたなんてことはなかった。


 この婆さんは、ボケているのだ。

 写真に写った孫とやらは、どう見ても俺とは歳が離れた子どもだった。いつ撮ったかも不明なほどにボロボロな写真。加えて、他の住人から聞いた限りでは、家族らしき人物が会いに来た様子がないということからも、家族とは疎遠になって久しいに違いない。俺が名探偵でなくても答えを出すのは簡単だった。


「最近は熱中症で運ばれる人も多いらしいからね。お婆ちゃんも体には気をつけてよ?」


 だからといってわざわざ弁解してやる気もない俺は、さも孫が祖母の体を心配するかのように声をかける。

 これは、ボケた婆さん相手に無駄な労力を使いたくはないという気持ちもあるが、こちとら定期収入のないその日暮らしだ。このまま孫だと思わせておけば、いろいろと役立ってくれるかもしれないという打算もあるか。


「わかってるよ。でも、今は老人向けの宅配サービスを利用してるだろ? スーパーまで行って重い荷物を持って帰らなくて良くはなったけど、外に出ないでずっと家にいるっていうのも体に良くないからね。せめて晴れてる日くらい、この日課だけはやっておきたいんだよ」


 婆さんがなんのサービスを利用しているかなど知ったこっちゃないが、まさか日がな一日を部屋でごろごろしてる俺への揶揄(やゆ)じゃないだろうな。是非ともこれから会う友人にも聞かせてやりたいところである。


「まあ、まだ日が高くなるまでは涼しいし、運動のためにも体を動かすのは良いかもね」


「そうだね。この歳になるとあちこちガタがきて……おや? 袋から水が漏れてるよ。大丈夫なのかい?」


 適度に会話を切り上げたいと考えていたその時、婆さんが俺の持つ肉入りのビニール袋から滴り落ちる水を目ざとく見つけ、慌てたように声をあげた。


「あ、ごめんよ、お婆ちゃん。こいつを届ける途中だったんだ。ナマモノだし、早く届けないと痛んじゃう」


「ああ、そりゃ大変だ。早くお行き」


 すでに人に譲ると決めているとはいえ、食材を無駄にするなんてもったいないことはできない。俺は婆さんと別れ、目と鼻の先にある部屋――102号室のインターホンを鳴らした。


「……誰だ?」


「俺だよ。ニーマルサンだ。ちょっと開けてくれ」


 扉越しに聞こえてくる男の声に、俺はすぐに開けるように求めると、


「どうした、こんな朝早くに」


 一目で40代だとわかる風貌の男、この102号室の住人である――イチマルニが扉を開けて顔を覗かせた。

 一応、ここでも断っておくが、俺はニーマルサンなどという名前でなければ、目の前にいる男はイチマルニなんて名前ではない。本名は……いや、名乗られたところで覚える気もないのだが、名乗られたことすらなかったはずだ。


 というのも、イチマルニとは同じ趣味を通じてインターネットで知り合った間柄であり、その時に名乗っていたハンドルネームがイチマルニであったことに対し、203号室に引っ越してきた俺も、自動的にニーマルサンと呼ばれるようになったというだけの話だ。

 ま、端的に言えば、ここへ来るまで毎年2日ほど会ってはいたが、プライベートで何をしてるかまでは知らない間柄ってところだな。

 ここへ来てからも、無職で家に引籠もっている、なんて俺にはどうでもいい情報しか入ってきていない。逆に、普段から髪は整え、髭も剃っているのだから得られた情報を疑ったほどだ。本人に対し、実際どうなのかと問う気もない。


「肉持ってきたんだけど、食うだろ?」


「そりゃありがたいが……どういう風の吹き回しだ?」


「細かいことはあとにしてくれ。暑さで肉が痛んじまう。冷蔵庫にでも入れてくれよ」


「それもそうだな。まあ、上がれよ」


 イチマルニは俺から肉が入った袋を受け取ると、そのままキッチンの冷蔵庫へと向かい、それを目で追っていた俺も遠慮なく家の中へと上がらせてもらう。相変わらず朝でもカーテンを閉め切って辛気臭い部屋だ。


