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史上最強の男(20)

「そんな感じじゃあ無かった様な気がするけど……、でもね俺はあんたを殺さない。その気は無い。しかし死にたくも無いなあ」

「まあ、今夜の所は、ここまでにして置いてやるよ。二、三日したらまた命を貰いに行くかも知れないから用心した方が良いわよ。嫌だったらあたしを殺せばいい! じゃあ今度こそ本当にお休み!」

「ああ、お休み!」

 なんとも奇妙な会話だった。夢限は包丁を突き刺されて穴の開いた布団と毛布を被って横になった。


 ここでも浜岡らしく空調だけはしっかりしているので、それでも別に寒くは無い。

『そうか、自動ドアはスイッチを切って手動で開けられるのか。単純な事だけど気が付かなかったな。しかしこんな生活があと何日続くんだ? いっその事バッサリやってしまうか?

 いやいや、俺ともあろう者がそんな事でどうする! 本当に助からないかどうかまだ決まった訳じゃない。あの連合軍のリーダーは付近の地下に潜んでいると見破っている。とすれば……』

 あれこれ考えているうちに今度こそ本当に眠った。


「ドオーーーーンッ!」

 物凄い音と振動で目が覚めた。

「キャーーーッ!」

 次いで女の悲鳴。


「あっ、美千代さん?」

 ギブスをしたままの不自由な足で夢限は慌ててキッチンへ向かった。

「熱い! 熱い! 何なの今の音。振動が凄くて鍋がひっくり返ったわよ! どうしてくれるのよ!」

 倒れながらも、美千代は大声でまくし立てた。


「ああ、火傷か。水道水で流せば良い。さあ、起きて」

 夢限は美千代に手を貸して起し、水道の水を出して熱湯の掛った右腕に当てた。

「わ、悪いわね。もう少しこうしているから、零れた味噌汁を片付けてくれないかしら。大した量じゃないからそこのティッシュを使えば良いわ」

「ああ、分かった。それにしても何の音だったんだ?」

「そうねえ、向こうの部屋でモニターのスイッチを入れてみて。昨日見たからやり方は分かるわよね」

「うん、やってみる」

 汚れ物を片付けてからモニターのスイッチを入れると英語の会話が聞こえて来た。更に翻訳のスイッチを入れると聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「驚いたな。十トンもの火薬でも全部は壊れずに残っているぞ」

「そうですね、キース大佐。もう一度やってみましょう。今度は五トン位で何とかなると思います」

「少しガラクタを取り除いてから、三十分後に設置開始。一時間後に爆破ということでどうだろう、桑山さん」

「それで良いでしょう」

 昨日の音声に比べると今日のは音質がかなり悪い。


「外壁位でてこずってどうするんだろうね。一時間後にまた爆破かい。じゃあ朝食は早くしないとね」

 何時の間にか側に来ていた美千代がまたキッチンに戻って行った。それから直ぐにワゴンを押してやって来て、ご飯と味噌汁とお新香とハムの盛合せを持って来た。


「ゆっくりしていられないから、味噌汁はインスタントだし、おかずはハム位しかないけど、我慢しておくれ。それじゃいただきます」

「いただきます!」

 朝食は忙しいものになったが、美千代の肌の露出が多くて少し困った。下着姿にエプロンなのである。もう四十近いのに、美容にたっぷり金を掛けているせいか、火傷をした右腕の一部が赤くなっている点を除けば、プロポーションは程よくまとまっているし、肌は白く素晴しく綺麗だった。


 顔立ちも大変な美形なのだ。今までは殺し合いの状態だったので気にもしていなかったが、改めて見れば、ドキリとするほど魅力的なのである。

『レイプをしたくなる男達の気持ちも少しは分かるな』

 そう感じた。


「ああ、あの、味噌汁が掛ってね、気持ちが悪いから脱いで来たんだよ。下着姿のままじゃ失礼だから、エプロンを付けたんだけど、かえって刺激的過ぎたかしらね」

 夢限は心の中を見透かされたようで、

「はははは、何とかならないですか?」

 少し笑って誤魔化した。


「そうねえ、裁縫さいほう道具もあるし、おいおい服を縫うから、それまでの辛抱だわ」

「裁縫も出来るんだ」

「当然よ、貴方のも縫ってあげるからね」

「ああ、出来ればそうして貰いたい」

 考えようによっては不思議な会話である。女は男の命を狙っている。男はそれを知っているのに、食事の支度をして貰い、今度は服も縫って貰うことになった。なんとも奇妙な生活が始まったのである。


「ドオーーーンッ!」

 さっきよりは小振りの爆発だった。今回は爆発時刻が正確に分かっていたので大して驚きもしなかった。二人でモニターの前に座り今度は最初から翻訳のスイッチを入れて会話に耳を傾けた。

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