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制裁(2)

 金雄はナンシーの気持ちが嬉しかった。しかし、だからと言って彼女に走る訳には行かない。ここで気持ちを緩めては、春川陽子の時と同じである。別れが恐ろしく辛くなるし、理性を失いそうにもなる。

 しかもまだ一緒にいる時間はかなりある。どうしたものかと考えているうちに何時しか眠り、やはり何時もの様にナンシーに起こされた。


「金雄さーん! 時間ですよーっ! 起きて下さーい!」

 彼女の声は心なしか、何時も以上に弾んでいる様だった。


 何時もの様に『豊の海』で朝食を取ると、ナンシーの案内で徒歩十五分位の所にある個室のトレーニングルームに着いた。


 ちょっと驚いたのは、まるでカラフルな色に塗り分けられた貨物コンテナが、ずらりと並んでいる様だった事である。多分五十棟位はある。コンテナよりは一回り以上大きく、とにかく窓が一切無いのが少し不気味であった。

 中に入ってみると予想以上に広く、一人で使うのが勿体無もったいないほどトレーニング用の器具が揃っている。スクリーンを投影する最新型のランニングマシンもあって、ほぼ全ての練習を出来るだけ飽きの来ない様に、バリエーションを付けて、その中だけで出来るようになっている。


「俺一人で使うのは勿体無い様な気がするな。勿論ナンシーも使うだろう?」

「はい。個室といっても本当に一人で使う人は余りいなくて、実際には七、八人位で使うようです」

「しかし窓が一個も無いのはどうしてなんだろう? ちょっと心理的に変な気がするけどね」

「はい。慣れない内は皆変に思うらしいですけど、地下都市全体の気温が常に一定に保たれているし、昼も夜も無いのでそもそも窓の必要性が無いという事です。

 それと完全防音にして秘密のトレーニングを外から覗かれたり、声を聞かれたりしない様にする為だそうです。ここを借りている殆どの人が地下格闘会の選手なので、納得ですわ」

「成る程、秘密の必殺技を作り上げたりするのに都合が良いという訳だ」

「そうなんです。ところで今日は私も気合を入れてこんな格好で来てみましたがどうでしょうか?」

 ナンシーがテキパキとスーツを脱ぐとかなり際どいビキニスタイルだった。金雄は苦笑した。


「ここは海岸やプールサイドじゃないんだけどねえ、目のやり場に困るよ」

「あら、金雄さん集中力が足りないわよ。たとえ私がすっぽんぽんでも、びくともしない様にしなければいけないと思います。

 集中力を高める為に、恥ずかしさをグッとこらえてあえて私はこんな格好で来たんですからね。これも秘書の仕事の一環ですから」

「成ーる程、じゃあ無視しても良いんだね?」

 金雄の目に厳しさが漂う。その目を見てナンシーはびくりと体を振るわせた。しかし気持ちで負ける訳には行かない。


「どうぞご自由に。このスタイルで簡単に金雄さんを誘惑出来るなんて思っていませんから」

 ちょっぴり嘘だった。金雄が情欲に負けて自分を抱いてくれる事を少しは期待していたのである。しかし多分無いだろうという彼女の予想通り、金雄は彼女のエロチックなスタイルに見向きもしなかった。揃っている種々の器具を使って存分に練習したのである。


 暫くして金雄は、

「結構高い天井だね。何メートル位あるんだろう?」

 金雄の練習に少しでも近付こうと頑張って、へとへとになっていたナンシーに聞いた。


「はあーっ、ええと、確か四メートルジャストだと聞いています。はあ、はあ、はあ、……」

「ナンシーはジャンプが割と得意らしいけど、ジャンプして届くか?」

「ええっ! ちょっと無理よ。天井が低いとジャンプして壊される恐れがあるから、絶対に届かない高さにしてあるんだそうよ。

 私は多分女子としては世界のトップクラスのジャンプ力があると思っているけど、それでも無理よ。男子でももし届くとすれば光速のスパルク位のものよ。スパルクは知ってます?」

「ああ、日本で一度見たことがある。たまたま同じレストランにいたんだよ」

「へえーっ、凄い偶然だわね。ああ、でも、そう言えば彼は時々日本に行っていると聞いた事があるわ。かなりの日本通らしいのよね。ところで金雄さんは届きますか?

 スパルクは中量級だけど、ヘビー級では無理だと思うわ。体重が軽くて凄いジャンプ力を持っているスパルクは特別よ」

「はははは、この位が届かないようじゃあ、大樹海の野犬に食い殺されているよ。うりゃっ!」

 軽い気合で金雄はジャンプした。両手を余裕を持って天井に着いてふわりと着地した。


「あああっ!」

 ナンシーの目は真ん丸くなった。余りの衝撃で暫く呆然としていた。

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