史上最強の男(21)
「やったぞ! 先ず瓦礫を片付けろ!」
兵士達の声が響く。
「しかし何も無いですね。キース大佐はどう思います?」
桑山は渋い顔で言った。浜岡の性格を知っているだけに一筋縄では行かないと感じている。
「まあ、瓦礫を綺麗に片付ければ、何か出て来るでしょう。地下への入り口とかね」
「だと良いんですが……」
暫くしてから、
「地下の入り口を見つけました! でも巨大な岩石の様なもので塞がっています!」
兵士の一人の報告は美千代を怯えさせるのに十分だった。
『死ぬ覚悟が出来ていると思うのに、どうしてこんなこと位で怯えるのだろう?』
夢限にはさっぱり美千代の心情が分からなかった。
「見付かっても大丈夫なんだろう?」
夢限は聞いてみた。
「あははは、も、勿論よ。な、何の心配も無いわ」
「何だか怯えている様に見えるがな」
「万一のことを考えているのよ。可能性がゼロじゃないわ」
「メガトン級の核爆弾でも持って来ない限り大丈夫なんだろう?」
「そ、そうよ。だ、大丈夫よね?」
「俺に聞いてどうする?」
「わ、私はね、裁判が嫌いなんだよ。親に無理に酒を飲まされて、それが嫌で家出した後、腹が減って食い物を万引きしたのが見つかって、ポリ公に引き渡されてね。
結局、簡易裁判になったんだけど、誰一人として私の言葉を信じてくれなかった時の辛さが、蘇って来るんだよ。妊娠を知ってやけになって家出した時もそうだった。似た様な事が他にも何度もあったんだ」
「うーむ、つまりトラウマみたいなものか?」
「ああ、そうだよ。その可能性がちょっとでもあると落ち着かないのさ。それに音質が悪くなって来たのが気になるんだよ。
マイクは色んな所に仕掛けてある。でも音質が悪くなって来たという事はかなり破損したという事さ。もし外の様子が全く分からなくなったらと思うと、ぞっとするんだよ」
そんな話をして美千代の右頬が見えた時、
「えっ!」
夢限は驚きの声をあげた。
「どうしたの?」
「傷が殆ど治っている! 普通あの位の傷だったら最低でも一ヶ月は掛るだろう?」
「ああ、この傷ね。特異体質と言うのかな、傷の治りが異常に速いんだよ。それに加えて浜岡が手に入れてくれた最高級の傷薬を塗っているからね。一週間もあれば完全に消えてしまうのさ」
「へえーっ! 驚いたな。じゃあ俺の傷は?」
「あんたの骨折も普通なら完治に三ヶ月は掛かるでしょうけど、まあ、長くて一ヶ月ね。早ければ三週間位で完治するわよ。ギブスは一週間で十分だし」
「そんなに速く治るんだ」
「浜岡の力が偉大なのよ。あっ、しーっ、何か話しているわよ」
美千代は急に声を潜めてじっと聞き耳を立てている。
「予備のダイナマイトが二十トンばかりありますがやってみましょうか?」
「ふうん、もし吹き飛んだら中の人間達は大丈夫かね、桑山さん」
「岩の状態から見てそう容易くは無さそうですよ。何と言っても浜岡博士の作ったものですからね。おいそれと破れる様な代物じゃないと思います」
「良し分かった。それじゃあ二十トン全部のダイナマイトを仕掛けるぞ。安全の為に設置したら五百メートル以上離れることにしよう。それじゃあ作業開始! 桑山さんには仕掛ける場所の指示をお願いしたい」
「分かりました。それでは早速」
いよいよ爆破の準備が始まった様である。盛んに桑山の指示が飛んでいた。
「どうやら、やるようだな。今までにも増して音も振動も大きいようですよ。どうします?」
「ふん、こういう時の為に、耳栓やヘルメット、ゴーグルなんかも用意してあるのさ。こっちへ来て」
美千代は部屋を出て右へ進んだ。ゴミの投入口のある方である。そこを過ぎて粗末なドアのある所に夢限を連れて行った。
「ここが物置小屋になっているんだよ。さっき言った色々な道具がここに入っているから、浜岡用の奴だけど使っても良いよ。私は勿論、私専用の奴を使うから」
「分かった」
二人は完全武装をして部屋のモニターの前に戻って座った。二人の着たのは簡易宇宙服の様な感じのものだった。
外の音は完全に遮断して、マイクとスピーカーを使って話が出来る様にしてある。
「まるで宇宙服だな。ああ、でも音が良く聞こえる」
「聞こえているのはマイクを通しての音だからね。上手い具合に余り強い音だと、自動的にカットする機能が付いているから、鼓膜が破れたりする心配は無いよ。ちょっと不便だけど暫くこれで辛抱して」
「ああ。だけど天井は大丈夫かな? 相当の振動があると思うけど」
「それも大丈夫。むしろ私達が跳ね飛ばされる事が心配だわ。でも大丈夫よ。カウントダウンが始まったらそこに入ってベルトを締めればオーケーよ」
美千代の指差した方向にはカーテンがあるだけの様に見えた。
「カーテンに包まるのか?」
「はははは、そんな訳ないでしょう。これよ」
美千代がカーテンを開けると大きな冷蔵庫の様な物があった。
「ガチャリッ!」
扉を開くと中には手摺や腰を固定するベルトなどが備え付けてあった。
「防護ルームって呼んでいるんだけど、ベルトの締め方をちょっと練習してみましょうか」
「ああ、やってみよう」
二メートル四方位の中にベルトは三方に二つずつ、合計六人が入れるようになっている。
「どうして六人分なんだ?」
「前にもちょっと言ったけど、ここには生身の人間達も数人いたのよ。その人達の分も作ってあったのよ」
「成る程。でも宇宙服は二人分だぞ」
「断って置くけどこれは宇宙服ではありません。特殊防護服です。それでね、他の連中は、物置にあるヘルメットなんかを着用するから良いのよ」
「そうか、他の連中はどうでもいいのか」
「嫌な言い方をするわね。ここに入りさえすれば何も着ていなくても助かるから良いのよ。これは念の為に身に着けているだけなんだから」