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地下格闘会(8)

 だが彼女は知らなかったのだが、身長が約百八十センチのナンシーを、身長が百七十五センチの浜岡は恋愛の対象とは一度も考えた事が無いのである。


 彼がその対象とするのは自分より背の低い者に限られていた。自分より背の高い女性は彼にとって単に道具に過ぎなかった。

 身長が百七十七センチのカランもまたその一人であることを、ナンシーも彼女自身も気付いていない。カランには彼氏がいたが、浜岡の世話を受けた女性達は、大抵彼を尊敬し出来れば愛されたいと思っていたのだ。しかし多くの場合それは最初から見込みが無かったのである。


「ナンシー、君に是非頼みたい事があるんだが。ちょっと大変なんだけど、君にしか出来ないと思うから何とかやってくれないだろうか」

「あのう、どの様な事でしょうか?」

「小森金雄と名乗っている、エムという男の事なんだがね」

「エムがどうかしたんですか? 私に殺せという命令でしょうか?」

「早まらないでくれ給え。エムは我々の手中にある」

「えっ! エムを捕まえたんですか?」

「そうだ。まだ実行していないが、彼を百パーセント捕える事が可能になった。しかし殺しはしない。いつも私は言っている。どんなに極悪非道な人間にも生きる権利はある、とね。エムという史上最悪の男であっても例外ではないのだよ」

「せ、先生、何という寛大なお心。うううっ、か、感動致しました!」

 ナンシーは涙ぐんだ。


 浜岡は彼女の感動を受け止めた様な振りをして、少し待ってから言葉を続けた。

「これから暫く君はエムの監視役をしてくれないか。と言っても監視そのものは我々がやる。君の役目は我々とエムとのパイプ役だ。

 我々が指令を出すから君はその内容を彼に伝える。もし彼からの要求があったらそれを我々に伝える。我々はその内容を吟味して答えを君に託す。何日間かはそれで行く」

「それだけで宜しいのでしょうか?」

「いや、肝心なのはその後だ。彼が野獣の様な男である事は君も知っているだろう?」

「はい」

「彼には、小笠原美穂という女がいる。我々は止むを得ず彼女を人質に取る」

「えっ! 人質ですか?」

 まさかと思った。


「野獣に暴れられては困るのでね。しかし野獣は野獣だ。今は情欲に狂っているから美穂という女性は人質の価値があるが、二、三日も離れていれば、直ぐ他の女に情を移す。

 彼にはまず南国大会に出て優勝して貰う。その時の世話役に春川陽子という女子大生をアルバイトで雇った。たった三日間だがエムはその正体を現すだろう。彼女と関係を持つか、それに近い事をするのに違いないのだよ。

 それを確認したらいよいよナンシー、君の出番だ。ムーンシティに彼を連れて行って、地下格闘会でこれまた優勝させて、つまりAクラスのトップにして貰いたい」

「ど、どうしてそんな事までするんですか? いっそのこと殺してしまった方が……」

「気持ちは分かるが彼には役に立って欲しいんだよ。世界格闘技選手権でベストフォーに残って欲しい。その位強くなくては困るのだ」

「その後はどうするんですか?」


 ナンシーの素直な言葉に浜岡は如何にも言い難そうに切り出した。

「その先の事はまだ秘密だ。ただ野獣を大人しくさせておく必要がある。変に暴れられては射殺されてしまう。……そこでちょっと言い難いのだが、君に彼の愛人になって貰いたい」

「えーっ! か、彼だけは嫌です。あんな男となんて。気が狂ってしまう。せ、先生それだけはご容赦願えませんか?」

「我々も随分検討した。しかし君しかいないんだ。カランという声も有ったが、彼女には恋人がいるだろう? それとも君に彼氏がいるのかな?」

「いません。私の好きなのは、せ、せ、……」

「君の人生にとって最大の試練だとは思うが、何とか頼むよ。勿論それ相応の見返りはある。私達の理想の為に、ユートピア計画の為に死んだ気になってやってくれないか」

「……………」

「頼む、何とかお願いしたい!」

「……分かりました。でも一度だけ彼と戦わせて下さい。負けるとは思いますがこのままでは腹の虫が収まりません」

「ああ、やりたい事は何でもやって良い。最後の目的が達成されればそれで良いのだから。ただし監視だけはさせて貰う。彼が君を殺す様な事があっては大変だからね」

「はい。了解しました。必ず成し遂げて見せます!」

 随分考えたが結局愛する浜岡には逆らえなかった。

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