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クラッシュショック(3)

 金雄がカツカレーにすると、金太郎も真似をして同じ物を注文した。ここは早い、安い、美味いがモットーの様で直ぐにボリューム一杯のカツカレーが来た。二人とも豪快に食いながら話をした。


「あっしは重量級なんですが先生のクラスは?」

「本当は重量級なんだけど手違いで最重量級になった」

「えーーーっ! そ、それで大丈夫なんですか?」

「ああ、まあ何とか勝ってるよ」

「へえーっ! さすが先生だ。あっしもおかげ様で何とか二回戦は突破しました。でも先生と同じクラスでなくて良かった。先生と当ったら全然勝ち目がありませんからね」

「ふふっ、格闘家はもっと強気でなくちゃ。ところで早川さんはお一人なんですか? 奥さんとかは?」

「ははは、バツイチでして。飲んだくれてカミさんを殴る最低の男だった訳でして。その、別れた後に一念発起して、それまでは趣味的にやっていたのですが、本格的に格闘家になってみようと思って、アルバイトで稼ぎながらやっている訳で。まあ一人と言えば一人なのですが、クニの方に何人か弟子が居ります。はあ、……」

 金太郎は顔を赤く染めて、如何にも恥ずかしそうに話した。


「ほう、弟子がねえ」

「そのう、物好きな人も居る様で、その町のカルチャーセンターで教えているんですが、弟子が二十数人程おります。一昨年のここの大会でベストフォーに入ったのが評価されて、そこの先生になれました。去年はベスト十六止りでした」

 金太郎は更に顔を赤くして言った。


「別に恥ずかしい事じゃないですよ。弟子の方はこの大会には出られないんですか?」

「はい、まだそこまでの力は。ところで先生は弟子を沢山お持ちなんでしょう?」

「ははは、俺は一匹狼でね。弟子も先生も居ない」

「ウワーーーッ、格好良い! で、でもどうやって格闘技を覚えられたんですか。流派は天空会館でしょうか? それとも……」

 金雄は返答に困った。誰も聞いていないのならば正直に言っても良いのだが、何処に耳があり、目があるか分らない状態ではうかつに話す訳には行かない。


「そろそろ時間だから、その話しはまたこの次と言う事にしよう」

 金雄は席を立った。かすかな疑問が金太郎の胸に残った。支払いの方は割り勘にした。やや強引に金太郎は二人分を払おうとしたのだが、金雄もそれだけは譲らなかった。金太郎が経済的に苦しい事は分かっていたからである。


 春川陽子はベットで寝ていたが、直ぐに目が覚めた。今日の出来事を思い出してみる。自分が過去最大の衝撃を受けた部分はカットした。今は思い出したくなかった。

 しかしその後の金雄に抱きかかえられて階段を昇った所は、何度も何度も繰り返し思い出した。そのたびに感動で涙が出て来る。


 じーっと見つめていた金雄の顔が眩しい位に美しいと思えた。最初は何も感じていなかった筈である。くだらない格闘技なんぞをやる奴にろくな奴は居ない。そう信じていた。


『でも彼は違う。何時も優しかった。絶対に力に物を言わせようとした事は無い。何故?』

 その内寝ていられなくなって、起きて鏡を見た。

『我ながら女としての魅力は無いわね。髪はいい加減に頭の上でまとめているだけだし、十分にダサい眼鏡。よれよれの上着とよれよれのズボン。

 相手が格闘家だからちょっとでも魅力的だと、襲われるかも知れないと思ったのよね。でも金雄さんには良く思われたい。魅力的だと思われたい、そうよね春川陽子!』

 陽子は自問自答して決断し、先ずホテルの中にある美容室に行った。流行のお洒落な髪形にして貰った。顔のメークにもあれこれ注文を付けて誰の目にも美形と思われるようにした。


 こんな事も有ろうかと、用意していたウェーブのある超ミニスカート付きのワンピースの勝負服に着替え、眼鏡を外してコンタクトレンズを入れた。


 改めて鏡を見た。

「我ながら美人になったわね。ちょっと変り過ぎたかしら? でも前より美人に変ったんだから良いわよね。金雄さん目を丸くして驚くわね、きっと。そしたら、そしたら……」

 陽子は一大決心をして金雄の応援に行った。 


「それじゃあ、あっしはこれで」

 南国格闘会館の巨大な第一ホールに入った所で二人は別々のエリアに行く事になる。

「お互いに頑張って、明日に残れると良いですね」

「はははは、先生の方は心配無いと思いますが、あっしの方はギリギリの綱渡りなんで残れるかどうか……」

「お弟子さんが応援してるんでしょう? その人達の力も借りればきっと勝てますよ」

「はい、頑張ります!」

「その意気ですよ。じゃあ!」

 間も無く三回戦が始まった。

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