表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
259/260

史上最強の男(25)

「ああ、ここまで世話になったんだし、何のお礼もしてなかったから心苦しかった。それで気が済むんだったら……」

「ちょっとだけ待って、シャワーを浴びて来る」

「一緒に入ろうか?」

「うんっ!」

 シャワールームの中で夢限は抑えていた情を一気に爆発させた。


『罠かも知れないぞ!』

 一瞬躊躇いはあったが、彼女に対する感謝の気持ちが勝った。

『罠でも良い!』

 全裸で抱き合いながら何度もキスをし、シャワーを浴びて上がる時には互いの体をタオルで拭き合った。それから彼女のベットの中で激しく情を交わした。

随分大きな声を出したが、それに匹敵する位壁を破ろうとする音も大きく、余り苦にもならなかった。やがて情交も終わりベットの中で二人は最後の会話をし始めた。疑似親子が疑似恋人に変ったようである。


「ふふふふ、駄目ねえ。本当は貴方を殺して私も舌を噛み切って死ぬ積りだったのよ。でもシャワールームでキスをしている間に、もうとろけちゃった。素晴しかったわ。一生の宝物よ。一生と言ってもあとどの位持つのか分からないけどね」

「本当は俺もあんたを抱きたかった。でもちょっと、いや、なにしろ目茶苦茶怖いお姉さんだからね。今日は殺されても良い覚悟が出来たのでね。二度と会えないと思ったら何か吹っ切れたと言うか……」

 二人はその後も暫く抱き合いキスを何度もかわし、やがてベットを離れて身支度を整えた。情を交わした形跡など微塵みじんも無かった様にお掃除ロボットに掃除をさせ、自分達もそれを手伝ったりした。


 やがて、

「ギュオオオーン! ギュオオオーン! ギュオオオーン! ……」

 音に明らかな変化があり、壁が突き破られた事が分かった。それから少しして、どやどやと大勢の人間が、恐らくは兵士達が踏み込んで来たらしい足音が聞こえて来た。


「コン、コン!」

 ドアがノックされ、

「桑山です。お迎えに参りました」

 大勢の兵士を後ろに従え、彼の隣には髭を貯えた中年の男、キース大佐が立っていた。夢限と美千代は素直に彼等に従った。


 二人と桑山、キース大佐らを乗せたヘリコプターは、連合軍の臨時基地に向かって飛び立った。そこは『美千代シェルター』連合軍がそう呼んでいる、二人の潜んでいた地下の部屋の攻略の為にのみ作られた、臨時の基地である。


「全然分からなかったわ。どうやってあそこまで近付いていたのかしら?」

 美千代は桑山に話し掛けた。

「ナンシー山口さん達の協力があって、ああそれから佐伯ユミさん、春川陽子さん達の協力もあったんですよ」

「ユミさんや陽子さんは生きていたんですね!」

 夢限は大きな声で叫んだ。


「はい、危機一髪で、二人とも大怪我はしましたが何とか命は助かりました。もう歩けるほどに回復しましたよ。彼女達の協力で高度な機能を持つ盗聴器が使われている事が分かって、二ヶ月位それらを徹底して潰して行ったんです。一言も喋らない様にして、足音もしない様に特殊なスニーカーを履いてね」

「成る程、それで全然音沙汰が無かった訳だ」

「でも、あの壁が良く破れたわね」

「はい、超高圧水を使って……」

「超高圧水を使っても破れない筈よ!」

 美千代はムカついて叫んだ。並みのマシンで破壊されたのでは、浜岡が侮辱されている様に感じたのだ。


「ええ、その通りです。そこで最先鋭の技術なんですが、通常使われている研磨剤の代わりに超微粉末のダイヤモンドを混入したものを使いました。しかも世界最高速、マッハ3を超える超々高圧水の装置を使ったんですよ。

 それでも一時間に人が通れる位の大きさで掘り進むのに一センチ程度しか削れません。そこで途中からですが二十四時間ぶっ続けで掘り進む事にしたんです」

「なーるほど、最初のうち夜しか音が聞こえなかったのにはそんな訳があったんだ」

「へえーっ、良く聞こえましたね。寝ている間なら大丈夫気付かれないと思って、初めは夜だけやっていたんですがね」

「まあ、外に抜け出せないと分かって落ち込んで、眠れない夜もありましたから」

「それにしても鍵を紛失するとはね。どういう状況だったんですか?」

「鍵は三つ揃わないと駄目なんですよ」

「三つ?」

「はい。一つは普通の鍵ですが、もう一つは美千代さんの声、最後の一つは時間です」

「時間?」

「はい。一年に一度しか開かないんですよ」

「はははは、まるで七夕の伝説みたいですね」

「まあ、ロマンチックな言い方ね。あの時は切羽詰っていて全然そんな事に気が付かなかったけど、今から思えばそんな風な意味合いもあるわね」

「ああ、確かに言われて見ればそうですね。浜岡と言う人は案外ロマンチストだったのかも知れませんね」

「案外だけ余計だわ。……ああ、最後に一つ聞いておきたいわ。鍵は何処に捨てたの? ゴミ捨ての所?」

「捨ててません」

「ええっ? そんな事だと思って、私随分探したけど、どうしても見付からなかったわ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