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ナンシー(3)

「砂漠に行って何をするんだ。サバイバルゲームでもするのか?」

「はははは、まさか。小一時間もすれば小さな街が見えて来るわ。そこに行くのよ。念の為に聞いておくけど身分証はあるでしょうね?」

「ああ勿論。公式の試合の時以外は首から常に下げている。南国島の大会の時に、これを付けていたら注意されてね、止むを得ず外したが、それ以外の時は常にこうして下げてるよ」

「ああ、それなら良いわ。街に入ると身分証の提示を求められるから、その時は首から外して渡すと良いわね。その積もりでいて」

「ちょっと聞くがあんたが俺の世話係という事か?」

 金雄はまさかという顔で聞いた。


「恐ろしく残念だけど、その通りよ。浜岡先生直々に言われたわ。この役目が果たせるのは私しかいないってね」

「ほう、俺も最高に残念だが、仕方が無いな。しかし何故だろうね」

「ちょいと訳ありの場所に行くのよ。素人さんじゃ無理なのよね。後ろのカップルも似た様なものだけど」

「へーっ、俺と似た様な事でもしたのかな」

「あははは、あんたが史上最悪だよ。ただ彼も人を何人か殺している。あんたほどじゃあないけどね」

「人殺し? ……じゃあ、カランとかいう人も、彼の世話係なのか?」

「まあそういう事になるわね。それがどうかした?」

「前からの知り合いみたいに親しそうにしていたからね。初対面という感じじゃなかった」

「何だそんな事。たまたまなんだけど二人は知り合いだったのよ。ついでに言っておくけどカランには彼氏がいる。手を出したりしたらただじゃすまないわよ」

「俺にだって彼女がいるんだ。忘れないで貰いたい」

「ふん、春川陽子とはキスをしたくせに」

「うっ! あ、あれは世話になったお礼の気持ちだ!」

「気、気色悪い。私はあんたの世話係なのよ。キスなんぞしたらあんたの舌を噛み切ってやる!」

「天地がひっくり返っても有り得ないから安心しろ!」

「どうだか!」

 激しい言い争いの後は暫く沈黙が続いた。車の揺れがひどくうかつに話をするとそれこそ自分の舌を噛みそうだったからである。


 しかし間も無く砂利道ではあるが、一応道路らしきものの上を走り始めると揺れは大分収まった。車は小さな岩山の間を縫う様に走って行き、漸く街らしきものが見えて来た。その辺りになると道はアスファルトですっかり舗装されている。


「あれ、何だか人が住んでいる様には見えないぞ」

「そりゃそうよ。ここは通称ゴーストタウンですからね」

「ははは、俺は今度は幽霊と戦うのか?」

「下らない事を言ってないで、身分証を首から外して支度しなさい!」

「……分かったよ」

 分かったとは言ったものの、金雄には、そして恐らく後ろの彼にも、何が何だかさっぱり分からなかった。ゴーストタウンには通常人は住んでいないのだから。


 ロボットカーが街の入り口に差し掛かると、閉じていた金属製のかなり頑丈そうなとびらが独りでに開いた。まだ午前中ではあるが何だか不気味である。

 車が中に入ると予想通り扉は独りでに閉まった。ホラー映画のワンシーンの様な感じで、余り感じの良いものではない。それから何回か左折や右折をして止まった。


 すると、

「どどどどっ!」

 足音を響かせて、家の陰に潜んでいた何人もの迷彩服を着た連中が、手に手に銃を持って車を取り囲んだ。ざっと十二、三人は居る。


「全ての窓を開けて!」

 ナンシーの命令で車の窓が自動的に全て開いた。


「身分証を渡して!」

 身分証はナンシーも含めて全員がリーダーらしき男に手渡した。男が持っていた機器にそれを差し込むと、画面に人物の顔が現れる。その他に幾つかの情報も書かれている様である。


 画面上の顔と実物とを見極みきわめながら、納得したのか身分証を全員に返した。その後でナンシーとカランと、彼女達にマイクと呼ばれたその男は数分間ほど英語で談笑し、それから囲みを解いた。恐らくここを何度も通っていて顔見知りなのだろう。


「最終地点へ行って!」

 ナンシーが命令するとまたロボットカーは動き出した。程なく鉄筋コンクリート作りの、白い頑強そうな二階建てのビルの前に止まった。そこが最終地点らしい。


 入口の前にはやはり迷彩色の服を着た二人の男が銃を持って警備していた。良く見るとビルの屋上からもビルの二階のあちこちの窓からも、銃を持った連中が四人を監視している。鼠一匹さえも入り込めないほど物々しい警戒振りである。


 ナンシーが入り口の警備の二人とちょっと話をすると彼等はドアを鍵を使って開けた。

「さあ入って、金雄さん」

 カランも同じ事を相方に言った様である。金雄ももう一人の彼もただ言われるままに行動していた。下手な行動は直ぐに自分達が銃弾によって蜂の巣の様になって殺されてしまう事を意味していた。


『とんでもない所に連れて来られたな。生きて帰れるんだろうか?』

 二人の屈強な男達は身の縮む様な思いをしていたのである。

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