史上最強の男(13)
「い、命だけは取らないでよ。そ、それじゃあ言うわよ。良く聞いてね。サンドシティの北東のはずれから更に十五キロくらい北東に行くと結構広い平らな感じの砂漠というか、荒地とでも言った方がピッタリの一帯があるの。
そこにこの男の言う金網に囲まれた南北に細長い建物があるから、そこの一番南端に入り口があって、入って直ぐの所に女が倒れているわ。仰向けに寝せてある。
こいつの道着と私の上着とを掛けてあるから寒くは無いと思うけど、あと何時間持つか分からない状態だから、助ける気があるんだったら早い方が良いわよ。
ただ装甲車とか戦車なんかじゃ駄目だよ。金網と金網の間には沢山の地雷が敷設してあるからね。必ず空から来る様にしておくれ」
「了解した。ところで君達は何処にいるんだ?」
「倒れている女の近くにいるから直ぐ分かるさ。電源を切って!」
「プチッ!」
用が済むと美千代は直ぐ連絡を絶った。
「どうしてそんなに慌てる?」
「長く喋っていると、この場所がばれる恐れがある。ここは並みの核爆弾じゃ壊れないけどメガトン級の核爆弾の直撃だと、さすがに危ないからね。ひょっとするとやるかも知れないでしょう? それより早く帯を解いてよ」
「分かった。それ、解けたぞ! しかし本当に来てくれるかなあ」
「やるだけの事はやったんだし、リカとか言う娘の近くにいるニュアンスで話をしたから、私を目当てにやって来ると思うよ」
「きっとそうだろうな。ふうっ! 安心したら疲れも出てきたが腹も減ってきたな。ああ、結構洒落た時計があるな。午後二時か。さて、これからどうする?」
「あんたは私を助けてくれるんだよね」
「まあ一応ね」
「でもその足じゃあ、助けられそうも無いね。暫くはここにいてメディカルロボットに治療して貰うと良い。私も治療して貰うけどね」
「メディカルロボット?」
「ここには一応何でもあるんだよ。私が長く滞在する予定なんだからね」
「ここを抜け出してどこか街の病院にでも行けないのか? ロボットの治療じゃ心許無い」
「そりゃあ無理だね」
「無理? 金はあるんだろう? 追われている身だから駄目だという事か? 良い方法じゃないかも知れないが、金を積めば何とかなるんじゃないのか?」
「そうじゃない。出られないんだよ」
「出られない?」
「出口は無いんだよ」
「な、何だって! そんな馬鹿な!」
「はははは、あっはははは!」
美千代は暫く笑い続けた。
「な、何が可笑しい!」
「ふふふふ、ここを抜け出す為にはね、三つの鍵が必要なんだよ」
「三つの鍵?」
「一つはあんたの持っているその鍵。二つ目は私の声。そして三つ目は時間」
「時間?」
「ああ、一年に一度だけしか開かないんだよ。三百六十五日後の丸一日間しか開かないのさ。だから私を殺してしまったら、一生出られない。とにかくあと一年待たない限りは開かないんだよ」
「ううむ、くそっ! 今日中に開けられるんじゃないのか?」
「やってみるかい? ひょっとすれば開くかも知れないよ。鍵をここに差し込んでみて。大丈夫取らないわよ」
夢限は言われる通りにした。
「電源を入れて! 防護解除!」
「アト、ヤクイチネン、オマチクダサイ」
「ほらね」
音声の反応に美千代は大袈裟にジェスチャーをして見せた。夢限は一度は天を仰ぎ、
「ハーーーッ!」
深い溜息を吐いて鍵を抜き、少し離れた所にあるベットに俯いて腰を掛けた。美千代はその様子をにやにや笑いながら見ている。
「私の顔に傷を付けた罪は償って貰うよ。でも食料なら大丈夫。十年分位のストックはあるわ。それと言ってなかったけど、ここは見付からない様に階段も完全に塞がっているのよ。探したって分かりゃしないわ。貴方の傷と私の傷とを一年掛けてゆっくり治せばいいのよ」
「フーーーッ、そうするしか無さそうだな」
夢限は結局美千代の思い通りに操られている様に感じた。
しかし、
「それから言って置くけど、もう二度と、『浜岡が死んだ』何て言わないでよ! あの人が死ぬ筈が無い! もう一度言ったら舌を噛み切って死んでやる。そしたら貴方は終わりよ。一生涯ここから出られないんですからね。良いわね!」
今まで一度も見せた事の無い様な物凄い形相で言った。彼女にとって浜岡は神の様な存在だったのだろう。夢限にとってはこれからの一年は気の遠くなる様な長い日にちに思われた。