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変身(2)

 ステージを降りて来た金雄に、いち早く駆け寄って陽子は声を掛けた。

「おめでとう御座います、金雄さん。後一つですね」

「えっと、そのう、誰でしたっけ?」

「えへへへ、私が誰だか分らないの?」


 金雄はちょっと頭をかしげたがハッと気が付いた。

「ひょっとすると、春川陽子さん?」

「ピンポーン! どう、見違える様に綺麗になったでしょう?」

「ま、まあね。アイドルの女の子を使ったビックリカメラかと思った」

「まあ、それってめてるの?」

「えっ! ま、まあ、そんな所かな、はははは」

「さあ、晩御飯ばんごはんを食べにスカイシーンに行きましょう!」

「えっと、……まあいいか」

「嫌なんですか?」

「いや、好きだ。ああ、そのう、スカイシーンは好きですよ。じゃあ、行きましょうか」

 随分ずいぶんぎこちなく了承した。もし陽子に何のショックも無かったのであれば、贅沢ぜいたく過ぎると感じていたので断る所だったのだが、激しい衝撃を受けてまだ半日も過ぎていない。

『ここは彼女に従っておいた方が、ショックがやわらいで良いだろうな……』

 そう思って一緒に南国ホテルの最上階にあるスカイシーンに向かったのである。勿論今度はエレベーターに乗った。


 それにしてもミニスカートから形良く伸びている陽子の脚は、小振りではあってもなかなか魅力的だった。陽子自身その事を良く知っていて、二人きりになるとわざと金雄から少し離れて立って足を動かして見せた。


「ねえ、私って魅力無いかな?」

「四、五時間前の陽子さんは余り魅力が無かったけど、今は十分に魅力的だよ。……ちょっと魅力的過ぎるかな?」

 金雄は正直に言った。


「過ぎる?」

「まあ、言葉のあやだよ。ふ、深い意味は無いから、はははは」

「そ、そうなんだ。あのう、ところで……」

 陽子が何か言い掛けた時、エレベーターは七階に着いた。そこから陽子の口数がぐっと減った。全くはしゃぎもせずに、淡々と料理の注文をした。値段も一万ピース程度でここのレストランとしては少し安い方だった。

 料理を食べ終わってもまだ六時半。向き合って座っているのが苦痛なぐらい沈黙が続いた。しかしそろそろ帰ろうかという直前になってやっと口を開いた。


「あのう、……金雄さんには彼女はいるんですか?」

 金雄は少し返事に困った。なるべく陽子にショックを与えたくなかった。しかし嘘はもっといけないと感じた。


「日本に一緒に暮らしている彼女がいるんですよ」

「えっ! 応援に来ていないから、そういう女の人は居ないのかと思ってました」

 陽子の顔から血の気が引いた。相当ショックを受けている様である。


「仕事が忙しくて来れなかったんだ」

「そうだったんですか。私、また思い違いしちゃった。駄目ねえ私って」

「そ、そんな事は無いよ。そ、そりゃあ色々アクシデントはあったけど、一生懸命だしチャーミングで美人だし、最高に素敵だよ」

「金雄さん、それは褒め過ぎです。……その、金雄さんの彼女って素敵な人なんでしょうね」

「美人という点では春川さんに負けるけど、まあ、生活力があるし相性も良いと思う」

「何をやっている人なんですか? 金雄さんの仕事も知りたいな」

 金雄は返答に窮した。余り本当の事を言って良いものかどうか判断に困る。


「それはちょっと……。そろそろ時間だから行かないと」

「あっ、済みません、プライバシーに踏み込んじゃあ拙いですよね。ごめんなさい」

「あ、謝る事は無いですよ。春川さんが悪い訳じゃない」

「本当に優しいんですね金雄さんって。私は格闘技音痴だから、金雄さんがどの位強いのか良く分らないんだけど、他の人の歓声や拍手が凄いからもの凄く強いんだなって思います。それなのにどうしてこんなに優しいんですか?」

「それは良く分らないな。とにかく子供の頃からそうだったとしか言いようが無い」

「ねえ、金雄さんの子供の頃ってどんなだったの。私、もっと金雄さんの事を知りたいな」


 陽子の興味の風向きが金雄にとって危険な方向になって来たので、

「ああ、もう七時過ぎてる。早めに行っておかないと拙いよ。さあ行くよ」

 時間にかこつけて誤魔化したのだった。


「ちょ、ちょっと待って」

 陽子は慌ててお金を支払い金雄の後を追った。またもエレベーターで二人きりになった。

「ねえ、私、何か拙い事を聞いたの?」

「うーん、そういう事じゃないんだ。さっきも言ったけど春川さんに落ち度なんか無いよ。ただ余りあれこれ聞いて欲しくないんだ。悪いんだけど聞かないでくれないか?」

 何か秘密がある。陽子にはピンと来た。それがかえって陽子の興味をそそる事になってしまった。

『小森金雄さんをまだ諦める必要はなさそうだわね』

 彼女の気持ちは激しい位に固まった。

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