恐怖の賭け(37)
「まあ、そんな事はどうでも良い。お前が光太郎や天空会館の連中と戦って、髪の毛やら何やらを残して行ってくれたお陰でDNA鑑定が出来て助かったよ。
だが不味い事があった。お前が私と恵美との子供であることが知れれば、私のレイプが発覚する事になる。それで私はお前と恵美を殺す事にしたのだよ」
「見事に最低な男だな!」
存分に罵った。
「しかし途中で事情が変った。恵美は既に死んでいたし、お前は何も知らない様だ。そこで私はお前が光太郎の息子らしいと匂わせる事にした。
だから大事に扱ったのさ。上手く利用してやろうとね。親子の情に訴えて天の川光太郎を骨抜きにしようと思った。そうすれば事実上天空会館は私のものになる。
だが、次々に裏切り者が出て来て予定はすっかり狂ってしまった。その上お前は予想以上に強く、しかも強運の持ち主だった。ここでこれを見ているという事が何よりの証拠だ。
私は結局世界の王にはなれなかった。そこで私は私が愛した唯一の女性、東郷美千代に全てを託す事にした。その前に人質の連中の事について一言言っておこう」
夢限にとって意外なことを浜岡は話し始めた。
恐らくは精巧なCGなのだろうが、画面の中の浜岡はまるで生きているかの様に喋り続けた。
「またもや言い訳がましく聞こえるだろうが、私はこの連中によって悪の道に誘い込まれた様なものだ。私が王になりたいと思ったのもこの連中の口を封じたい事もあったのだ」
浜岡は一呼吸置いてから次の言葉を述べた。
「先ず宗教家のイージー氏。犯罪者を湯水の様に使って、自分の野望を果していく方法はこの男に学んだ。この男は表向きは宗教指導者だが実際には単なる物欲の塊だ。
人前では彼はいつも一人でいるが、人目に付かない所では、大勢の女に囲まれて暮らしているのだよ。その上金庫には金の延べ棒を始めとして沢山の宝石を保管している。日頃禁欲を説く男が聞いて呆れる。
次にロレーヌ国王夫妻。二人とも淫乱だ。ムーンシティのピンクタウンはこの夫妻の強い圧力があって作らざるを得なかった。ちょくちょくそこで淫乱の限りを尽くしている。
この二人も表向きは清楚な感じなのだが、ムーンシティにいる時はまるで別人のように淫らになる。しかも行為が行き過ぎて死人を出す事さえあるのだ」
次第に人間狩りに近い話になった。
最後はミランダ婦人。夫人ではない。夫人というと誰かの妻になるが彼女はそういう言い方を好まなかった。今では旦那より遥かに有名だ。いろいろな分野での評論に定評があるが、彼女こそ人間狩を強く要望し、早く作れと再三に渡って催促して来た女だ。
私がこの連中を特に選んだのは、私にとってもっとも邪魔な存在であると同時に、世界への影響力の大きさにある。そして何よりも、こういう言い方も変だが、汚れ切っているからだ」
「あんたも同類なんじゃないのか!」
「少し違う。こいつ等は何れも、人間狩りを強く要望しているが、私には全く興味が無い。自慢じゃあないがピンクタウンで遊んだ事もただの一度も無い。
犯罪者を湯水の様に使いはしたが、意味も無く殺した事は一度も無い。確かに犯罪者といえども人権はある。それは理解している。従って私にも罪はある。
自分は死によってその報いを受ける事になるが、こいつ等をこのままにしておいてなるものかだ! 全員私の道連れにしてやることにしたのさ」
「道連れにする? 殺すという事か?」
「簡単に言えばそうだが、彼等を助ける方法は無いという事だ」
「鍵を開けて連れ出す事は出来ないのか?」
「ふふふふ、鍵は簡単に開く。これ見よがしに付いている大きな鍵はイミテーションだ。少し衝撃を与えると開く様に出来ている。しかしドアを開けた途端に長屋全部が吹き飛ぶ仕組みになっている」
「長屋?」
「ああ、人質達のいる部屋の事だ。爆風でここも消滅する。どうかね、短気を起こさずに聞いて良かっただろう?」
「確かにそうだが、リカにその事を教えて来ても良いか? うっかりするとやりかねない!」
「ああ、行って来るがいい。少しなら待ってやる」
「済まない!」
夢限は極悪非道の大悪党と思っている浜岡に、それでも一応は感謝の気持ちを伝えた。浜岡の意図がやはり十分には掴めなかったが、ここは曲がりなりにも礼を言うしかない。
「リカさん、ちょっと待ってくれ!」
リカはロレーヌ国王夫妻に手招きをされて、ドアの側にいた。互いに片言の英語で話し合っている。意思の疎通が十分でない事が幸いした。彼女は錠前を手にとってしげしげと眺めていたのだった。