表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ひなちゃんと雪の空

作者: 天野 進志

 ひなちゃんと雪の空


 ベランダで洗濯物を取り込んでいたお母さんが言いました。

 「あら、雪が降ってきたわよ」

 スコップで植木鉢の土を触っていたひなちゃんは手を止めて、お母さんと一緒に空を見上げました。

 灰色の空からとっても小さな白いものが、ゆっくりと静かに下りてきます。

 小さなものは風に乗って、ひなちゃんのところにも下りてきました。

 小さな綿のようなものは、ひなちゃんのかわいい手に触れると、すうっととけていきます。

 それはお母さんの言うとおり、雪でした。

 ひなちゃんは空に向かって、大きく首を伸ばしました。

 灰色の空からは途切れることなく、白い綿のような雪が降ってきます。

 雪は上に行けば行くほど小さくなって、最後には雲と一緒になってしまいます。

 『くものなかは、どうなってるの?』

 ひなちゃんが不思議に思って見上げていると、ふわっと音もなく体が浮かび上がりました。

 雪とは反対に上に上に昇っていきます。

 ひなちゃんは下を見ました。

 お母さんがいます。

 ひなちゃんの方を見ているのに、ひなちゃんに気が付いていません。

 ひなちゃんの体は止まらずに、ふわりふわりと昇っていきます。

 幼稚園が見えます。

 今日はお庭に誰もいません。

 お友達のおうちの屋根も見えます。

 お友達が早速お家の前で、雪だるまを作り始めているようです。

 ひなちゃんはとても楽しくなってきました。

 『そうだ。あっち、いってみよう』

 そう思うと体はやっぱりふわりふわりと昇りながら、すうっとひなちゃんの思った方向に動いていきました。


 海です。

 港には大きな船がとまっています。

 まるで駐車場にとまっている車みたいです。

 向こうにはこっちに向かってくる船もあります。

 ひなちゃんは、このままずっと海の向こうまで行ってみようと思いましたが、ちょっぴり怖くなったので反対の山の方に行ってみることにしました。


 降ってくる雪でぼんやりとかすんでいた山は、近づいてみるといつもの緑色から白色に変わり、すっかり雪化粧をしていました。

 空の上から山を見下ろすなんて初めてです。

 人も、もう砂粒よりも小さくなっています。

 海も山も、ひっそりと静まりかえっています。

 いつの間にか街全体どころか、もっともっと先まで見えるぐらい高く上がっています。

 ひなちゃんの体は止まりません。

 急に周りが白くなりました。

 雲の中でしょうか。

 目の前も足元も、頭の上も白い灰色ばかりです。

 もうお母さんもお友達の家も、海も山も見えません。

 ひなちゃんは怖くなって下に、下に行こうと思いましたが、体は反対に上へ、上へと昇るだけです。

 ひなちゃんがどんなに思っても、体は下に降りてくれません。

 それどころか白くて灰色の雪に囲まれてどこに居るのか、どっちに行っているのかも分からなくなってきました。

 ひなちゃんはとうとう泣き出してしまいました。

 すると、ふわっと暖かなものがひなちゃんを包みました。

 驚いて目を開けると、それはお母さんでした。

 ひなちゃんを優しく抱きしめています。

 お母さんも浮かんできたの?と思いましたが、そこはベランダでした。

 「どうしたの、ひなちゃん」

 お母さんは、ひなちゃんの髪をなでながら聞いてくれました。

 「おそら見てたら、からだがうかんで、こわくなったの」

 ひなちゃんはベソをかきながら、言いました。

 「そう。でも、もう大丈夫。お母さんがひなちゃんを浮かばないようにぎゅってしててあげるから」

 お母さんは、ひなちゃんを抱きしめた腕に力を入れてくれました。

 「お洗濯物も全部取り入れたから、お部屋に戻ろうか。風邪引いちゃうからね」

 ひなちゃんはお母さんに抱きついて「うん」と頷きました。

 雪はまだ降っています。

 きっと明日は積もるでしょう。

 そうしたらひなちゃんは笑いながら、お友達と雪だるまを作るに違いありません。

 お部屋の中は、お母さんみたいにあたたかです。


 おしまい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