「それにしても早起きだな。まさか起きてるとは思わなかったよ」


 俺は気分を紛らわせるためにも軽く言葉を交わす。


「早起きってか、夜通しネットしてたから寝てないだけだよ。しかし、アポもなしに訪ねておいてそれか?」


「ははっ、確かに。ま、起きてない時は隣に届けるつもりだったしな。この時間ならまだいるだろ?」


 思い立ったが吉日と言うが、そのせいで危うく食材をダメにするところだったでは笑い話にもならない。

 だが、俺にはイチマルニが寝ていようとも、他に当てがあった。

 それは――


「私はそろそろ仕事に行くよ。戸締りは……お、来てたのか。おはよう、今日も暑くなりそうだね」


 奥の部屋から現れた新たな人物――101号室の住人のことだ。

 顔を合わせればにこやかに挨拶をしてくる、感じの良い50代の男性。という評価を耳にしている。


「どもっす。肉持って来たんで、イチ兄も食べてくださいよ」


 俺は特段驚いた素振りも見せず、いつもと同じように挨拶を交わす。


「お、それは嬉しいね。今夜は早く帰って酒で一杯やるとするよ」


 俺の言葉に、にんまりと笑い返してくるイチ兄。当然、イチというのは本名ではない。

 この部屋の住人、イチマルニの実の兄であり、101号室の住人であることから、勝手にそう呼んでいるだけだ。


 ここで何故、101号室の住人が102号室の奥の部屋から出てくるのかと不思議に思う人もいるだろうが、イチマルイチとイチマルニが実の兄弟であることとは関係がない。

 では何故か。俺も疑問に思い、イチマルニに問うたことがある。

 そして帰ってきた答えが――


『ここは1号室と2号室が繋がってるからな』


 だったわけだ。


 その言葉を、俺は信じなかった。俺が不動産に見せられた間取り図には、そのようなものがなかったからだ。

 ならばからかっているに違いない。そう結論付けた俺が何を馬鹿なと笑うと、イチマルニは俺を奥の部屋へと案内し、


『これなら信じるだろ? 1号室と2号室が繋がってるってさ』


 そこで隣室の物置の1つと繋がる、隠された扉があるのを実際に見せてくれた。


 それを見た俺は呆れたね。まさか本当に部屋と部屋とを繋ぐ扉があるだなんて思うものか。いったいこれに、なんの意味があるんだと。

 いや、まあ、イチマルイチとイチマルニのように家族でありながらプライベートな空間が欲しいというから作ったとでも言われたら納得するしかないんだけどな。深く突っ込んだら負けと思って、そこまでは聞かなかった。


 と、その時のことを思い出していた俺は、ふと頭をよぎるものがあった。

 それは――隣人が俺の部屋の壁を叩くのも、秘密の通路を探しているのではないかという考え。

 隣人は俺が寝ていると踏まえ、部屋の壁を叩いて俺の部屋へと通じる扉を探し、俺が壁を叩き返したことで、その日は諦めて叩くのをやめるのではないか。


 しかし、俺はその考えを即座に否定した。

 あまりにも馬鹿げた考えだ。返事がくるまで壁を叩き続ける? そんな危ない真似を、毎日行うはずがない。それに、隣の部屋へ通じる扉があったとしても、隣の部屋に面した壁は限られている。1ヶ月もの期間、いや、空き部屋であった期間も考えれば、すでに見つかっているはずである。


「夕飯に思いを巡らせるのもいいけどよ。さっさと行かねぇと遅刻するぞ」


「おっと、そうだった。それじゃあ、仕事に行ってくるよ。戸締りは頼む」


「わかってる」


「君も、今日はゆっくりしていってくれ。今度お返しに何か持って行くよ」


「お構いなく。仕事頑張ってください」


 兄弟の会話によって馬鹿な妄想から引き戻された俺は、笑顔でイチ兄を見送る。分別はしっかりしているのか、家を出る玄関は101号室からだ。


 ったく、『101号室の住人には同居人がいるという噂があり、そちらの姿を見かけた者はいない』なんて話も聞いてはいたが、『まさか、隣に住む引籠もりの弟の部屋と部屋が繋がっている』なんて真実にたどり着ける者がいるかどうか……。人に話したところで信じてもらえるものではないだろう。俺も誰かに話すつもりはない。


