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史上最強の男(14)

「ちょっと待っててね、今お昼作るから。ああ、何か嫌いなものとかある?」

「いや、特に無い」

「ああ、そう。生鮮食品は無いけど我慢してね」

 激しい形相で怒鳴ったかと思えば、さらりとそう言い残して彼女は別室に消えた。


 どうやら台所と風呂とトイレ等は彼女の比較的広い部屋の一角に別になっているらしい。出入り口は何故なぜか自動ドアになっている。


『変な所に拘りがあるんだな。普通の家庭で自動ドアなんて先ず無いぞ。かなりの高級マンションでも室内じゃあ普通は無いな。

 それにしても参ったな。一年間か。懲役一年みたいなものだよな。まあ、ある程度覚悟はしていたけど、全く出られないんじゃ策の施しようが無い』

 夢限は彼女を裏切ることも少しは考えていた。


『リカさえ助かればこっちのものだ。美千代に卑怯者と罵られても、俺が耐えれば良いのだからな。しかしそう簡単には行くまいと思っていたが、浜岡の女だけの事はある。いや、ここも浜岡が作ったのだから、やっぱり浜岡との戦いがまだ続いている様なものだな』

 あれこれと考えているうちに自動ドアが開いて美千代がワゴンを押して入って来た。途端に部屋中に良い香りが充満した。ご飯と味噌汁とお新香と焼き魚。その他に玉子焼きもあった。


「今日は純和食よ。私、余り取柄は無いけど料理だけは得意なのよ。三食きちんと作ってあげるし、後片付けも任せておいて。

 掃除はお掃除ロボットがしてくれるから手間は無いわ。貴方は傷の治療と、毎日のトレーニングに励めばいいのよ。ただ戦う相手がいないのが玉に瑕ね」

「な、何だか悪いな」

「うふふふ、曲がりなりにも貴方は浜岡の息子なのよ。貴方はいわば私の義理の息子でもある。だから私にはちょっぴりだけど扶養義務もあるのよ。でも恋人でも良いわよ」

「いや、その、冷めない内に早く食べた方が良いんじゃないか?」

「ふうん、ちょっと誤魔化したみたいだけど、まあ急ぐ事は無いわね。それじゃ、テーブルの方に来て座って。一緒に仲良く食べましょうよ」

 テーブルは一般的な代物で彼女の華やかな雰囲気からすれば不似合いな感じのするものだったが、これも間に合わなかったのだろう。


 相変わらず足を引き摺って夢限は歩いて行って、これもまた彼女の部屋には不似合いな事務用の椅子に座った。

「じゃあ、いただきます!」

「新鮮な卵とかは無いのでこの玉子焼きは、冷凍食品を解凍した物なんだけど、まあその割にはいけるわね」

「いや、とにかく美味しいですね」

「そうそう、ついでだから、桑山との事をお話しましょうか?」

「ああ、はい、伺いたいですね。宿敵ってどういうことなのかと思っているんだけど……」

「もう二十年位前になるかしらね。浜岡と桑山はライバル会社にいたのよ。最新鋭のロボットを作る会社よ」

「それは想像していました。多分そんな事だろうとね」

「二人共、元は同じ大学の大学院生だった。以前は仲が良かったんだけど、ライバル会社に移ってからはそうでもなくなったのよ。

 私はその頃浜岡と知り合って間もなかったんだけど、彼に是非にと頼まれた事があった。桑山の研究資料を盗み出す事よ」

「えっ、それって犯罪では?」

「その通りよ。悪いとは思ったけど浜岡の為だったら私は何でもしようと思っていたのよ。彼の理想の為にだったら、人を殺しても良いと思っていた。でも彼はみだりに人殺しなんかさせないわよ。

 浜岡はね桑山が私に気がある事を見抜いていたのよ。そこで彼の願望、私を抱きたいという願望を叶えてあげる代わりに、研究資料を頂くのは罪ではないと言ってくれたわ。私はその通りにした」

「そ、それで?」

「何度かは上手くいったんだけど、ある日ばれちゃったのよ。私がこっそり彼の研究資料をカメラに収めている所を、現行犯で見付かっちゃった。

 彼はかっとなって私の首を絞めて殺そうとしたのよ。まあ、気持ちは分かるけど。自分を愛してくれていると思っていたのに、ただ単に色仕掛けで浜岡の手先になっていたって分かって、逆上したのね。

 ところが今度は彼がガードマンに取り押さえられて、警察に捕まったのよ。私も罪人だけど、彼の方が遥かに罪が重い。殺人未遂の現行犯だものね」

「何だか、気の毒な気もする。俺にも桑山という人の気持ちは分かるな」

「裁判でもそれは認められて、執行猶予付きの有罪判決になった」

「で、美千代さんは?」

「都合の良いことに、私はまだその頃は未成年だったのよ。十七歳と九ヶ月。ライバル会社の人に頼まれての犯行で、しかも脅されて仕方なくやった事になっていたのよ。お陰で大したお咎めは無かったし、浜岡の名前は全く出なかったわ」

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