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地下格闘会(11)

「誰かさんって、ああーっ、浜岡先生の指示ということ?」

「まあね」

「よ、良かったら私のを貸しましょうか。万一切れた場合を想定してもう一本持ってるんだけど」

「いや、俺はこれで良いよ。帯の色にやたらこだわるのは俺らしくないと思うからね。じゃあ始めるぞ。軽い準備運動をしてからまずはランニングだ」

 言いながら早速手足をブラブラ振ったりしてストレッチを始めた。


「へえーっ、真面目なのね。直ぐパンチや蹴りの練習をするのかと思った」

「時間の無い時はそうするけど、今日は十分に時間があるから少し本格的にやってみようと思う。これからランニングをするけどせっかく木があるんだから、真っ直ぐ走るだけじゃなくて、木の間をって行く。

 そこでナンシーに課題なんだけど俺について来ること。すきがあったら抜けば良い。それからナンシーは俺に抜かれない様にすること。

 俺の課題はナンシーを十回抜くこと。十回目でランニング終了とする。抜かれる方は邪魔をしても良いものとする。蹴っても殴っても抱き付いても良いぞ」

「えっ、抱き付いても良いの?」

 ナンシーは期待感を持って言った。


「はははは、もののたとえですよ。でも、勿論本気でやっても良いですよ。絶対に抱き付かれたりはしませんからね」

「よーし、じゃあやってみるわよ。それで、もしもなんだけど私が金雄さんを抜いたら?」

「その時点でランニングは終わりだ。まあ、有り得ないとは思うけどね」

「えーっ、ランニングの終了って、それだけ? キスのご褒美ほうびとかは無いの?」

「うーん、よし、そこまで言うのなら、ナンシーの言う通りにキスをする。抜ければだけどね。俺が抜いてもご褒美は当然無しだぞ」

「ふふふふ、了解!」

「じゃあ出発!」


 ナンシーは金雄がマラソンの様な感じで走るものと思っていた。しかしいきなり猛スピードで走って行った。慌てて後を追ったが、

「はい一回目!」

 直ぐに金雄に一周抜かれた。邪魔をしても良いという事だったので、思い切って左右に動いたのだが、一瞬で抜かれてしまった。直ぐ後ろにピッタリ付いて来たと思っていたのに、気が付いた時にはもう前を走っていた。

『格闘技界最速と言われる高速のスパルクに引けを取らないのじゃないかしら?』

 そのようにさえ感じたのだった。


 二周目はスタート地点で金雄が足踏みをしてナンシーを待っていた。ナンシーが一周している間に金雄は二周して待っていたのだ。


「ここから森にジグザグに入って行って、ジグザグに戻って来る。ナンシーは一往復でいい。俺は二往復する。じゃ行くぞ!」

 またも猛スピードで金雄は森に入って行った。物凄いスピードで右に左に木をかわしながらジグザグに走って行く。走って行くというよりは右左交互に飛んでいる様だった。しかしナンシーにはその真似は到底出来ない。


『こんな事が出来るのは、金雄さんの他には、やっぱりあの光速のスパルク位だわ。とても追い越すどころじゃない!』

 ナンシーはもうへとへとである。


「はい二回目! 次はまた森の外を回る。スタート地点で待っているから早く来いよ!」

 ナンシーはバテバテで戻って来た。その状態を見た金雄は練習をレベルダウンすることにした。


「ジグザグはきつい様だから止めにして、森の外側だけ回る。分かった?」

「は、はい、わ、分かりました」

「じゃあ、お先に失礼!」

 またも金雄は猛スピードで森を回り始めた。


「はい三回目!」

「はい四回目!」

    ・

    ・

    ・

「はい十回目! 終了! ふう、さすがにきつい!」

 ジグザグコースの後、ナンシーが三周している間に金雄は何度も追い越して八周していた。一周二百メートルほどの森だったが、競技場のように地面が整備されている訳でもなく、マラソンのコースの様に道路の上でもない。


 凸凹や斜面や段差があって極めて走りにくく、二倍の距離を走った様な感じである。しかしきつい等と言いながら金雄にはまだまだ余裕がある。


「ふう! 金雄さん、一休みしましょう。私もう駄目」

「ふふふふ、キスが掛かっているから、もう少し頑張ると思ったんですがもうギブアップですか?」

「さっきのジグザグがこれ程きついとは思わなかったの。ああ、そうか、金雄さんは大樹海育ちだったんですものね」

「それは皮肉ですか?」

「あっ! ご、御免なさい。そういう積りじゃないんですけど……」

「はははは、冗談ですよ。全然怒っちゃいませんから。じゃあ少し休んでいて下さい。もう少し練習しないと体がなまっちゃうから」

 その後も飛んだり跳ねたり走ったり、金雄の練習は延々と続いた。


 その様子を眺めていてナンシーは一つの確信を得た。

『この人は本当に強い。しかも優しい。この人に邪心じゃしん等は一欠片ひとかけらも無い。……信じるに足りる男だ。……私はこの人を信じたい。いや、信じる!』

 この瞬間からナンシーの心は大きく金雄に傾いて行った。

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