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大道ロボット屋(1)

 近年ロボット工学の急激な進歩により、ロボットは人間と一緒にスポーツさえ出来る様になった。そして殆どのスポーツは人間がロボットには勝てなくなったのである。


 しかしただ一つ残された分野があった。それは格闘技だった。ロボットが人間社会に深く浸透するようになってから久しいが、ロボットが守らなければならない重大な原則、ロボットは人間を傷付けてはならないという原則があって、人間と格闘する事が出来ないのである。


 ところがそれを逆手さかてに取る者が現れた。

「ロボットは人間を傷付けられないが人間はロボットを傷付けられる。近年の二本足走行のロボットは非常に素早く動けるので、人間が彼らを捕まえて傷付ける事は非常に難しい。それを格闘技と考えたらどうだろう」

 そんな風に考えた日本人が居た。ロボット工学の世界的な権威、浜岡敦はまおかあつし博士だった。彼は実際にリング上でそのロボットと人間との対決をやって見せた。

 それがテレビで何度か紹介されると大評判になり、やがてお客からお金を取ってロボットと対戦させる、一種の大道芸として全世界に広まって行った。


 『大道ロボット格闘技屋』それが彼等の正式な名前であるが、通称は大道ロボット屋とかロボット格闘技屋、あるいは単にロボット屋等と呼ばれるようになった。

 大道ロボット屋が最も盛んなのは、やはりロボット先進国の日本だった。中型のトラック等に、数体のロボットと、簡単な組み立て式のリングを載せて全国を回るのである。ロボットのレンタル料が高いので人件費等を出せず大抵は一人で営業していた。


 一回千ピースで挑戦し、三分以内に倒せれば三千ピースが戻って来る。タイムオーバーはお金が没収されるというのが一般的なルールだった。


 人気が出たのは、それが余りに可笑しかったからである。ちょこまかと逃げ回るロボットを大の大人が真剣に追い掛ける様は、ドタバタ喜劇を見ている様で爆笑を誘った。捕まりそうで捕まらない所が珍妙で面白いのである。


 しかしそれも一年で飽きられた。人気が落ちて日々の生活にも困り、店仕舞する者も後を立たなくなって来ていた。そんな中、小笠原美穂おがさわらみほは大胆な事を始め様としていた。


「こう客が少なくっちゃ駄目ね。だいたい、ロボット格闘技屋って言ったって、鬼ごっこやっているのと大差ないじゃない。やっぱりロボットが攻撃するんでなくちゃ面白くないわよ」

 ついに彼女は禁を破って、ロボットも人間を攻撃できる様にした。もともとロボットはちょっとした操作で、人間を傷付けないというプログラムを解除出来る様になっている。


 ロボットを人命を守るガードマンとして使う時には、それを解除しないと役に立たないのである。本来なら専門家が許可を得て操作する事になっているのだが、大学でロボット工学を学んだ経験の有る彼女にとっては何でもない事だった。


 しかしそれは特別な場合を除けば法律に触れる事になるので、表向きは今まで通りにしている事を装った。集まって来る観客にのみ口頭で伝えるようにしたのである。


「さあーいらっしゃい、いらっしゃい。逃げ回るだけのロボットじゃないよ。うちのロボットは攻撃して来るからね。弱い人はお断りだよ。どうだいそこの強そうなお兄さん、やってみないかい?

 本邦初公開だからお一人様二千ピース。三分で倒せたら一万二千ピース差し上げますよ。差し引き一万ピースの儲けだ。どう、そこの学生さん、あんた如何いかにも強そうだね。やってみる気は無いかい?」


 腕に覚えがあるのだろう、美穂に名指しされた学生はちょっと恥ずかしそうにしながら、そばまでやって来た。


「いやーっ、男だねえ。あんたは度胸があるよ。それじゃあ早速だけどこの用紙に必要事項を書いて、それから二千ピースは先払いだからね、それとあんた学生さんだよね」

「ええ、大学生です。じゃあ二千ピース、はい」


 その学生はお金を払うと持っていた鞄から取り出して上だけ道着に着替えた。格闘技をかなり本格的にやるようである。


「えーと何々、彗星拳すいせいけん三段。彗星拳と言えば特にスピードを重視する打撃系の拳法だよね。三段と言ったら地区代表クラスだ、うん合格!」

「合格?」

「そう、うちのホワイト号はね、最新型でとっても強いんだ。ちょっと強いぐらいじゃ簡単に負けてしまうからねえ、そういう人は不合格なのさ。その点あんたなら互角以上に戦えると思うよ。さ、リングに上がって」


 美穂はかなりのお世辞を言ってその学生と共にリングに上がり、

「それでは三分間一本勝負、赤コーナーチャンピオンホワイト号、青コーナー彗星拳三段、挑戦者柴田京太しばたきょうた!」


 一応マイクを使ってそれらしく名前を呼び、ムードを盛り上げてから自分はリング下に降りた。小さなリングなのでレフリーが居ては邪魔なのである。


「ゴングが鳴ったら試合を始めて下さいね。時間はきっちり三分だからね。ダウンはテンカウントで負けだよ」

 その場にいた誰も気が付かなかったが、この時こそが人間とロボットが言わば対等に戦った歴史的瞬間だった。小笠原美穂とホワイト号と柴田京太の名前は人類の歴史に永遠に刻み込まれる事になる。


「カーン!」

 落ち目の大道ロボット屋の営業など殆ど誰も見に来はしない。半年くらい前までは黒山の人だかりだったのに、今はほんの六、七人の観衆しか居なかった。

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