「で、どういった風の吹き回しだ?」


 2人きりになったところで、イチマルニは俺がここへ訪れた時と同じ問いかけを口にした。


「イチマルニには部屋を紹介してもらった恩があるからな。その礼と、今年はうちに泊めてやれない詫びもかねてってところだ」


 何を隠そう、俺に部屋が空いているという情報を教えてくれたのはイチマルニだ。

 イチマルニとの間柄をもう少しだけ語るならば、毎年2日ほど会っていたというのも、年末には毎年の恒例として、イチ兄が会社の同僚を家に招いて忘年会を執り行うため、顔を出したくないイチマルニは、ここから遠く離れた俺の実家に2日ほど泊りがけで来ていたというわけである。


「そんなこと気にしなくていいのによ。それに、今年も厄介になるさ……203号室にな」


「……それもそうか。部屋が繋がってるせいで家にいるとどうしても顔を合わせることになるから居づらいってだけだし、退避するなら2階の俺の部屋でも十分か」


「そういうこと。わざわざ長い移動時間に高い旅費払ってまで行く必要がなくなって、こっちが礼を言いたいくらいだ」


「そんな魂胆があったとはね。こりゃ一杯食わされた……と言うべきなんだろうが、結果としてウィンウィンってことで良しとするか」


 俺とは20も年が離れたイチマルニだが、いつもこんな感じだ。互いに皮肉を言い合い、笑い合う。俺のことも理解してくれる、本当の意味での親友と呼んで差し支えない存在だ。


「そんじゃ、憂いもなくなったところで、俺も仕事に行くとするよ」


「お、今日は出かけるのか。うまくいったらご相伴にあずかりたいね。朗報を寝て待つとするよ」


「言ってろ」


 俺はやれやれといった感じに言葉を残し、102号室をあとにした。


「ん? あれは……103号室の奥さんか。ってことは旦那さんは出かけたあとだな」


 102号室を出て最初に目に飛び込んできたのは、201号室の婆さんと話をする、103号室の奥さんだ。旦那さんはどこかの会社員らしく、この時間にはすでに家を出ており、そのあとを追うようにして奥さんがパートに出かける。その間、3歳になる子どもは家で留守番だったか……。

 これは俺でも疑問に思うほどなんだが、3歳の男の子がいるってのに、同時に家を空けるってのは今時では当たり前なのかね。

 最近じゃこのあたりでも小さな子どもの行方不明が多発してるなんて物騒なニュースが流れてるってのに、危機感が足りないんじゃないだろうか。

 いや、あの奥さんも面倒見の良い婆さんがいるってことでどこか安心して任せていられるのかもな。あの坊主も何度か目にしたことはあるが、普段から物静かなやつだ。特に婆さんと一緒の時なんかは黙りこんで口を開こうともしない。

 ま、子どもなりにボケた婆さんの相手をさせられてると気づいたなら、その苦労もわからんではないがね。


「それでは、何かあった時は連絡をお願いします」


 婆さんと奥さんの会話も終わったようだ。奥さんは婆さんへと一礼し、パート先のスーパーへと向かって行った。


「あの奥さんも大変だねぇ」


「……そうですね」


 振り向きもせずにこちらの存在を感じ取るとは、この婆さん只者ではない。

 なんて冗談はさておき、おそらくは婆さんの独り言に突っ込んでしまった俺は、言葉をかけてしまったことで話さざるをえなくなるのだろうと、仕方なく婆さんのもとへと歩みよる。


「ここは家賃が安いけど、これから子どもが大きくなることを考えると手狭になるからね。どうしてもいつかは出て行かないといかなくなる。でも、家を買おうにも、銀行はどこも貸してくれないのが現実だ」


