表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/260

罠(3)

「先ずお前は天空会館から逃げた時に色々と証拠を残して行ってくれた。空き家も調べた。沢山たくさんの罠の他に様々な日常生活用品。その外、血液、髪の毛、皮膚の一部等々。

 ところがお前の身元は幾ら調べてもさっぱり分らなかった。おまけにその容姿。こっちが本当のエムだったんだな。防犯カメラに写っていたお前の姿から、コンピューターを使って髭や髪を削除して、通常の状態にしてみてもやっぱり誰だか分からなかった。

 しかし一年ほどして面白い噂を耳にした。大道ロボット屋に恐ろしく強い男が現れたという噂だ。しかもその男は全く無名だった。ピンと来たよ。

 だがその男は何時いつ何処どこに現れるのか分らない。大道ロボット屋はこの国に何百とある。しかも毎日移動しながら営業している。その時点では捕まえる事は不可能だった。

 そこで俺達はこう考えた。もし大道ロボット屋を一人の男が牛耳ぎゅうじったらどうなるか。エムが何処に現れても、直ちに我々の耳に入る様にする事が出来る」

「何だって、じゃあ井沢というのは?」

 金雄にもだんだん事件の裏が読めて来た。


「俺達がバックアップするから、ロボット屋の総元締めにならないかと誘いを掛けたら、二つ返事で乗って来た」

「あの男はあんた等の操り人形だったのか」

「人聞きの悪い事を言うもんじゃない。我々は本当にあの男の夢を叶えてやろうとしたんだ。ついでに言っておけば、私達はロボット業界とも深い関りがある。

 ここで恩を売っておけば後々商売をやり易いと思ったのでね。ところがあの男は我々の警告を無視して、あんたに拳銃を向けた。

 馬鹿な奴だ。エムに拳銃は無力だとあれほど言っておいたのに。まあ自業自得じごうじとくだが、そこで俺達はエムつまりお前を取り逃がしてしまった。この責任は重いから死んで貰った」

「こ、殺したのか!」

「症状が悪化して死亡という事だ。つまり殺したのはお前だという事になっている」

「ひ、卑怯ひきょうな!」

 金雄は激高げっこうして叫んだ。しかし相変わらず浜岡は平然としている。


「ははははは、心配は要らない。お前の正当防衛は完璧だ。何しろ井沢は拳銃をお前に向けたんだからね。万に一つも警察に追われる事の無いように、手配しておいたから安心したまえ」

「俺が警察に捕まったら、あんた等も困るんじゃないのか?」

 金雄は少し探りを入れてみた。


「ふふふふ、察しが良いね、その通りだ。我々はまだ警察の全てを掌握しょうあく出来ている訳じゃない。彼等の中には天空会館に反発する連中も居てね、ちょっと厄介やっかいなんだよ。

 しかし井沢は少しは役に立った。奴の側にあんたの髪の毛が落ちていたんでね。DNA鑑定の結果、間違い無くそれはエムのものだと分ったんだ。どれだけ嬉しかったかあんたに分るか?」

「分らんね」

 金雄は不快そうに一言言った。


「そりゃそうさ、お前は捕まえられる方なんだからな。しかし俺達は祝杯をあげた。その晩はたらふく飲んだよ。井沢の報告からお前が小笠原美穂という女性と関りがあると分っていたので、それからずっと監視していた。

 かなり遠い所から双眼鏡なんかを使ってね。それでもあんたと彼女の関係がどの程度なのか良く分らなかった。二人が深い関係だと確信が持てたのは、コージローというレストランで起きた人質事件の後だ。

 二人一緒に逃げ出したよね。体はともかく、心は既に一つにつながっていると確信した。しかしまだまだ不安定だと思って三ヶ月待った。もはや二人は完全に一心同体になったと思えたから、こうしてお前を捕まえたという訳だ」

「俺が捕まった時、あの街に行く事が良く分ったな」

 金雄は開き直って聞いてみた。


「お前の行動パターンを徹底的に調べて、次は必ずあの街だと確信して網を張っていたのさ。予想は見事に的中した。もう分っていると思うが、あの場所に居たのは全て俺達の仲間だったのさ」

「しかし何故俺を殺さない! 俺が憎くは無いのか?」

「はははは、何か誤解しているみたいだね。私達は憎しみの為に行動している訳ではない。大きな理想の為に殺人さえも容認して行動しているのだよ」

「ふん、こんな卑劣ひれつな事をして何が理想だ! 俺に危害を加えるのなら分る。しかし美穂には何の罪も無い。そういう女性を人質にとっての理想なんて、そんなものある筈が無い!」

「はははは、高い理想に犠牲は付き物なのですよ。エム、お前にもそのうち分かる時が来る。ところで船に乗った事は有るかね?」

「一度も無い。それがどうした?」

 金雄はちょっと戸惑いながら答えた。浜岡の意図が分からなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