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ナンシー(2)

「うふふふ、大分動揺してるわよ金雄さん。だからこれはほんの一端。まだまだ面白いものが見れるわよ。それにこの無人運転カーは世界最高の技術水準にあるのよ。これだけで世界を制覇せいは出来る水準なのよ。お分かりになるかしら? それとついでに言っておくわね、どうして一番前の席が空いているのか分かる?」

「……いや、多分追突の時の危険を避ける為かな」

 金雄はナンシーの言う通り確かに動揺していた。彼女の質問に答えるだけで精一杯だった。


「ふふふふ、結構鋭いわね。正解じゃないけど近いから良しとしておくわ。本来は一番前の席はボディーガードが乗るのよ。正面から銃で撃たれた場合を想定しているの。

 でも今回はその必要が無いからあえて空けてあるのよ。浜岡先生クラスの人が乗る時以外は空けるのが言わば慣習の様になっているのよ」

「へえーっ、つまり俺達はまあ、それ程重要じゃあないという訳か」

「勘違いしないでよ。悪党を運ぶのにボディーガードはいらないでしょう? 特に貴方の様な一匹狼の大悪党にはね」

「ああ、まあ、一応分かったよ……」

 事あるごとに悪党等と侮蔑されることにウンザリして暫く沈黙することにした。


 その後、車はどんどんスピードを上げて遅い車を軽々と抜いて行った。現代社会について少しうとい金雄だったが、それでもこの無人カーが恐るべき水準にある事を認めざるを得なかった。


 少し間を置いてからナンシーはまた自慢話を始めた。

「今、二、三台車を追い抜いたでしょう? この技術は世界の水準を遥かに凌駕りょうがしているわ。普通の無人運転カーでは絶対に出来ない芸当なのよ。しかもベテランドライバーをしのぐ滑らかな追越よ。

 だから私達はこの車を他の無人運転の車と区別する為に、ロボットカーって言ってるの。唯一の難点は製作費が高い事ね。これ一台で三十億ピース掛っている」

「三十億ね。ベテランドライバー一人を雇った方が遥かに安いと思うが。三、四人雇って二十四時間体制にしてもまだお釣りがくる」

「ふん、そう言うと思った。量産出来るようになれば一台一億ピース位には値段を下げられるわ。そんなことより私、貴方に是非言っておきたい事があるの」

 ナンシーの顔はぐっと厳しくなった。


「何ですか? 俺も話したい事は幾つかあるが、そちらからどうぞ」

「貴方は私がエムの話を大袈裟にしていると思っていないかしら?」

「ああ、そう思っているが。少なくとも事実とは異なる」

「やっぱり何も分かってないわ。貴方が天空会館で大暴れした、その後の事を知ってる?」

「いや、逃げなければ恐らく殺される。そう思って、ひたすら逃げまくっていた。仕方の無い事だと思うが……」

「貴方の仕掛けた罠に掛った人達がどうなったか知ってる?」

「いや、何も知らない」

「三人とも足を切断したわ」

「ええっ! せ、切断したんですか……」

「そうよ。あの日余りに怪我人が多くて、治療が遅れて、取り返しの付かない事になったのよ。二人は車椅子で生活している。一人は、矢田部一心は、……自殺した」

「えええっ! 亡くなったんですか……」

 金雄は激しい衝撃を受けたのだった。


「そう、その他にも理由は色々だけど十人位は自殺しているの。助かった人も何人かいるけど。それに怪我が原因で数ヵ月後に亡くなった人も何人かいる。全部合わせれば死者は十人を超えている。それから貴方、大森かなえさんって知ってるかしら?」

「ああ、受付の女の人ですよね」

「そう、彼女は格闘家でも何でもない、善良な市民だわ。彼女は貴方と接触があったばっかりに、精神的な障害が残って未だに苦しんでいるのよ。

 貴方は善良な市民を人質に取る事は、許せないと言うけれど、かなえさんの始末をどう付けてくれるのかしら? ふふん、どうにも出来ないでしょう?」

「そ、それは、……謝れと言うのなら幾重にも謝る。死ねというのなら死ぬ」

「謝っても、死んでも取り返しが付かないのよ!」

 ナンシーは激高して叫んだ。


 後ろの席の二人は驚いて思わずナンシーを見た。慌てて二人に英語で謝罪した。

「どう、これでも私の話が大袈裟だと言うのかしら。噂になっている事位に言わなければ、亡くなった人達は浮かばれないし、未だに怪我や精神的障害を引きっている人に申し訳が立たないのよ」

「成る程、良く分かった。今更申し開きはしない。確かに酷い事をした。……ただ一つだけ、俺は女性に暴行はしていない。ただの一人にもしていない。

 しかし噂だと、何十人、いや何百人もの女性に暴行をしたことになっている。これにも何か特別な理由があるのか?」

「……それは私のミスだわ。あれだけの酷い事をしたんだから、女性に暴行位しているのに違いないと思った。でも貴方は、春川陽子さんの時も、影山リカさんの時もそれだけはしなかったって、聞いてる。それに関しては謝るわ。……御免なさい」

 何とナンシーは少し躊躇いはしたが、明白に謝ったのである。金雄もこれには驚いた。


「いや、分かってくれればそれで、良いです。ただ、今、聞いてるって言いましたよね。あんたが盗聴していたんじゃないのか?」

「はははは、まさか。貴方の声を直接聞いたら、吐き気がして来て耐えられないと思うわ」

「うーん、じゃあ誰が聞いているんだ?」

「そこまでは私も知らないわね。私に教えてくれる人がいる。それだけよ。たとえば貴方が春川陽子さんとキスしたって聞いてる。間違いないでしょう?」

「そ、その通りだ。どうしてそこまで分る?」

「知らないわね。さあて、そろそろ左折するから気を付けて」

 ロボットカーは対向車が来ない間に、交差点で素早く左折した。ところが道路が途中で切れている。その先には、砂漠、岩の多い荒地がずっと続いていた。

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