「まずは頭金だけでも協力しようと始めたパート。次第に疲れきった奥さんからは笑顔が消え、家庭での会話が途切れ始める。そこで共通の話題を求めた旦那さんが子どもの様子を尋ねるが、奥さんの口からはパートに忙しくて子どもの面倒を見ていない現状を知らされる。穏やかだったはずの夫婦はいつしか口喧嘩が絶えなくなり、離婚するまでそう時間はかからなかった」


 さして驚きを見せずに振り返った婆さんに合わせて、俺も口を開く。


「そこまで言っちゃいないよ。まったく、最近の子は考えることが恐ろしいね」


「いやー、昨日たまたま見た昼ドラがちょうどそんな話だったもんで、つい」


 なら続きは? と思えど、婆さんは何かを考える素振りを見せたまま動かなくなった。

 こりゃ婆さんも俺が見たドラマを見てたに違いないな。


「そういや、まー坊もここに来て1ヶ月だね。どうだい? 何か困ってることなんかないかい?」


 婆さんはあからさまに話を変えたが、突っ込む気はない。103号室の家庭事情を延々と話されたところで、俺にはなんの得にもならないからだ。


 しかし、この婆さん。ボケてるとばかり思っていたが、記憶力は良い方なんだよな。こりゃ俺の早とちりだったか。

 ……ああ、思い返せば、孫と間違えられたせいで婆さんにも名乗ったことはなかった気がするな。他の住人同様に表札も出しちゃいないし、婆さんも名乗られていたのに聞き返しては気を悪くするかもしれないと思っているのかもしれない。そこでボケてるふうを装って俺が訂正するのを期待して待っているか、俺が反論しないのをいいことに、まー坊と呼び続けているか……。

 ま、今更名乗るつもりもないが、ボケてるってのは訂正しといていいかもしれないな。


「心配には及ばないよ。立地が良くて、家賃も安い。気の良い住人たちに恵まれ、朝は隣人が起こしてくれるサービス付きとあっちゃ、文句も出ないさ」


 俺は、笑顔で「そうかい、そうかい」と頷いくであろう婆さんの姿を想像して言葉にしたが、婆さんからの相槌は一向に返ってこない。


 それどころか、


「……なんだって?」


 婆さんにしては珍しく険しい顔つきで聞き返してくる始末だ。


「隣人が毎朝起こしてくれると言っても、優しく揺さぶって起こしてくれるわけじゃないよ。毎朝このくらいの時間になると、隣の部屋から壁を叩く音が聞こえてくるだけさ。トントントン、トーントーントーン、トントントン、ってね」


 無駄に長話をしてしまっているが、今日は仕事に行かなくてはならない。ここで使い古されたやり取りを持ち出すほど暇じゃない俺は、婆さんが気になったであろう要点だけを、ノックの仕草を交えて詳細に伝えてやる。


「その音に、何か心当たりはあるのかい?」


「……音? ……確かに変わったリズムで叩く音だなぁとは思ったけど、お婆ちゃんは何か心当たりが?」


 壁を叩くだけなら、トントントンと叩き続けるだけで問題はないはずだ。だからこそ、リズムを取るように続けられた壁の音が、今も耳に残っている。


「いや、知らないなら良いんだよ。世の中には、知らない方が良いってこともあるからね」


「そう言われると逆に気になるってもんさ。お婆ちゃんが何か知ってるなら教えてよ」


 知らないことだからこそ気になるのは人間の性か。俺はなんとか教えてもらおうと頼み込むが、婆さんは困った顔で首を横に振る。


「まー坊も耳にしたことくらいはあるだろう? 『好奇心は猫を殺す』ってことわざを。一時の満足のために命を落としちゃ意味がないよ」


 学のない俺でも、いつしか聞いたことがあることわざだ。当然、意味も知っている。

 だが、わざわざここで出してくるということは、まさか本当に命にかかわるとでも言いたいのだろうか。


「いいかい? このことは誰にも話しちゃいけないよ。話せば……きっとよくないことになる」


 俺がどう答えたものかと迷っている間にも、婆さんは念を押してくる。


「……わかったよ。お手上げ、降参だ。今日は諦めるよ。これから仕事に行かなきゃいけないし、ここで押し問答する時間もない」


 気にはなる。

 気にはなるのだが、このままでは今日は飯抜きが確定しまう。202号室の秘密か飯。どちらかを選べと選択を迫られたならば、俺は迷わず飯を取る。202号室の秘密で好奇心が満たされようが、腹は満たされないからだ。


