恐怖の賭け(39)
「どんなメッセージだ?」
「なあに大した事は無い。前にも言ったかと思うが、私は世界中に核爆弾を仕掛けておいた。それらを順次爆発させるという事を発表するだけだ」
「止めろ! 頼む、止めてくれ!」
「もう遅いのだよ。君も私の要求は拒んだ。私は死んだ。私の意志を美千代が引き継ぐのさ」
「うむむむ、うううっ……」
夢限の恐れていた事が現実の事になった。どうにも出来ない無力感に声が詰まって泣きそうになった。
「しかし、君にそれを阻止するチャンスを与えよう。君はゲームが好きかね?」
「余り興味は無いな……」
「それは残念だ。だが、大勢の人の命の掛った最高のゲームを私の息子である君にプレゼントしよう」
「欲しくはない。どうしてそういう事になる? 殺す必要など何処にある?」
「人類は私が王になる事を拒んだ。その報いは当然ながら受けなければならない。分かるかね?」
「分からない! 俺にはあんたの考え方は理解出来ない!」
「分からないのなら仕方が無い。さあ、続きを話そう。君が赤いボタンを押すか、あと一時間するかすれば、長屋の爆破までの秒読みが始まる。それが小屋に伝えられて、彼女はその時に小屋を出て爆破スイッチのある場所まで歩いて行く。
もっとも秒読みが始まるまでは小屋からは出られない。ドアの鍵と連動していて、秒読み開始と同時に鍵が解除される仕組みになっているのだ。これは小屋の外からの侵入者を防ぐ為の仕掛けもになっている。
爆破スイッチのある場所は細長い、まあ廊下に屋根や壁をくっつけただけの真っ直ぐの長い建物だ。遠くからでも一目でそれと分かる。
それでも一応空調は完璧にしてあるから暑くも寒くも無い筈だ。そこの入り口に着くまでに徒歩で三十分位掛る。出入り口は一箇所しかないからそこから入るしかない。
中にずらりと二メートル間隔でスイッチが百個並んでいる。キーを差し込んで回してからスイッチを押すと世界中の核爆弾が一つずつ爆発する。
最後の百個目でその場所の地下にある核爆弾が炸裂する。従ってそれまでに彼女を何とかしなければ、もし君がそこにいれば、君も消滅する事になる。なかなか面白い趣向だろう?」
「狂っているとしか思えん! 止める事は出来ないのか!」
「無駄だ。君が見ているのは私が生前に作った超リアルなCGだ。感情は存在しない。たとえ君が情に訴えたとしても、私は何も感じないのだからね」
言葉どおり、画像の浜岡はその後も平然と言い続けたのだった。
「それより早く美千代を追いかけた方が良いぞ。彼女は格闘家でも何でも無いから、小屋に着く頃にはへとへとになっている筈だ。今ならまだ間に合うかも知れんよ。
そうそう大事な事を言い忘れた。私は小型の核爆弾を仕掛けたと言ったが、幾つかはメガトン級の核爆弾、水素爆弾もあるのだからね。
特にスイッチの後ろの方の奴は危険だ。一発で数百万人かそれ以上の死者が出る事になる。決断は早い方が良いよ。美千代を早く止められるかどうかで死者の数が大幅に異なる事になる。
まあ、別の見方をすればロシアンルーレットより何万倍も恐ろしい『恐怖の賭け』とでも言うのだろうね。賭けに勝てるかどうかは君次第だ。幸運を祈っているよ。それでは、グッドバイ!」
画面はそこで切れた。夢限は頭がくらくらした。余りに重い責任で、体が硬直して動かない感じだ。しかしリカの声で呪縛は消滅した。
「今のは何? ゲームの話? 浜岡と何を話していたの? 夢限さん! 彼は貴方を私の息子と言っていた。どういう事?」
リカはかなり前から聞いていたのだ。
「それはつまり、……とにかく時間が無い。……今からこの赤いボタンを押す。そうするとここが爆破するまで一時間前の秒読みが始まる。
それと同時に隠し扉が十秒間だけ開く。扉の向こうに行って出口にある小屋まで歩いて行く。二千メートルほどのきつい上り坂になるそうだ」
「ちょ、ちょっと待って! 人質の人達はどうなるの? お兄ちゃんを運んで行かないの? 翔さんはどうするの?」
「間、間に合わないんだよ。誰も助けられない様に浜岡が仕組んだんだ。い、急がないと……」
「翔さんやお兄ちゃんの事は諦める。でも生きている人達を見捨てるなんて、夢限さんてそんなに薄情な人だったの? だったら勝手に行けば良い。私もここで死ぬ!」
「頼む、分かってくれ! 全ては浜岡の罠だったんだ。人質になっている人達は極悪非道な人達だ。だからといって死んでも良いと言う訳じゃないけど、絶対に助けられない様に浜岡が仕組んだんだ。どうにもならないんだよ。それよりここを出て先に行った彼の愛人の東郷美千代を止めないと、何百万という人が、いいや、それ以上の人達が死んでしまうんだ!」
「さっきの話はゲームの事じゃないの?」
「浜岡はそんな事はしない。リカさんも知っている筈だ。彼は本当に大勢の人を殺す積りなんだ」
「でも、夢限さんは浜岡の息子なんでしょう? 親子して沢山の人を殺そうとしているんじゃないの!」
今のリカには正常な判断が出来なくなっているようだった。