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思い違い(1)

「ベストショットを出して欲しい、って言われたからこれにしたの。我ながら惚れ惚れするスタイルね。もうちょっと身長があったらミス何とかで優勝出来るんだけど、何時も身長でねられてしまうのよ」

「ああ、そ、そうなんだ。……ところでお宅も天空会館の一員なのか?」

「天空会館? ああ、聞いた事はあるけど、私、格闘技には全然興味が無いのよ」

「それじゃあどうして?」

「小森金雄という人の世話をするアルバイトなの。美人の貧乏女子大生が高額のバイトに形振なりふり構わず飛び付いたっていう図式よ。それじゃあ三日間泊まるホテルに案内するわね」

「あ、ああ。何て言うか、小っちゃいのに美穂以上に気が強いな、と言うか自信過剰じしんかじょうかな?」

「何かおっしゃいました?」

「あ、いや、何でも無い」


 徒歩五分でそのホテルに着いた。かなり大きな七階建ての中層ホテルである。高層ホテルはここ南国島では禁止されている。緑に覆われた美しい景観を平等に見る事が出来る様にという配慮だった。


 そのホテルから南国島格闘会館までは徒歩僅かに二分。要するに直ぐ隣にあった。建物が大きいので隣に行くのに少々時間が掛る、それだけだった。フロントで手続きを済ませると、ポーターと一緒に最上階の部屋に向かった。


「小森さんの部屋は七○一号、私の部屋は七○二号、間違わないで下さいね。それから念を押して置きますけど、プライベートでのお付き合いは絶対にありませんから。

 これから三日間一緒に食事をしますけど、それはく迄も仕事であって、好意を持っているとかではありませんから。絶対に誘ったりはしないで下さい」

「ああ、間違っても誘わない様に気を付けるよ」

「な、何だか嫌な言いかたね」

「春川さんの言い分を素直に表現すればそうなるんじゃないか?」

「そうかしら?」


 二人のやり取りを内心ニヤニヤしながらポーターは聞いていた。勿論顔に表す事は無く最上階の部屋に着いた。荷物を部屋においてチップを受け取ってから何やら楽しげに帰って行った。陽子は金雄の部屋に一緒に入って今後の事を少し説明するようである。


「今日の午後六時で明日の試合の出場者の最終登録が終るんですけど、一緒に行かれます? 別に私一人で行っても良いんですけど」

「そうだな、じゃあ春川さんにお願いします。本当の事を言うと慣れない船旅でちょっと疲れました。なんだかまだ揺れている様な気がするんだよね」

 それは決して大袈裟ではなく、そんな気が確かにしていたのだった。


「ああ、分ります。私も最初にここに来た時にはそうでしたから。ここは飛行場が無いから日本からはフェリーしかないんですよね。

 最新の高速フェリーは揺れが少ないって聞いていましたけど、外洋に出ればやっぱり揺れます。特に波の高い日だったから最初は凄い船酔いで、全部吐いちゃって。ああ済みません汚い話しちゃって。

 それじゃあ一人で行って来ます。その後抽選があって、結果は午後七時ごろ出ると思いますので、今日の夕食はその後という事になります。呼びに来ますから七時過ぎにはここに居て下さいね」

「分った、七時からここで待っていれば良いんだな」

「はい、それではお願いします。なるべく弱い相手と当ると良いですね。トーナメント戦だから優勝候補と一回戦で当っちゃったら終っちゃいますからね」

「あははは、そ、そうだな」

 陽子には何の悪気も無いので、金雄はただ苦笑するばかりだった。


「ルルルルルル、ルルルルルル、……」

 陽子が部屋を出て三分ほどして、まるで彼女が居なくなるのを待っていたかの様に、七○一号室に電話が入った。金雄はいぶかしげに受話器を取った。


「はい」

 名前を言わずに反応を待った。

「小森金雄さんでしょう?」

 聞いた事も無い若い女の声だった。


「はい、そうですが」

「警戒しなくても大丈夫よ。初めましてナンシー山口と申します」

「ナンシー山口?」

 彼女の事は美穂に聞いた事が有る。世界最強の女性格闘家、美穂のあこがれの人だった筈。しかし自分に何の用があるのか。天空会館側の人間である事は間違い無い。


「浜岡先生のお手伝いをさせて貰っていると言えばお分かりかしら?」

「ああ、良く分った。善良な市民を苦しめる一味という事だな」

 金雄は皮肉たっぷりに言った。

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