「そうかい、頑張ってくるんだよ。私も……孫の面倒を見てやらないとね」


 そんな俺の返事に満足したのか、婆さんはいつもと同じ笑顔で、自分の201号室へと戻って行った。


 再訂正。

 あの婆さん、やっぱりボケてるわ。

 何が孫の面倒だよ。103号室の坊主のことを指して言ったんだろうが、103号室に近づこうともせずに201号室へと引っ込みやがった。まさか掃除用具を片付けに戻っただけではないだろう。それなら103号室に寄ってから坊主を連れて戻った方が効率が良い。何より、ここまで部屋の鍵をかける音が聞こえてきたのがその証拠だ。坊主は一人で留守番が決定したな。


 いや、それとも俺を煙に巻くために、わざとボケた振りをしたのか? だとしたらなかなかの食わせ者だ。

 ……ボケてるってのは、保留にしといた方がいいかもしれないな。


「いけね、今何時だ? やっぱ時計くらい買った方がいいな、こりゃ」


 馬鹿なことを考えている場合ではなかった。このままでは本当に食いっぱぐれてしまう。

 それどころか、ジリジリと夏の日差しが差し込むこんな場所で立ち尽くしていては、いくら日焼けに強い俺でも、こんがりと焼けてしまいそうだ。

 さっさと駅前へ急ぐことにしよう。


 ◇


 さて、仕事を始めると息巻いて家をあとにした俺なわけだが、特に何をするでもなく駅前の広場に佇んでいた。


 しかし、夏の暑さが憎いほどに大嫌いな俺も、すべてにおいて嫌っているわけではない。暑さのおかげで、誰もが薄着になる季節ってのが最高だ。

 今時の学生なんて何を競い合っているのか、ミニスカから覗かせるふとももに、シャツから伸びる二の腕なんかがそそられる。上着を着ないもんだから、胸の肉付きが一目でわかるってのがいいね。

 おいおい、マジかよ。あっちの女なんてへそ出しだ。夏だからって腹丸出しで恥ずかしくないのかね。よっぽど自分に自信がなきゃできねぇよ。

 ま、これも夏のおかげってことで……お? あっちのはおのぼりさんだな。都会に合わせて着こなしてきたようだが、都会に慣れた他のやつらとは違って目の輝きが違うね。見たところ中学生……いや、メイクしてるってことは高校に上がったばかりってところか。普段メイクなんてしないもんだから、たどたどしい出来上がりが初々しいったらない。適度に焼けた健康的な肌が特に素晴らしいね。初めての観光か、もしくは最近じゃ珍しくもなくなった当地限定的なイベントでもあるのか……。一人でいるってことは後者だろうな。おおかた、同じ趣味を持つ友人が近くにいなかったんだろうね。なんとも嘆かわしいことだ。これから田舎で使い道もなく貯めこんだお年玉を搾り取られると思うと、便利な世の中ってのも考え物だと泣けてくるよ。


「おっと、のんびりもしてられないな。そろそろ仕事にとりかかるとするか」


 目の保養は十分だ。俺は街角へと消える田舎娘を目の端に、意気揚々と動き始めた。


 ◇


 といったわけで、すでに太陽は沈んであたりは暗くなっているのだが、俺なんかの仕事内容を詳細に伝えたところで退屈させるに決まっているので割愛させてもらう。

 結果だけを語ると、今日の仕事は完璧だった。どれほど完璧だったかと自慢すると……。

 約2万ほどの収入に加え、肩に担ぐ保冷バッグ一杯に肉を仕入れることに成功したくらいに完璧だった。着替えを持ってきてはいたが、汚れもしなかった。まったくもって文句のつけどころがない。

