表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/260

思い違い(4)

「あははは、ばれちゃった。実はそうなんです。明日はもう来れないと思うと、もう今日はやけ食い状態です」

「やけ食いは健康に良くないな。ところで明日は何時から始まるんだ?」

「参加人数が多いので、朝八時から始まります。でも金雄さんの対戦は一番最後の方だから多分午前十一時位だと思います」

「ふーむ、それなら十時位までに行っていれば良いな。他の人の試合もちょと見たいし、ウォーミングアップもしなくちゃいけないしね」

「そうですね、負けると分かっていても、遅刻するのは格好悪いですから、余裕を持って九時半頃にホテルを出ましょうか?」

 陽子は殆ど諦めた口調で言った。


「そういう事にしよう。しかしさすがに高いだけあって美味しかったよ」

「そうですわね。私も初めてなんです、こんなに美味しい料理を食べたのは」

「えっ! そうは見えなかったがな」

「えへへへ、慣れた振りをしてたんです。本当は結構びびっていたんですよ」

「うーん、演技が上手いね。役者になれるよ」

「有難う御座います。でも役者になる積りは御座いません。私は勉強一筋です」

「うん、良い心掛けだ。それじゃ行こうか」

「はい」

 しかし陽子はこの時、重大な思い違いをしていた事に気が付いていなかった。


 二人は部屋の前で立って明日の朝の事について打ち合わせをした。明朝は午前八時半に一階のレストランで落ち合ってから朝食を取り、一服付けてから二人一緒に会場に向かう事に決めた。バイキング式の朝食なので簡単に済ませる事が出来そうである。


「早過ぎないかしら?」

「なんかこう落ち着かないから、会場には早めに行って準備した方が良いと思う。会場の様子が良く分らないしね」

「それもそうね。じゃあそうしましょう。それじゃあおやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 部屋に入った金雄は早めにベットの中に入った。


『美穂をどうやったら助けられるんだ? ここから美穂の居る所まで、何千キロも有る。駄目だ手も足も出ない。今は明日の試合の事だけ考えよう』

 それから間も無く金雄は眠った。彼は今、夢の中に居る。


『ああ、美穂。なんだそこに居たんだ。心配するんじゃなかったな』

『そうよ何にも心配する事なんか無いわ』

『俺と戦え!』

 金雄と美穂の間に巨人が割り込んで来た。美穂は走って金雄の後ろに隠れる。巨人は三メートル余りもある大男。


『ウリャ、リャーッ!』

 金雄は巨人に飛び掛って行った。

『バッタンッ!』

 大きな音を立てて、巨人はあっけなく倒れた様に見えた。しかし何時の間にか後ろに回り込まれ、首を絞められている。

 何とかもがいて脱出したが、巨大なハンマーのような拳が金雄の顔面を捉えた。金雄は吹っ飛んで仰向けに倒れたまま起上れない。


 するとそこに金髪の若い体格の良い女性が現れて、逃げる美穂に銃を向けて何発も撃った。血しぶきが上り、美穂はばったり倒れたまま動かない。

『美穂ーーーーーっ!』

 金雄は悲痛な叫び声を上げた。


 そこで目が覚めた。ひょっとすればうなされていたのかも知れない。

『はあーっ、夢か! ……嫌な夢を見たな。かなり汗を掻いている。シャワーを浴びよう』

 シャワーを浴び、下着を取り替えてからもう一度ベットに入ったが、今度は眠れない。まだ午前三時。仕方が無いので備え付けられているインスタントコーヒーに、ポットのお湯を入れて椅子に座って飲んだ。


 美穂と交わした会話の幾つかを思い出す。彼の体には多数の傷跡がある。それについて聞かれた事があった。


『ねえ、前から聞こうと思っていたんだけど、この傷についてもっと詳しく教えてくれない?』

『……分かった。俺の恥みたいなものだから言い難かったんだけど、白状するよ。これはね激しい修業のせいなんかじゃなくて、野犬に噛まれた後なんだよ』

『やっぱりそうだったんだ。でも野犬の対策は万全だったんじゃないの?』

『ちょっと油断があったのかも知れない。その時は、多分十五、六才の頃だと思うけど、あいつ等の猛烈に激しい襲撃で、細い木になかなか近寄れなかったんだ』

『へーっ、それで?』

『細い木に近付くと登って逃げられてしまう事に、あいつ等は気が付いたみたいだった』

『で、どうしたの?』

『仕方が無いから、テントを目指して死に物狂いで走った。幸いだったのはテントが割合近くにあった事だ。テントの側には沢山の罠が仕掛けてある。

 俺は勿論何処を走れば罠に掛らないか知っているが、あいつ等は知らない。次々に罠に掛った。俺は辛うじてテントに逃げ込む事が出来た。

 テントの中にまで入り込まれたら終りだったけど七、八匹罠に掛った所で、諦めてくれた。あれほどほっとした事は無かったよ』

 とても辛かった事を思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