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制裁(9)

 それから間も無く自室のスイートルームに着いたが、はたと困った。

「ありゃ、カード型のキーは何所なんだ?」

 左手にナンシーを抱え、右手にはナンシーのやや大きいバッグを持っていて自由が利かない。金雄はその中に入れてある小さなナンシーのバッグにカードが入っている事を思い出した。


 しかしそのままではバッグのジッパーを開けられないので、それを床に置いてまずナンシーを壁を背にして座らせた。

 それからジッパーを引いてナンシー愛用のブランド物のバッグを取り出して中を見た。化粧道具等の他にカードがあったので取り出して見る。


 しかしそれが何のカードなのか横文字ばかりでさっぱり分からなかった。他にもカードが何枚かある。それらのカードをジーっと見つめてやっと思い出した。


「うーん、確か真っ白だったよな。それに金色で文字が書いてあった筈。ああこれだな。MOONCITYーHOTEL、ムーンシティホテル、間違いないな」


 ところがカードを入れてからまた困った。六桁の暗証番号が必要なのだ。こればっかりはナンシーに聞かないと分からない。だがナンシーは既に気持ち良さそうに眠っている。


「美人秘書のナンシーさんはお休みですか、困ったな。無理に起こすのも気の毒だしそれに俺まで眠くなって来たぞ、ふわぁーあっ、ナンシーの横で少しだけ休むか……」

 ほんの五分の積りだったが、ナンシーの隣に座ってすっかり眠ってしまった。


「金雄さん、金雄さん!」

 体を揺すられて目を覚ました。

「えっ、あれっ、ああっ! ナンシー? どうしてそこにいるんだ?」

「私も貴方も廊下で寝ちゃったのよね。スイートルームの前は滅多に人が通らないから良いけど、金雄さんも暗証番号を覚えていれば良かったわね。179185よ。もう一度言うわね、179185、分かった?」

「特徴のない数字だから、中々覚えられそうもないな、ええと、17、何だっけ?」

「簡単よ。私の身長と貴方の身長を合わせただけだから。私は179センチ、金雄さんは185センチ。どう、もう覚えたでしょう?」

「ナンシーは180センチじゃなかったか?」

「いいえ、断じて違います。正確に言えば179.4センチ。四捨五入して179センチよ」

 ナンシーは180センチ未満である事を強調した。


「うっ! そ、そうか、良く分かった。179185だね。すっかり覚えたよ」

「その、『うっ』って言うのは何かしらね? まあいいわ、とにかく部屋に入りましょう」

「ああ、先ずは入るか」

 二人一緒に部屋に入ると二人の間に奇妙な感情が、いや、好ましい感情が生まれた。


「何だか夫婦みたいね」

「ああ、俺も今そう思った。今一瞬だけ共通の感情を持った気がした。変な気分だったけど、悪い気はしなかったな」

「うふふふ、私も。夫婦になったらこれが当たり前になるのよね」

「多分ね」

「あれ? 金雄さんは美穂さんと一緒に住んでいるんでしょう? だったら何時もこんな感じじゃないの?」

「俺たちの寝室は普段はトラックの座席だからね。アレする時だけホテルに泊まるんだよ」

「でも、それじゃあ今の様な感覚は初めてなのかしら?」

「うん、初めてだな。ナンシーの事を、あ、いや何でもない」

「ふふふ、……、うふふふふ」

 思い出し笑いを何度かして、ナンシーはある種の優越感に浸っていた。少しではあるが美穂に勝った様な気がしていた。


「ところで今は何時なんだ?」

「午前八時は過ぎてるわね。そうか、金雄さんは時計を持っていなかったわね。私の時計で良かったらあげるわよ」

「いや、時計は要らない。一時、持っていた事もあるんだけど、必ず何処かに置き忘れて無くしてしまうから持たない事にしているんだよ」

「はははは、何だか如何にも金雄さんらしいわね。じゃあ私が金雄さんの時計係になるわね。時間は何時でも遠慮なく聞いて下さい。それで朝食はどうします? 私はまだ食べれそうもないけど」

「ああ、俺も朝食はパス。せっかくの休みなんだから徹底的にトレーニングしてみようと思う。支度が出来たらレッツゴーだ。それで良いか?」

「イエース、オッケー!」

 二人の息はピッタリ合って、暫くして準備を整えてから個室のトレーニングルームへ向かった。


 歩きながらナンシーは事件の最新情報を金雄に話した。彼女の部屋にあるパソコンからネットを使って手に入れた裏情報である。

「シャパールが口を割ったわ。今度の事件の首謀者はAクラスのフランシスよ。彼だけ所在不明だから間違いないわね」

「そりゃまた随分簡単に口を割ったね」

「またまた金雄さんに怒られそうだけど、……たぶん拷問ごうもんしたのね」

「ご、拷問! それもありですか?」

 やや呆れて言った。ますます浜岡の提唱するユートピア計画から、かけ離れていると思ったのだ。

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