 俺は肉体労働で疲れた体もなんのその、軽い足取りで家路を急いだ。


「さっそく飯……といきたいところだが、まずは風呂だな」


 家に帰ってきた俺は風呂場へと直行した。

 腹は減っているが、汗だくな状態で飯というのはいただけない。流石にこればかりは一種のスパイスとはならないからだ。

 蛇口全開で浴槽にお湯を溜めている間、俺は硬くなり始めた体を柔らかくしようと、全身を揉み解しながら伸ばす。

 次に着ている服を剥ぎ取る勢いで脱ぎ捨て、溜まり始めたお湯を風呂桶ですくっては体にかけ、先に体を綺麗にする。


「小麦色に焼けた肌は健康な証、ってか?」


 俺は腕を手に、日に焼けていない部分とのコントラストを少しだけ楽しむ。この美しさは日焼けサロンで作られるものとはまた違ったものがあると俺は思う。

 まったくもって無駄な時間だと思うだろうが、浴槽にお湯が溜まりきるまでの余興のようなものだ。目を瞑って欲しい。


「さて、こんもんか。湯も良い感じに溜まったな」


 あまりのんびりする気もない俺は、待つ間にもできる限りのことを終わらせ、最後に首回りにすべらしていたカミソリを手放し、お湯が程よく溜まった浴槽へと入る。今日の疲れが一気に吹き飛ぶ思いだ。


「やっぱ仕事のあとの風呂は最高だな」


 俺は真っ赤な装飾で彩られたタイルへと目を落とし、今日の……。

 いや、男の入浴なんて長々と解説したところで面白くはないな。ここもさっさと割愛して先へ進むことにするか。


 ◇


 ということで、これから待ちわびた飯の時間だ。

 俺は下ごしらえを終えた肉を手に、キッチンへと向かおうとして――


 ピン、ポーン。


 部屋中に響くインターホンの音に、玄関を見やった。


「……こんな時間に誰だ?」


 夜も遅くに誰かが訪ねてくるだなんて珍しい。この時間ではセールスというわけでもないだろう。

 なら、訪ねてくるのはこのハイツの住人の誰かに決まっている。

 101号室のイチ兄が今朝持って行った肉の礼に何かを持ってきてくれたか? それとも102号室のイチマルニが一緒に食わないかと誘いにきたか? それとも――。


 ピン、ポーン。


「ああ、はいはい、誰ですか?」


 正解を当てたところで景品がもらえるわけではないのだ。頭で考えるよりも玄関を開けた方が早い。俺は手に持った肉を冷蔵庫へと押し込み、扉にかかったドアチェーンを外して開放する。


「こんばんは」


 そこにいたのは――201号室の婆さんだった。

 よもや夕飯に何かを作りすぎたせいでお裾分けでも持ってきてくれたのかと視線を上下させるが、手ぶらである。そういうわけではなさそうだ。


「今、時間はあるかい?」


 俺が何用かと訪ねる前に、婆さんが切り出した。


「これから飯にしようかというところです」


「おや、それならあとにした方がいいかねぇ……」


 左手を頬に、わざとらしくも考え込む動作を見せる婆さんに、俺は眉をひそめる。


「急ぎの用なら今すぐ聞きますよ?」


「たいしたことじゃないんだよ。……でも、ね。隣の202号室を気にしていただろう? 私もどうしようかと迷ったんだけど、どうしても知りたいなら教えてやった方がいいんじゃないかと思ってね。今も気持ちが変わってないなら、今から私の部屋へ来ないかい?」


 腹は減っている。待ちに待った飯の時間ということもある。

 だが、婆さんの提案は魅力的だ。もしかすると、ここで断ってしまうと次の機会がないのではないかと思わせるほどに。


「いいですよ。行きましょう」


 そうなると返事は一つだ。今日の飯を確保した今、優先すべきは腹を満たすことよりも、好奇心を満たすことである。


「そうかい? それじゃあ、ついておいで」


 こうして俺は、202号室へと案内された。




 そこで目にしたものは――。

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