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クラッシュショック(2)

「何と言うのかな、私、免疫が無かったんです。格闘技は申し訳無いんだけど大嫌いです。お互いに怪我をする様な事をどうして好んでするのか、理解出来ません。

 バイトとは言ってもこの仕事を選んだのは純粋にビジネスとしてです。でもその考え方の甘さを知りました。友達は皆止めたんです、話が上手うま過ぎて危ないって。

 別の意味で私にとっては危険なものだったんですね。あそこまでショックを受けるとは思っていませんでした。ただ、私はその代わりに素晴らしいものを見付けたような気がします」

「素晴らしいもの?」

「ええ、視野の広がりと言うのか、今迄見えなかったものが見えて来た様な気がするんです」

「災い転じて福となす、とか言う奴ですね」

「ええ、まあ、そんな所です」

「さて、それじゃあぼちぼち行きます。しっかり休んでいて下さいよ」

「はい。もしかするとまた会場に行くかも知れません。随分気分が落ち着いて来ましたから」

「ああ、そうですか。でも、くれぐれも無理しない様にね」

「そうします」

 金雄は自分の部屋には入らずにキーをフロントに置いて再び会場に向かった。


 そこでも幸運が一つあった。競技の進行が予想以上に早かった為、昼食休憩が後回しになって二回戦が進行していたのである。運良く十五分ほど余裕があったので落ち着いて次の相手と対戦出来た。

 金雄の強さはまださほど話題になっていない。多くの人には、まぐれ勝ちだと思われていた。立技の経験の乏しいグレンに、総合格闘技の立技の得意なちょっとした強者が一気に勝負に出て、壷にはまったのだと思われていた。


 選手紹介のアナウンスがあって今度は第四ステージに立った。

「へへへへっ!」

 対戦相手は何故か小声で笑った。良く見るとその男は南国島に来る途中の、高速フェリーの中のレストランで出会った、二人の男のうちの一人である。

田丸昇たまるのぼるというのか、ふうん、日本人なんだ』

 金雄の印象はその程度だったが、

『この試合は頂きだ。俺達を見てべそを掻いて逃げた男と当るとはな。ラッキー!』

 昇はもう勝った気分で居る。


「ゴーッ!」

 レフリーのゴーサインと共に試合が始まると、またしても金雄の突進する姿は誰にも見えなかった。腹部に数発パンチが入ると、昇はもろくも崩れ落ちたのである。ほんの二、三秒の事だった。


「オオーーーッ!」

 今度は第四ステージの周辺の観衆が驚きの声を上げた。一回戦はともかく、二回戦になると試合時間が長くなって来ていた。

 その中での数秒の決着はやはり驚きに値する。小森金雄という無名の男の名前が、一躍クローズアップされて来たのである。


「昼食休憩は午後一時三十分から午後二時三十分までとします。三回戦に出場される方は、必ず時間までにステージ前にお集まり下さい」

 昼食休憩の放送が入った。大会運営の進行状況から少し遅めの昼食タイムとなった。会館にもレストランがあるが超満員の様なので、やめてホテルのレストランに向かう事にした。


 歩いていると後ろから声を掛けられた。

「先生! 小森先生!」

 振り向くとあの早川金太郎だった。

「ああ、早川さん。どうしてたんですか急に居なくなって」

「いやあ、お邪魔しては悪いと思って。素知らぬ振りをしていた様ですけど、本当は先生の彼女なんでしょう?」

「うーん、春川さんの言う通り何か勘違いしている。初対面なんですよ。彼女はアルバイトで俺の世話係になっているだけで」

「えーっ! そうですか? 彼女はおられないんですか?」

「日本に居るんだけどね、仕事が忙しくて応援に来れないんだよ」

「あーっ、そうだったんですか。こりゃとんだ早とちりだ。でもそのアルバイトの人はどうしたんですか。居ないみたいですが?」

「具合が悪くなって今ホテルで寝てるんだよ。多分その内に来ると思うんだけどね」

「それじゃあ今はお一人なんですね。私の様な者が一緒じゃああれなんですけど、宜しかったら昼食ご一緒しませんか?」

 金太郎は恐縮しながら言った。


「ああ、構いませんよ。隣のホテルの一階にあるシードラゴンというレストランにしようと思っていたんだけど、そこで良いですか?」

「はい、そこなら大丈夫です。南国ホテルの七階のスカイシーンというレストランは有名ですが高くてちょっと。ははは、お恥ずかしい」

「いや、俺もそこはちょっと。見晴らしは素晴しいんだけど、料金が高くてねえ」

 二人の考えは料金の安さで一致して、一緒にシードラゴンに向かった。結構混んでは居たが、お昼時間を少し過ぎていた事もあってか、割合早く座れたのだった。

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