史上最強の男(18)
「核爆発の続きをやる積りなんだろう? そのスイッチが、きっとここにもあるんだろう?」
「ま、まあ、その通りだ。一緒に世界の創造主になろうよ!」
「多分そんな事だろうと思ったよ。諦めろ! 鍵は捨てた!」
「な、何だって。ここから出る事も出来なくなるわよ!」
「俺はずっと考えていた。さっきのテレビのニュースを見て決心が付いた」
「リ、リカが助かったからか!」
「そうじゃあない。予想はしていたが、核爆発に見舞われた都市は想像以上の惨状だった。もうこれ以上は何があっても、核爆発は起こさせない! そう決心した。
だが、鍵がある限り危険性は無くならない。しかもあんたは頭が良い。俺を騙す為の自動ドアのカラクリを咄嗟に思い付ける位だからね。
今日は防げたが、これからもずっと防ぎ続ける事は不可能だと判断した。だから捨てた。場所は教えない。分かっても取れそうも無い所だ」
「くうううっ、私は十五の時に両親を殺した。その私を救ってくれたのが浜岡だった」
泣き崩れそうになりながら東郷美千代は自分の生い立ちを語り始めた。
『両親を殺した? そうか、常軌を逸した人間と思っていたが、そんな過去があったのか!』
夢限は泣きながらも包丁を放さない美千代を、注意深く見つめながら耳を傾けた。
「何時からそうだったのか分からないけど、物心付いた時には私は、時々だけど父親に酷く折檻されていた。母親は冷酷にそれを眺めていただけだった。でもその折檻と思っていた事が、本当はレイプだったのよ」
「レ、レイプ! 実の親子なのか?」
「皆そう聞くよ。後になって、浜岡にあいつ等のDNA検査をして貰った。私のもね。間違いなく本当の両親だった。あんなにがっかりしたことは無かったよ」
「信じられない様な話だが、嘘とも思えないな。それで?」
「とうとう私は妊娠した。そして中絶。耐えられなくなって私は家出した。あいつらは追って来た。私は連れ戻された。そしてまたレイプ。また妊娠、また中絶……」
「誰か他の大人の人達に訳を話して両親と離れて暮らせなかったのか?」
夢限は大いに同情して聞いてみた。
「誰も信じなかった。あいつらはアカデミー賞ものの演技力で、第三者の前では自分達の不良の娘を何とか更生させようという、健気な夫婦を見事に演じ切った。皆それに騙される。
でも私が十五位になると、さすがに力も強くなって野郎一人じゃ押さえ切れなくなった。そしたら、女が協力して二人がかりで私をレイプした。
それが私の耐えられる限界だった。あいつ等をどうしたら殺せるか、私は朝から晩までそればかり考えていた。野郎はぐうたらな男で、パチンコが好きだった。女は多分風俗で働いていた。
実際に何をしていたのかまでは分からない。分かりたくも無かった。私は家の中に閉じ込めらていることが多かった。ボロい借家だった。
私にとって幸いだったのは、あいつ等は私が逃げ出すことだけを恐れていたと言う事だった。密かに殺すチャンスを窺っていたなんて思いもよらないことだったろう。
たまに女と私と二人きりになることがある。私はそのチャンスを辛抱強く待っていた。とうとうその日がやって来た。なんの躊躇いも無く女の首に電気のコードを巻き死に物狂いで絞めて殺した。
問題なのは男の方だ。これも幸いな事に女癖も悪いが、酒癖も悪い。私は男に酒のお酌をさせられることが多かった。女の死体を押入れに隠して、男の好きなウイスキーを支度して待っていた。
男は勿論、女の事を聞いたが、
『直ぐ帰って来るって言ってた。先に呑んでいてって』
私はそう答えた。男は疑いもせずに、ウイスキーをがんがん飲んだ。
『ちょっとトイレに行って来る』
そう嘘を付いて男の後ろに回った私は、隠し持っていた果物ナイフで男の首を切った。あんまり上手く行かなくて格闘になった。何十回も男にナイフを突き刺したと思う。気が付いたら男は動かなくなっていた。
それから計画通りウイスキーを沢山飲んだ。両親を殺した事を酒のせいにしようと思ったんだ。それまでも無理に酒を飲まされた事が何度もあったから平気で幾らでも飲めた」
「ふうっ、俄かには信じられない様な話だが、ここで嘘を付く必要は無いな。……分かった信じるよ。それからどうなった?」
余りの事に夢限は溜息を吐くと、一瞬躊躇ってからまた聞いた。その後の事をどうしても知りたかった。