史上最強の男(22)
「それを早く言ってくれよ。さて、ここに立ってベルトを締めて、……、ふむ完了!」
「私も完了! 本番の時はベルトを締める前に、ドアを閉めますからね、お忘れなく」
「ああ、了解!」
そのあと一旦防護ルームから出て、二人は暫くモニターの前に座って待っていたが、なかなかカウントダウンは始まらなかった。
「しょうがないわね、一旦これを脱いで、始まりそうになってからまた着て……」
美千代がそこまで言った時、突然カウントダウンが始まった。
「爆破五分前、……四分前、……三分前、……二分前」
爆破二分前で二人は再び防護ルームに入った。
「一分前、五十九、八、七、……」
一分前でドアを閉めベルトを向き合った状態で締めた。ドアを閉めると、カウントダウンの音声は聞こえて来ない。全く静かになった。
「美千代さん、俺の声が聞こえるか?」
「ううう、き、聞こえるわよ。大丈夫よね?」
「まだそんな事を言っている。浜岡を信じろよ」
「うん」
その直後だった。
「ギューーーンンンン!」
音は無かったが、振動はかなり大きく、激しく揺れた。しかしあっと言う間に収まり、元の静寂に戻った。
「ガチャリッ!」
ベルトを外して、恐る恐るドアを開けてみたが、一部のイス等は転がっていたけれど、破損は殆ど無かった。ちゃんと持ち堪えていたのである。
「やったあ!」
不思議な事だったがこの時二人は抱き合って無事を喜びあった。勿論、直ぐ離れたが。二人は再びモニターの前に座ると、音質の更に悪くなった桑山達の会話に耳を澄ませた。雑音は多かったが、集中して聞けば、声はちゃんと聞き取れた。
「駄目ですね、岩の破損は数センチ程度です。思った通り、削岩機さえ通用しない最高レベルの岩です。これじゃあ埒が明きません。一体どうやってこの巨大で頑強な岩をここに設置したんでしょうね」
「ううむ、私にも見当が付きませんな。自然な状態の恐ろしく強固な岩盤を見たことはあるが、それをこれだけ大きく切り出す事は不可能だと思うのですがねえ……」
「はあ、仕方がありません。キース大佐、本部に戻って作戦を練り直しましょう」
「それが賢明な様だな。それじゃあ皆、瓦礫の撤去が終了したら、本日の作戦は終了だ。以上!」
「イエッサーッ!」
その日の昼頃までには、一部の見張りの者だけを残して連合軍は撤退した。
「ハーイ、召し上がれ!」
その日の昼食は、何とラーメンだった。インスタントではない。本格的なチャーシュー麺である。しかも味噌味だった。麺は太麺。
「いや、驚いたね。ラーメンだ。これって札幌ラーメン?」
「に、近い奴よ。全部冷凍の素材なんだけど、上手く行ったわ。我が浜岡ランドに不可能は無いわ!」
「ふう、美味しい! しかしご機嫌だね」
「そりゃそうよ。やっぱり浜岡は天才だわ。連合軍が尻尾を巻いて逃げて行ったんですからね!」
「ご機嫌の所悪いんだけど、また来るんじゃないのか?」
「ふふふ、何度来ても同じよ。悔しかったら、メガトン級の核爆弾でも持って来いっ、てね」
美千代のご機嫌はそのあと何日も続いた。音質の悪いモニターを毎日聞いていたが、連合軍は一向にやって来る気配が無かったのである。夢限とは、休戦状態がずっと続いていた。
「この間の爆破の衝撃に良くロボット達は耐えられたね」
爆破から何日か経った後の夕食時、思い出した様に夢限は美千代に聞いた。
「うん、丈夫なだけが取柄ですからね。それに大抵のデスクやイスやその他の機械類は床に固定されていて動かない様にしてあるし、ロボット達は作業中は誤操作の無い様に、足や腰が床とかデスクとかに固定してあるから、殆どは弾き飛ばされる事も無かったのよ。
ただたまたま歩いていた数体は壊れちゃった。百数十体の内の、数体だから大した事は無いけど、作業が少し遅れるようになったわね」
「それで大丈夫なのか?」
「勿論。優先順位の高いものから作業しているから、どうと言うことは無いわ。ただお掃除ロボットの調子がイマイチなのが気に掛るわね。掃除が雑になったのよ」
「それなら大したことは無いな。少しなら俺もやるから」
「そうね、時々は手伝って貰う事にしようかしら。ああ、そうそう、貴方にプレゼントがあるわよ。まあ大したものじゃないけど、要するにズボンが出来たのよ。後で穿いてみて」
食事が終るとちょっと変った柄のズボンを渡された。美千代がロボットの背広とかズボンとかを拝借して、先ず作ったのはズボンだった。
道着のズボンはもうかなり汚れている。見るに見かねての事だったが、ロボットの下半身はかなり腿の部分が細く、太い夢限の腿では入らないのだ。
悪く言えば継ぎはぎした様なズボンだったが、
「あああ、有難う!」
夢限は感激して、声を詰まらせた。
「裁断が難しくて、あんまり上手く行かなかったけど、暫くそれで我慢して。それと道着の方は洗濯しておくわね。あれ? 銃は?」
何時も腰に提げていた特殊銃が無い事に、美千代はその時初めて気が付いた。