史上最強の男(12)
「じゃあこれを着て、夢限」
「えっ? あ、ああ」
美千代に名前を言われて、夢限は少し戸惑ったが、素直に渡された背広を着た。美千代は別のロボットにも同じ様にして背広を手に入れ、それを今度は自分が着た。
「さて、ここまでは良しとして、どういうパターンで桑山と話をするかだわね」
「パターン? 普通に話せば良いんじゃないのか?」
「馬鹿ね、そんな事をしたら私と貴方がつるんでいる様に見えるでしょう? 私は一向に構わないんだけど、あんたが困るんじゃないの?」
「成る程。俺があんたを捕まえたんだったな」
「そう、本当は飛んで火に入る夏の虫なんだけど、あんたに取られて私には武器が無い。私に従順なロボットがいるけど、人間を攻撃しないロボットなのよね。檻に閉じ込められた美女と野獣の様なものよ」
「例えが違う様な気もするが、まあ良いだろう。それじゃあ俺があんたを帯で縛ったらどうかな? 縛られて嫌々ながら桑山とあんたが話をすると言うシチュエーションにすれば?」
「ああ、それは良いわね。それとここじゃロボットがいて不味いから向こうの個室に行きましょうか?」
「個室があるのか?」
「ええ、私用の部屋なんだけど、まだ家具とか運び込んでいないのよ。急な事だったので間に合わなかったの」
「急な事ねえ。するとあんたの部屋らしくは無いと言う事だよな」
「ええ、殺風景なものだわ。通信機器なんかがちょっとあるだけの牢獄みたいな所よ」
「そうか、じゃあ行こうか」
「うん」
殺し合いをした敵同士だったが、何故だかほんの少しだけ心の交流を感じた瞬間だった。
広い部屋を横切って一番奥に行くとまたドアがあった。しかし彼女の部屋と言うだけあって、そこはドアからにして豪華なものだった。彫刻を施した大きな一枚板のドアで取っ手が付いているし鍵穴もある。
「鍵は持っているでしょう? あの鍵と同じになっているのよ。それを使って下さいね。心理的に嫌かしら? もしそうだったら私に貸して、自分で開けるから」
「いや、俺が開ける。少し離れていてくれないか」
夢限は鍵を奪い取られる事を警戒した。
「分かったわ。うふふふふ、その用心深さは良いわよ、浜岡みたいで」
「うっ、……開いたぞ!」
夢限は『浜岡みたい』という言葉にムッとしたが、特に悪気は無いと判断して堪えた。
ドアを大きく開けて二人一緒に部屋に入った。
「ふふふふっ!」
ドアを大きく開けて入った事も、うっかり閉じ込められない為の用心だと気が付いて、
『やっぱり、正真正銘浜岡の息子だわね』
そう思って、また笑ったのである。
「意外に広いんだな!」
夢限は素直に感想を言った。
「まあホテルで言えばスイートルームくらいの広さはあるわね。でも家具が殆ど無いし、仕切りも殆ど無いただの広い部屋なのよ」
「そんな事はどうでも良い。悪いが縛らせて貰うぞ」
「はいどうぞ。でも私って親切でしょう。ここまで貴方に気を使うんだから」
「何故なのかは後で聞くことにする。縛り加減はこんなもので良いだろう。さてどうすれば良い。通信機器というのはこれだな」
部屋に入って右側の壁一面に様々な機械やディスプレイがあるから間違いは無い。
「私に任せて。手動でも出来るけど、ボイススイッチにもなっているのよ。声で殆どの操作が出来るの」
「ほう、じゃあやってくれ」
「うん。電源を入れて! 良し点いたわ。桑山雄二に繋いで! ちょっと待ってね、今呼び出しているから」
「はい、桑山ですが……」
「今日は、貴方の探し物が挨拶するわね」
「お、おまえは東郷美千代! い、生きていたのか。するとやっぱり核爆弾のスイッチはお前が入れていたのか!」
桑山はかなり激しい責める様な口調で言った。
「そうなんだけど、ドジッタのよ。こいつに捕まっちゃった」
言いながら夢限の方を見た。
「貴方はエム! てっきり死んだと思っていました。浜岡は?」
「浜岡は、彼は死にました。私の仲間も殆ど死んで、影山リカという女性が重傷を負っているんです。危険な状態なんですが脱出出来ないんです。
周囲を厳重な金網で囲まれた細長い建物の中にいるんですが、ヘリコプターで救助に来てくれませんか。詳しい場所はこの女に言って貰います」
「わ、分かった。美千代は縛られているようだが、貴方は大丈夫ですか?」
「怪我はしていますが大した事はありません。それよりリカは、そのリカさんは意識の無い状態がずっと続いています。
胸の辺りを銃の様な物で撃たれてかなり出血しています。出来るだけ早く救助を頼みます。それじゃ、場所を言ってくれ。万一嘘を教えたら命は無いぞ!」