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制裁(7)

「うーん、誰かにお金を貰ってそそのかされたのかな? しかし命と引き換えでは割に合わないと思うけどね……」

「それは私にも分からないわ。ただ自分の判断だけであんな事をしたとは考え難い。恐らく誰かに命令されたか、それとも何か別の事情があったかでしょうね。今度の事件の捜査の焦点はそこいら辺になると思うわ」


 二人とも少し喋り疲れて、赤ワインで喉をうるおした。店の外がかなり騒がしい。地下から上がって来た格闘場の観客達が、二度目の事情聴取を受ける事に不満を言っている様である。感情的になって声を荒げている者もいる。

 それもそうだろう。もう午前零時を過ぎているし、横柄な警察部長の態度に接すれば、ムカついて大声で怒鳴りたくなるのも無理からぬ事である。


「何も二度も事情聴取をする事は無いと思うけどな」

「でも止むを得ない所もあるのよ。地下とこことでは管轄かんかつが違うから地下の事情聴取がこっちに回されては来ないのよ」

「えええっ! それじゃあまるっきり同じ事を二回もやる訳か?」

「それに近いわね。こっちの警察で把握はあくしているのは事件の概要がいようと関わった人物の情報だけよ。個人の証言に関しての情報は殆どないのよ。

 だから事情聴取だけでも朝まで掛かるし、取り調べる方もうんざりして、日頃から態度の悪い警察官は尚更悪くなるわ」

「あははは、それで俺に対しても酷い扱いだった訳か」

「部長の個人的な感情もあるけど、そういう理由も十分に考えられるわね」

「成る程ね。ところでまだ全然話し足りないな。料理を追加するけど良いか?」

「そう来なくっちゃ! 私はサラミとチーズの盛り合わせを頼むけど、それと今度は白ワインにしてみない?」

「それでいいよ。それと俺はハムサラダを頼む事にする。まあ一緒に食べるんだからどっちが頼んでも同じだけどね。白ワインは当然ボトルだよね?」

「勿論よ。じゃあ私がまとめて頼むわ。ちょっと、お願いします!」

 盛合せとサラダとワインだけだったので、注文して間も無くそれらが届いて、論戦(?)第二弾が始まった。


「しかしあれだね。何と無くナンシーだけ特別扱いの様な気がするけど?」

「うん、それにはちょっとした訳があるのよ。話せば少し長くなるけど聞く?」

「ああ、是非聞きたいね。ただし美人だからなんて言うんじゃ却下きゃっかだからね」

「ええっ! それも少しはあると言う積りだったのに。……まあいいわ、金雄さんは私の事綺麗だって言ってくれたんだから。

 ……ええと私がここに初めて来たのは二年位前だったかしら。暫くの間浜岡先生と一緒に来ていたの。それで私は浜岡先生の愛人だと思われたらしいのよね。

 本当は全然相手にして貰えなかったんだけど、未だにそう信じている人も多いみたいね。それが一番の理由だと思うわ。

 それから一年位前から私は今の様に、地下格闘会の選手の面倒を見る仕事をしているんだけど、その仕事を始めて間も無くの事だった。私が面倒を見ていた選手と彼の専属のトレーナーとが私に悪ふざけをした事があったのよ。

 相当酒に酔っていたし、半ば冗談の積りだったと思うんだけど、路上で二人して私の服を強引にぎ取ってしまったのよ。

 相手が一人だったら私だってそう簡単にやられていないんだけど、かなり強いBクラス級の男二人には、随分抵抗したんだけど勝てなかった。

 丸裸にされてしまって私は路上にうずくまっていたのよ。ほんの十秒間ぐらいだったと思うけど、大勢の人にジロジロ見られて物凄く恥ずかしかった。

 暴行されるのかと思ったんだけど、直ぐ服を返してくれたわ。でも次の日、私達の行った所とは違う公園の隅で、二人とも殴り殺されているのが発見されたの」

「ええっ! 殺されたのか、二人とも!」

 幾らなんでも殺すのは行き過ぎだと感じた。


「そう。二人を殺したのは恐らくあの男だろうという噂が立ったけど、結局、有耶無耶うやむやになってしまった」

「あの男? 浜岡先生か?」

「浜岡先生はそんな事はしないわ。あの男というのは、その事件があってから誰も彼の名前を表立っては口に出さなくなったんだけど……」

「誰なんだ?」

「浜岡先生の女に手を出した者は、あの男に始末されるという噂がすっかり定着してしまったのよ。本名かどうかも良く分からないんだけど、Aクラスで五百連勝したキングという男よ」

「ご、五百連勝! 幾ら強いと言っても、偶然のアクシデントで負ける事もあるだろうに、ルール無しの条件で五百連勝か……」

「そう、五百連勝して、不敗のまま引退した、ムーンシティただ一人の最上級市民よ。浜岡先生も一目置いている実質的なこの都市の支配者なのよ」

「キング、キングか……」

 金雄は途方もない強者の存在をこの時初めて知ったのだった。

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