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変身(1)

 今度は第一ステージ。アジア南地区とは言っても、国も人種も様々である。しかも隣のアジア北地区や、ヨーロッパ東地区とは歴史的な事情があってダブル所があり、相当に範囲が広いのである。


 黒人も何人か参加している。金雄の次の相手は筋肉隆々とした黒人であった。去年までヨーロッパ東地区で活躍していた男である。

 去年の成績はベストフォーどまりだった。地区を移動した場合にはシードされずに初戦から戦わなければならない。しかし実力者である事は良く知られていて、優勝候補の一角であった。


「スーパーヘビー級第一ステージ、グオーグ・ルシュルーさん、小森金雄さん、ステージにお上がり下さい」

 例によって何か国語かでアナウンスされた。圧倒的にグオーグへの声援が多かった。去年は不覚を取ったがそれ以前は何度か東地区で優勝し、世界大会に出場している有名選手だったのである。


「ゴーッ!」

「バン、バン、バン、バン、バン、バン、バンッ!」

「バッターーーン!」

 何が起こったのか観衆にも彼自身にも理解出来ないままに、グオーグは倒れていた。目にも止らぬスピードで金雄の拳が腹部や顔面を捉えていた。

 時間にして僅か六秒。第一ステージの観衆ばかりで無く、第二ステージの観衆までもが声を失った。少し時間を置いてから大歓声が上がった。


「ウオオオオーーーーッ!!」

 大声援の中に、

「またやった、小森金雄だ!」

 そんな声があちこちから聞こえて来る。これで優勝候補を二人も、しかも秒単位で撃破しているのだ。もはやまぐれではない。


 人数が絞られて来た事もあって三回戦の回転は速く、暫くすると四回戦が始まった。

「スーパーヘビー級第五ステージ、小森金雄さん、飯沼芳樹いいぬまよしきさん、ステージにお上がり下さい」

 今度は日本人同士の戦いである。飯沼芳樹は彗星拳の使い手で、若手のホープだった。最重量級にしては小柄で金雄より少し大きい程度である。二人がステージに上がるとかなりの声援が上がった。

 ハンサムな芳樹目当ての若い女性の声援が圧倒的に多かったが、今度は金雄に対する声援もかなりあった。彼の戦い振りが大いに話題を呼んでいたのである。今度の戦いはスピードのある者同士、面白い展開になると予想する者が多かった。


「ゴーッ!」

 今回、金雄は相手の捨て身のスピード攻撃を警戒して比較的ゆっくりと歩み寄った。芳樹も金雄のスピードを知っていて、やはり慎重に接近し、ほぼ同時にローキックを出した。しかし金雄のそれが遥かに速く、芳樹の軸足である左足に当った。


「ゴキッ!」

 嫌な音がした。芳樹は崩れ落ちる様に倒れ、左足を押えてうめいていた。足の骨が折れていたのである。彼を応援しに来た女性達の悲鳴が上がった。彼はファンの女性達に取り囲まれながら担架で運ばれて行った。


 芳樹と女性達が去るか去らないかの内に、

「ウオーーーッ! カネオーッ! カネオーッ! カネオーッ!」

 期せずして金雄コールが湧き起こった。今度もほんの七、八秒だった。スーパースターの誕生の予感に会場の凡そ半分が沸き立った。


 途中棄権した者などがあって、四回戦終了時にピッタリ残り三十二人。後二回勝てばベストエイトが決まって今日の試合は終了となる。

 ただしここから若干、試合形式等の変更がある。ステージは中央の第三ステージのみとなる。試合時間も十分に延長され、レフリーの他に場外の審判が二人付く。ダウンもテンカウント以内なら二度までオーケー。三度目でアウトのルールになる。


 五回戦終了後夕食休憩になり、最終のベストエイトを決める戦いはその後に行われる。五回戦の組合せはここでもう一度抽選になって、うまい具合に金雄は第一試合を引き当てた。ここで勝ち抜ければ午後八時からの最終戦まで十分に休養が取れる。


 直ぐに試合が始まった。本大会最重量の三百キロの巨漢、バズーガだった。あっけなかった。腹の巨大な脂肪が邪魔で腹部への攻撃は効かないと思われていたが、金雄の蹴りが深々と入り、ゆっくりとスローモーションの様に後ろに倒れて行った。そのまま失神した。蹴りに一秒、倒れるのに四秒掛った。


「カネオーッ! カネオーッ! カネオーッ!」

 最重量級の会場中が金雄コールで沸き返った。その声援の中に見慣れない少女を金雄は見つけた。それは目一杯めかし込んだ春川陽子だった。もっとも金雄にはそれが誰だか分らなかったのだが。

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