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恐怖の賭け(35)

「ウグッ!」

 浜岡はまた少しダメージを受けたが、前に倒れ様右足のかかとを後ろに大きく振り上げて、夢限の股間を狙った。


「クウッ!」

 体を後方に回転させて、辛うじて蹴りはかわしたが、バランスを崩して床に激突した。

「バンッ!」

 一瞬失神したが直ぐ回復し、何とか立ち上がった。浜岡も今度はさっきよりもダメージが大きかった。


「チッ! 味な真似をしやがる。しかしダメージはお前の方が遥かに大きいぞ。ソリャーッ!」

 初めて浜岡は気合を入れて、

『これできめてやる!』

 とばかりに突っ込んで来た。夢限はとっさにまだ両手に持っていた鍵を浜岡の目をめがけて投付けた。鍵はごく小さく、しかも思い掛けない事だったので、両手で払いはしたが、払いのける事が出来たのは一つだけ、もう一つは左目に突き刺さった。


「ウグアアーーーッ!」

 激痛で浜岡は絶叫した。しかし直ぐに隙の無い構えに戻し、

「ええい、邪魔だ、こんな物! ウウグウウッ!」

 突き刺さった鍵を凄まじい気合と共に抜くと、逆に今度はその鍵を持って攻撃し始めた。恐るべき精神力である。


「ウリャ、リャ、リャ、リャ、リャ、リャア!」

 猛烈なパンチの嵐だった。夢限は両腕を使って防御したが、その腕に鍵が食い込んでくる。堪らず後退した。


 更に浜岡の攻撃が続いたが、致命傷を与えられないままに、かなり攻め疲れして来た。僅かな隙が生まれたその一瞬、夢限の強烈なパンチが浜岡の顔面にヒットした。


 本来なら即死の筈だった。しかし夢限の腕は何十回も刺された鍵の傷の為にボロボロになっていたのだ。何時もの力の半分も出なかった。


「グウッ!」

 浜岡は堪らずしゃがみ込んだ。

「ウウウッ!」

 パンチを繰り出した夢限も両腕に激痛が走り思わず呻き声を上げた。立っているのがやっとの状態で、止めを刺せないのだ。それでも痛みが治まるのを待ってから、何とか歩いて行って、

「えーいっ!」

 しゃがみ込んでいる浜岡のあごの辺りめがけて右足で蹴り上げた。だがそれは罠でもあった。

「へへへへっ! 掴まえたぞっ!」

 大きく肩で息をしながらも浜岡は夢限の右足を捉えて足首を捻り始めた。そこはキングとの対戦で痛めた所である。


「どうだっ! ふふふふ、顔面蹴りは効かないぞ!」

 浜岡はキングが顔面を蹴られて、手を離してしまった事を良く知っていた。


「ウウーーーッ!」

 痛めて回復しきっていない場所を、同じ方法で攻められるのは辛い。しかもキングの時には上手く行った顔面蹴りが封じられている。夢限は激痛に思わず叫び声を出してしまった。


 必死になってもがき何とか逃れようとするのだが浜岡も必死である。両足を上手く使って夢限を逃さない。もう一分もすれば足首の骨が折れそうである。


「ウグググッ!」

 足首の激痛で夢限は次第に意識が遠くなって来ていた。体に段々力が入らなくなって来ている。

『もう、ここまでか!』

 夢限が諦め掛けたその時だった。


「お兄ちゃんのかたき!」

 意識を回復したリカが浜岡の弾き飛ばした鍵を両手に持って振り上げ、彼の右目に突き刺した。折角捕まえた夢限の足を離す事に一瞬の躊躇いがあった。その為に身をかわすのが僅かに遅れたのだ。鍵は右目のど真ん中を刺し貫いていた。


「ウガアーーーッ!」

 これは堪らなかった。左目の傷は浅かったが、リカは体重を掛けて右目に突き刺したので、深々と鍵が刺さった。脳にまで達する傷である。さしもの浜岡も激痛で転げ回った。とうとう両目が見えない状態になって、彼の敗北は決定的になったのである。


「ウウウ、ググググッ!」

 暫く苦痛の声を漏らしていた浜岡だが、やがて静かになった。


「止めを刺してやる!」

 リカは浜岡の側に寄ろうとした。

「人殺しになる必要は無い! そう長くは持たないさ。鍵が目の奥まで達しているから、脳内出血が起っている筈だ。死に行く者に罪は無い。それより人質を助ける方法とここから脱出する方法を考えよう」

 夢限はさとす様に言った。リカは渋々ながら肯いた。


「ワァーーーーッ!」

「オオーーーーッ!」

「ウオーーーーッ!」

 人質になっている者達は浜岡が倒れた事で興奮して、一斉に歓喜の声を上げた。その後、何か母国語で言っているらしいのだが夢限には意味が分からなかった。


「リカ、何を言っているのか分かるか?」

「分からないわ。英語なら少しは分かるけど、フランス語かスペイン語だわねきっと。残念だけどお手上げだわ。それはそうと、少なくとももう一人いる筈よ」

「そう言えば、東郷美千代とかいう浜岡の愛人の姿が見えないな。逃げたのかな?」

「あの突き当りの所のドアの向こうにいるんじゃないかしら? 浜岡は向こうから来たんだし」

「そうだな、それじゃあ一緒に行ってみるか?」

 リカの病状を気に掛けながらもそう言ってみた。

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